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 白い光沢を持つ真珠の首飾りを羨ましそうに眺める。

希少過ぎて現物を見たことすらない白真珠が多数、使われているのだ。

欲しくないわけがなかった。


「お披露目、というと、まだ売っておりませんの?」


「見つかったのが、最近でまだ数がありませんの」


「そうなのね。それで物は相談なのだけど」


「あぁマダム! そのようなお顔をなさらないでください。わたくしはマダムとは仲良くさせていただきたいと思っていますわ。もちろん皆様とも。だから、もう少しだけお時間をくださらない?」


「えぇえぇ! もちろんよ。急かすような真似をしてごめんなさいね」


 これでここにいる婦人たちが行く先々で白真珠の話をしてくれる。

希少な物が手に入ると喜ぶなか、白真珠であるとお墨付きをしてくれた東方国出身の婦人だけは浮かない顔をしていた。


「少しお話をしてもいいかしら?」


「えぇ、瑠花様」


「わたくしは、黒真珠の価値を下げるつもりはないの。だから白真珠を買ってくださらない? わたくしたちでは真珠の加工ができそうにないの」


「そういうお話でしたら主人に話しておきますわ。瑠花様がお話の分かる方で良かったです」


「わたくしもよ。これが白真珠だと証明してくださったもの」


 今までゴミとして捨てていた石が金に化けた瞬間だった。

そのおかげで、毎年支払っている金貨五千枚を簡単に手に入れることができた。

何も知らされていない瑠偉は高位貴族からの購入依頼に戸惑いながらもシャムリートと共に話をつけていく。

シャムリートは瑠花が何かをしようとしていたことから、それほど動揺することなく対応した。


「・・・瑠花」


「何でしょう? 旦那様」


「一体、これはどういうことだ?」


「どうもこうも巨万の富を産む石をゴミのように捨てていたので適切なことをしただけですわ」


 捨てていた石が高価なものだと知って養殖運営の者も売り出そうとしたが、そのルートも無いため二束三文で買い叩かれている。

さらに今まで食用として卸していたところと手を切ったため一瞬にして赤字になっていた。

可哀想なので、残りの四分の三を食用として買い、真珠を売るということにした。

真珠を取ったあとの身は食用にできるから利益は上々だ。


「だが、こんな急に」


「何が価値あるものか。分からないものですわ」


 金策で忙しかった今までと違い、真珠を買い求める依頼書で忙しくなっていた。

このまま借金を返す目途が立てば、黎に安心して当主を任せられるようになると安易に考えていた。

執務室から瑠偉が別の意味で出て来なくなったころに様子を見に来た寿衣とサロンで話をしていた。


「まずは良かったですね。姉上」


「ありがとう。色々教えてくれたおかげよ」


「これで瑠偉義兄さんも当主として目覚めてくれると良いんですけどね」


「そうね。それはそうと、どうして瑠偉のことを義兄さんと呼んでいるの?」


 瑠偉と寿衣が親しいという噂は聞かないし、むしろ寿衣が義兄さんと呼ぶたびに何か別のものが含まれている。

仲のいい義兄弟という感じはまったくなかった。


「それはですね。嫌がるからですよ」


「はい?」


「公式には子爵家の養子です。そんな男から親しげに義兄さんなどと、侯爵家の嫡男が呼ばれるなど屈辱の極みではありませんか?」


「そうなのね。と同意はなかなかできないものがあるのだけど」


「まぁ少しは見直してもいいですよ。姉上と侍女頭を天秤にかけて、姉上を選んだのだから及第点です」


 捻くれた愛情なのかもしれないが、性格も悪い。

こんなのが叔父となると、子どもに影響しそうだった。


「黎の前では、大人しくしてね」


「もちろんですよ。姉上の望みとあらば叶えないわけないではありませんか」


「はぁ、不安だわ」


 仲良く話をしているところに瑠偉が乱入して来た。

普段ならそんな暴挙に出ることもないが、忙しいところに色々、重なったのだろう。

瑠花の腕を掴むと寝室へと引きずった。

さすがに危険だと寿衣も思い、後を追う。


「きゃぁ」


「いい御身分だな。浮気相手を堂々と屋敷に入れるとは」


「浮気相手?」


「とぼけるな!」


 感情のまま平手打ちをしようとしたところ後ろから寿衣に止められた。

腕を掴むのが誰かを確認したところで顔に見覚えがあった。


「お前は」


「そこまでですよ。瑠偉義兄さん」


「義兄さんなどと呼ぶな」


「・・・前言撤回しますよ。見直すどころか見下げる方にします」


「お怪我はありませんか? 瑠花様」


「シャムリート・・・」


 主の寝室に許可なく入ることはできないが、瑠花を守るためという名目でシャムリートも入った。

シャムリートの主は瑠花であるから、おかしいことではない。


「お前は実の弟と浮気していたのか」


「そんなわけっ」


「それは姉上に失礼ですよ」


「ふん、どうだかな。いきなり殊勝な態度をするようになったからな。大方、帰る家もないから媚を売っているのだろう」


 黙って聞いていた瑠花が思い切り、瑠偉の頬を叩いた。

きれいな音が響き、頬には赤い手形が残った。


「殊勝な態度で悪かったわね。もういいわよ。出て行ってやる」


「ふん、勝手にしろ」


 たっぷりと沈黙があってから寿衣が口を開いた。

シャムリートは乱れたシーツを直している。


「いいのですか? 収益が上向いたとは言っても経験もない領主ではすぐにまた借金ですよ」


「何を言っている? シャムリートがいる」


「いえ、もし瑠花様が出て行くのなら私も出て行きますよ。この家の財政状況は立て直し甲斐がありますが、雇い主はイザード家であり主人は瑠花様ですから」


 何を今更、言っているのだという顔でシャムリートは答えた。

紹介をされたときに実家から連れて来たということを聞いた気がした。

さすがにシャムリート無しで領地運営ができると楽観視できるほど頭は悪くない。


「なら、姉上を説得するのことですね。瑠偉義兄さん」


「義兄さんと呼ぶな」


「その願いを叶えて欲しければ、姉上と離縁すれば叶いますよ」


「ふん」


 負け惜しみのような返事をしてから瑠偉は説得のため瑠花のもとへ向かった。

シャムリートは寿衣の考えを心得たとばかりに瑠偉の後を追った。


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