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 白い何もない空間にいることが分かり、辺りを見渡しているときに声は聞こえた。


「やぁ」


「誰?」


「神様だよ。君が死ぬのはもう少し後のはずだったんだけど手違いで死んじゃったから何かお詫びをしようかと思って」


「なら生き返らせて」


「それはできないよ。死者を蘇らせるのは神様にもできないよ」


「・・・・・・」


「ただ別の世界に転生させることはできるよ」


「・・・・・・」


「今、流行ってるんだよね? 何だっけ? 異世界転生? 逆はーえんど?」


「転生した先で死んだらどうなるの?」


「その死が定めによるものならそのまま記憶が消えて新しく産まれる。どの世界で産まれるかは分からないけどね」


「その定めがころころ変わる場合は?」


「それでもだよ。今回、君が死んだのは本当に手違いなんだ。本当は事故を起こしたトラック運転手のはずだったんだけど、書類の不備で君になってしまった。だからお詫びをしたいと思っているんだよ」


「なら、ゲームの世界でも転生できるの?」


「ゲームの世界というのは厳密には不可能だけど、君が望むゲームの世界と同じ設定の世界にならできるよ。世界は無限にあると言えるから」


「帝国パラダイスってゲームの世界はあるの?」


「ちょっと待ってよ。て、て、て、ぱ、ぱ、ぱ、ぱ、ぱ。わりと最近できた世界だから色々と不安定だけど問題ないよ」


「そこのヒロインに転生したいんだけど」


「転生したら魂が定着するまで記憶の混濁があると思うけど落ち着いてね」


「分かったわ」


「本当にごめんね。僕、おっちょこちょいだから。よく同僚にもしっかり書類を確認しろって言われるんだよ」


「へぇ」


「ハンコを押す前にももう一度確認しろって。一に確認、二に確認、三四がなくて、五に確認ってね」


「へぇ」


「これでよしっと。じゃぁねぇ」



*****



「間違ったって何よ」


 もう一度、呟いて目を閉じた。


「同僚にあれほど確認しろって言われたんでしょ」


 答えは無いが言わずにはいられなかった。

たとえ間違いでも今の自分は瑠花=サンズであり、何番目かは分からないが妊娠している状況なのは間違いなかった。

どんな状況でも産まれてくる子に罪はない。


「たしか瑠花=サンズって悪役令嬢の母親よね? しかも離縁されて実家に帰った」


 冷静になればゲームの人物の背景は記憶にある。

思い出せたということは定着が順調に進んでいるということだろう。


「いったい今はいつのときなの? 悠長にベッドで寝ている場合じゃないわ」


 ベッドから下りて部屋を出ると何か手掛かりになるものを探しに出た。

廊下を歩いている瑠花の姿を見て顔を強張らせた侍女を無視して屋敷の奥に進む。

間取りについては記憶に無いから適当に進むしかない。

鬼気迫る様子の瑠花に話しかけることを恐れた侍女は道を開けるが、その背後で同じく鬼気迫る様子の執事が迫っていた。


「奥様! すぐにお部屋にお戻りください。お腹のお子に障ります」


「多少歩いたところで問題ないわよ!」


「いけません。お医者様に出産までは歩いてはならないと言われておりますでしょう。今すぐにお部屋にお戻りください」


 このまま歩こうとしても取り押さえられると考えて仕方なく部屋に戻った。

歩いているだけなのに周りは一喜一憂している。


「奥様、何かご入用でございましたらベルをお鳴らしください」


「そうね。何か暇を潰せるものを用意して」


「かしこまりました」


 そう言って用意されたのは貴族の婦人たちが読む雑誌と刺繍だった。

刺繍には見向きもせず雑誌を手に取った。

ここがゲームの世界の設定を持っているということで文字は日本語だった。


「それでは失礼いたします」


 この調子だと本当に出産までは部屋と言わずベッドからも出してもらえなさそうだ。

妊娠していても多少動くことは健康に良いと言われる中、この世界では動かないことが常識のようだった。


「と言っても雑誌に書かれている日付を見ても分からないのよね」


 何か分かるものがあるかと読み進めるうちに不思議なことが書いてあった。

どこそこの公爵家の当主が新しい事業を始めた。

どこそこの伯爵家では泥沼離婚をした。

感覚としては芸能人のゴシップ記事に近い。


「妊娠の心得?」


 よく食べて安静にすることと甘いものを多く摂ることなど、今では間違いであるということが書かれていた。


「ゲームの設定なら正しいのにしとけばいいのに」


 つわりがあるということは妊娠前期になる。

もちろん激しい運動はだめだが、まったく動かないというのも体に悪い。


「よし」


 用があれば呼べと言っていたのだから遠慮なくベルを鳴らす。

勝手に出歩いて大事にされるのは本意ではない。

曖昧な知識で貴族の妻というものが、どういった存在かと言えば夫が禁止すれば妻は従うしかない。

使用人も夫の方を優先するだろう。

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