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 生徒会長の太伊と副会長の仁胡の相手を同時にしながらも他の攻略対象者への接触は抜かりない。

特待生として優秀だと周囲に証明しながら会計と庶務の二人を味方につけた。


「シークレットキャラ攻略成功率を上げるためには、会計と庶務の二人を恋愛じゃなくて、主人への忠誠心を持たせるとか本当、大変なのよね」


 恋愛感情に傾かないように、それでいて盲目的に従わせる必要がある。

ゲームでは、好感度を短期間で急激に上げると、恋愛感情ではなく、忠誠心にパラメーターが変わる。

これに気付くまでに何周したか分からなかった。


「まぁ二人は私の言うことは絶対って感じだから問題ないか。半年でここまでできた私って天才? これで王妃への道は確定したも同然ね」


 細々とした雑用を手伝うと二人の好感度は急激に上がる。

この二人は爵位が子爵家と男爵家のため、同じ生徒会でも太伊と仁胡に意見できず、生徒会以外のことも命じられている。

鬱屈した思いに共感しながら手伝うと、次第に、主がファニーなら良いのにという思いに変化する。


「でも、シークレットキャラの王子だけが、ちょっと甘いのよね。会えば笑顔で話してくれるし、ときどきお茶会にも呼んでくれる。けど、王子の婚約者の吏奈がちっとも虐めてこないし」


 学校に入ってから世話係として吏奈の兄の黎が付いていたが、攻略対象者に会うのに、四六時中、側にいては面倒なので一か月で断った。

本人の意思は尊重するが、あまり目立った行動は最悪の事態を引き起こすことを考えろと言って離れた。

ファニーとしては、小言が多い黎は、攻略対象だとしても願い下げだった。


「やるしかないか」


 入学してから半年後に、上級生が下級生を招待するというガーデンパーティがある。

そこでファニーは、肩口まであった髪をさらに短く、適当に切り落とした。

そして涙を浮かべて、招待された時間よりも遅れて会場に入る。

その様子で、何かあったと分かり、世話係だった黎は急いで駆け寄った。


「何があった?」


「それが・・・」


「黙っていちゃ・・・」


 ファニーは視線だけを吏奈に向けた。

その視線の先が妹だと分かった黎は、さらに不可解な表情をした。

ファニーに見られた吏奈もその視線の意味が分からず、首を傾げる。


 そこに太伊と仁胡がやって来て、優しくファニーを宥める。

何があったのかは一切言わずに、ファニーは溜めていた涙を零した。

慌てた周りはファニーを何とか泣き止ませようとするが、効果はない。


「・・・何かしら?」


「お前が、ファニーの髪を切ったのだろう」


 恋愛感情から忠誠心に変わっている会計と庶務は、吏奈を糾弾した。

心当たりのない吏奈は、戯言だと受け流そうとした。

証拠があったとしても今は不適切な場だと言える。

吏奈は、下位貴族の二人を守ろうと考えた。


「何のことかしら?」


「とぼけるなぁ!」


「そうだ。お前が・・・」


「止めて、二人とも! 私が、私が悪いの。だから・・・だから・・・吏奈さんを責めないで」


 この言葉だけでファニーの髪を切ったのが、吏奈だと印象付けることができた。

実際に、周りは吏奈のことを怪しみ、陰口を囁く。


「わたくしが何をしたと言うのかしら?」


「私は、きちんと試験を受けて入りました。なのに、学校で学ぶ資格はないとか、家に帰った方が良いとか、他にも・・・ううっ」


「おい」


「わたくしの名は、おい、ではありませんが、ここは、わたくしのことを言っているのだと思って返事をしておきますわ。何かしら?」


「お前のような性悪女と会話することすら虫唾が走るが、ファニーの髪を切るとは、どういう了見だ? 女が髪を切られるというのが、どれだけ苦痛なことか分かってのことだよな?」


