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105話 『神器』の仮説

「『竜』を……見に行く?」


「反対する?」


 アイはそれを聞いて、苦笑して首を横に振った。


「そこまでの覚悟があるのなら、アイも反対はできない」


「私は反対です」


 ウルシャは反対のようだ。

 そりゃそうだろう。俺が行くとなると、アイも連れていくという話になるだろうから。

 『竜』という危険な存在の前にアイを行かせることを、ウルシャが認めるわけがない。


 今までの行動は、止むに止まれずの行動だった。

 オフィリアを救うため。

 カウフマンの行動を阻止するため。

 天使から俺を救うため。

 キルケへの提案を実行するため。


 全て、アイを生かすために繋がっていた。


 だが今回は違う。


「行くのなら、イセひとりだ」


「そうしよう」


 この世界に来て、初の一人旅だ。

 それも悪くない。


「すまない、イセ」


「いや。こういう危険に、アイとウルシャを巻き込むのもどうかと思うよ」


「……ひとつ話がある」


 アイが、俺とウルシャの話を遮るように話しだした。


「これは仮説だが、この仮説を立てるというのは重要なんだ。魔法使いにとって」


「……ん? 何の話?」


「まあ聞いてくれ。魔法を構築する上で、仮説を立てるというのは重要な……過程だ」


 いきなり始まる魔法講座。

 真意がわからず、俺とウルシャはただ聞き手となる。


「こうすれば魔法が組み上がるのではないか、と考えて実行する。それを繰り返す」


「魔法には確実にできることが少ない。起こるかもしれないし、起こらないかもしれない」


「それでも、魔法はそこに必ずある。ほとんどの者が認識しにくく、またあることに気づかないものだが、必ずある」


「故に『魔』法だ。邪法とも言う。所詮は『魔』であって『正』ではない。ケアニスらが使う真力とはまったく異なるものだ」


 前にも同じようなことを聞いたことがある。

 俺が元の世界で見聞きした魔法や魔術とは違う。


 レベルがあがれば、呪文を覚えれば、契約すれば、確実に使えるようなものではないということか。

 『魔』という文字の意味をそのまま体現したかのようなものが、『魔』法ということか。


「正なるものと異なる法則を利用するのが魔法。その魔法を使う者が何故か『神器』に選ばれた。何故魔法使いたちが『神器』に選ばれたのか。アイとしては大きな疑問だった」


「そしてその真実にたどり着く前に、アイたち魔法使いは、基盤となる魔法を失い、魔法使いでいることすら困難となった」


「だから……アイはアイなりに考え、ひとつの仮説を立てたんだ。魔法を構築する際に仮説をたて、それを検証し、魔法を組み上げていく、その考えの元で導き出した仮説がある」


 ようやく、アイが語りだした仮説にたどり着いた。

 ウルシャもそれを待っていたかのように聞く。


「その仮説とは、どういったものですか?」


「『神器』が『神』になるのではない」


「っ!? そんな」


「『神器』とは『神』になる器のある者、という意味ではない。という仮説だ」


「それは、どういうことですか!? ではこの世界は……『神』のいないこの世界は……」


 ウルシャが前のめりで疑問をぶつける。

 そこまで驚くことだったのか?


「話はまだ終わってないぞ、ウルシャ」


「あっ……申し訳ございません」


「うん……あ、イセ、話についてきてるか?」


「まだなんとか。続けて」


「わかった……では、『神器』とは何か。それはもう『神器』となった時点で、神の一部なんじゃないかと」


「あ、ついていけなくなった」


「簡単に言うと『神器』全員で、たったひとりの『神』の役割を果たすんじゃないかというわけだ」


「『神器』全員で『神』?」


「まあそういうことだ。だから『神器』同士の争いを避けるのは正解だったと考えている」


「どういうことでしょう?」


 ウルシャは疑問に持つが、俺には馴染みがある。


 ひとりの王が決めるのではなく、みんなで決める民主的なもの。

 あるいは八百万の神。

 いわゆる多神教の世界だ。


「この考えに至ったのは、いろんな『神器』を見てきたからだ。アイが選ばれる前から、選ばれた後も、『神器』は多種多様だった。ほとんどは争いの果てに死んだり、『神器』ではなくなってしまったりしたけどな」


 苦笑しつつ話すアイ。


「お前たちも知ってるだろ? 他の『神器』たちのヘンテコなところ」


 お硬い天使長のキルケ。

 異世界転生してしまったシガさん。

 女の子になりたい言ってるケアニス。


 どれも確かに変だ。

 そして……意外とアイがまともだ。


「まあそういうものだ。と思えばあれらが『神器』と認められるかなぁと」


「なるほど」


 アイが自分で納得するための仮説か。


「で、なんでこの話を今したの?」


「うん、そこだ」


 アイは、にやりとした。


「イセが『竜』を見にいくと言ったからだ」


「……?」


「アイが内緒にしていることは沢山ある。そして『神器』である者たちも、いろいろなことを話していない。その中のひとつを、イセがそう言い出したことで話してみようと思ったんだ」


「『神器』全員で『神』って話か」


「それは前振り。本題はこっち」


 アイは言いながら、少しだけマジな顔を作った。


「その本題は?」


「『竜』は『神器』だ」


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