106話 誰のための戦いか
俺の知っている『神器』は4人。
幼女の姿をした女の子の天才魔術師。
性格も考え方も違いすぎるふたりの天使。
異世界転生して日本人になった元魔術師。
どいつもこいつも曲者ぞろい。
方々に大きな影響があり、彼ら個人も桁違いの実力者たち。
だからこそ『神』によって『神器』に選ばれたということだろう。
その中に、今度は『竜』が入ってきた。
「アイ様……『竜』を神が認めておられると?」
「そういうことになる」
ウルシャはアイの告白に、ショックを受けている様子だった。
そのショックは、俺にはない。
てか『竜』を知らないので、根本的にはわからない。
だから問題はそこではない。
何故、このタイミングでアイがこんなことを話したのか。
「そうか。『竜』を女の子化しようとするってことは、『神器』と戦うということになるのか」
「さすがだな。よく気付いた。つまりはそこの話に戻る」
「ん? 戻る?」
「ああ。だっておぬし、元々ケアニスに使おうって話をしてたじゃないか」
「あ……ああっ、そうだったそうだった」
「でも使わずに済んでいる。ケアニスのあの性格、というか性癖のおかげで敵対せずに済んでいる」
「……ラッキー、だったね」
「そうだ。だが、今回は違う。『竜』は違うぞ。使わざるを得ない状況になるだろう」
ケアニスと戦うかもしれない覚悟。
あれはキルケによって、俺が天使たちから狙われていたからだ。
だがそれは、ケアニスがアイの味方になったことで、キルケたちからも身を護ることができ、戦いは回避された。
「あの時は、止むに止まれず挑んだ、身を護るための戦い。今回は、ケアニスの望みから生まれた戦いだ」
「……ケアニスの協力のためには必要、とか?」
「別に『竜』でなくても構わないだろ? それこそここの椅子でもいいわけだ。『竜』を選んだ理由は、ケアニスなりにイセの『力』がどれほどのものなのか、実際に見て確かめたいという気持ち、あるだろう。だからケアニスの興味本位の部分が強い」
「だから反対したのか」
「リスクの方が高いからな」
アイはリスクを考えて反対していた。
それに加えて、もうひとつあった。
「あ、そうか。アイは他の『神器』の排除は、神になる道ではないと考えているのか」
アイは無言でうなずいて、こっちを見つめている。
「……それでも、やるか?」
自分の考えを告げ、その上で俺の判断を聞こうとしている。
これは……俺への信頼と思っていいだろうか。
「正直……今の話だけじゃわからん」
「まあ、そうだよな」
「だから、まずは『竜』を見てこよう。いや『神器』ってんだったら会いに行こう。少しでも話せれば何か変わるんじゃないか? さっきのアイの話も、もしかしたら『竜』だから乗ってくるとかあるかもしれない」
「ケアニスみたいにか?」
「そうそう」
「楽観的だなぁ」
アイは少しだけ、ほっとしたように笑った。
そしていつもの軽い調子にもどった。
「わかった。『竜』に会いに行こう」