 ファニーの言葉だけを鵜呑みにして、一度も髪を切ったのは自分だと言っていない吏奈を犯人扱いした。

確かにファニーが言ったことは、忠告として告げたことはある。


「わたくしとて女ですもの。髪を切られることがどれだけの苦痛かは、男である貴方よりも分かっているつもりですわ」


「なら! 何でこんなことを!」


「わたくし、一度も髪を切ったとは自白していませんわ。忠告として、学校で学ぶ資格はないと言いました。だって、そうでございましょう? 特待生でありながら勉学は、そこそこに婚約者のある令息と仲睦まじくされているのですもの。相手探しなら特待生ではなく、きちんと貴族令嬢として入学するべきでしたわね」


「お前! ファニーを侮辱する気か!」


 このまま穏便になかったことには、できないと吏奈は腹を括った。

その背後に騒ぎを聞いて別のテーブルにいた吏玖が駆け寄って来た。


「根拠もなく侮辱しているのは、そちらだと思いますけどね? 先輩方」


「部外者は、引っ込んでろ!」


「部外者?」


(ジョウ)! 私、分かってるから」


 突然のファニーの呼び掛けに誰もが怪訝な顔をする中、吏玖だけは怪訝な顔ではなく、殺気が籠った視線をファニーに向けた。

そんな視線を向けられる意味が分からず、ファニーは体を仰け反らせる。


「何を言っているんです? 僕の名は、吏玖です。丈ではありません」


「何を言って・・・私、分かってるのよ。脅されてるんだって。家が貧しいから養子に出されたんだって、それで吏奈さんに侯爵家に戻してやるから言うこと聞けって言われてるんでしょ?」


 攻略対象者の吏玖に対しては、養子に出されたことと、姉の吏奈に従わなければいけないことへ理解を示せば良い。

できるだけ大勢の人がいるところで宣言するのが、好感度を上げるのに効果的だ。


「我がサンズ家が貧乏だと言うのですか? ならさぞ財政が潤っているのでしょうね? エイセル子爵家は」


「えっ? サンズ家?」


「何度か顔は合わせてましたけど、そちらが名乗らないので、こちらも名乗らなかったのですが、まさか名前も知らない相手に話しかけていたとは思いも寄りませんでした」


「えっ? どういう・・・」


「それに・・・確かに僕の名前の候補には、()はありましたけど・・・・・・どうしてそれを貴女が知っているのですか? 兄上や姉上ですら知らないことなのに」


 ここに来てようやく、攻略が失敗していることに気付いた。

助けてもらおうと周りを見るが、遠巻きにするだけで、太伊や仁胡も視線を合わせてくれない。

完全に孤立したとファニーが悟ったときに、王子の声が聞こえた。

それは、ファニーが望む言葉ではなかった。


「何か、重大なことが起きたようだね? この場は私が預かろう。吏奈、それで構わないか?」


「構いませんわ」


「・・・姉上がそう言うなら」


 視線を向けられた吏玖は渋々、答える。

給仕係にファニーは座らされて、王子の掛け声とともにガーデンパーティが始まった。


「ファニー・・・と言ったな。そう怯えるな。悪いようにはしない」


「えっ?」


「その()()を王家に役立ててもらえれば、解放しよう」


「知識?」


「あぁ。持っているのだろう? 過去と未来を見通す力を」


「そんなの・・・持って・・・」


「持ってないなどと嘘を吐くでないよ。そうでなければ、生徒会の彼らの心の憂いを正確に読み解くことができないだろう?」


 ネットで一度だけ読んだゲームのバッドエンドに城の地下で永遠に飼われるというものがあった。

これはシークレットルートを失敗したときのエンドだが、詳細は書かれておらず、ヤンデレを発揮した王子の愛妾になるものだと勝手に解釈していた。

書き込みでも同じように考えていた人は多かった。

ある意味では、ハッピーエンドとも受け取れて、コアなファンからは人気のエンドだった。


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