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 瑠花はこの世界がゲームの世界であることを話した。


「まず、この世界はゲームの世界なの」


「ゲーム・・・ですか? ボードゲームとかカードゲームとか、とは違いそうですね」


「そうね。物語の世界と言った方が通じるかしら?」


「それなら分かりますね」


 瑠花のために果実水が用意されている。

実家でも妊婦のための食事は用意されたが、瑠花が全部にダメ出しをしたため改善されていた。


「すべては話の筋道が決まっていてヒロインは王子様と恋に落ちる」


「そのヒロインが姉上ということですか?」


「違うわ。私はヒロインを邪魔する女の子の母親役よ」


「・・・・・・遠いですね」


 台詞もない端役ですらない傍役だった。

そして、寿衣には言えないが、寿衣は名前すら出てこない端役だ。


「私の子どもは三人、長男はヒロインの恋を助ける役、長女はヒロインを邪魔する役、次男はヒロインともしかしたら恋に落ちるかもしれない役」


「あの義兄さんとあと二人、子どもができるんですね。考えられないな」


「しかも年子よ」


「ますます考えられない」


 実家への里帰りは<落ち人>になったあとの瑠花がした行動ではあるが、あのままサンズ家にいても子どもができるような気はしなかった。

寿衣としては物語ならば、もう少しだけ愛情が互いにあってもいいのではないかと無駄なことを考えた。


「跡継ぎを必要として早めにとは考えられない?」


「だとしても、二年は開けますね。あまり年が近いと、どちらを跡継ぎにするか揉めることもありますから」


「あと、次男のことなんだけど」


「何か問題でも起こしたのですか?」


「いや、その、産まれてすぐにね、養子に出されているの」


 養子というところに寿衣は気にしていないと言っても思うところはあるはずだ。

瑠花は言い淀んだ。


「なるほど、養子ですか。まぁよくある話でもありますね。次男が年近く産まれたときは親族の子どものいないところに出すのも一般的ですし、今のサンズ家の状況を見れば、三人の子どもを育てるほどの財源があるとも思えませんから妥当な判断ですね」


「そういうものなの?」


「そういうものですよ。庶民でもお金が無いからと言って子どもを修道院に預ける親がいますし、貴族は面子を重んじるので養子となっていますが、大抵の養子は公の人身売買ですよ」


 寿衣はモンド家の奥方が連れて行ってしまったので、人身売買ではなく状況は誘拐だ。

それに寿衣が本気でイザード家に戻りたいと言えば戻れただろうから大事にはなっていない。


「人身売買」


「まぁ養子先の家も金はあるけど家柄はないという場合があるので、金で血筋を上げるという意味もありますね」


「そう」


「言い方は悪いですけど、どの家もきちんと養育していますし、むしろそのまま家にいるよりいい暮らしをしている者がほとんどですよ」


「そうなのね」


「そうなんです。それで姉上のお話からすると順番は男女男で産まれるんですよね」


「えぇそうよ」


 今は目の前の説明をすることに集中しようと切り替えた。

簡単な説明で寿衣は現状をある程度、把握したようだった。


「まだ何かありそうですね」


「っ」


「そうでなければ、産まれてくるかもしれない子のことで気にすることないでしょう」


「えっと、ヒロインと王子様の恋を邪魔するって言ったわよね」


「えぇ」


「その邪魔したことが王子様の逆鱗に触れて、処刑されてお家も断絶するの」


 貴族として年子で三人という子どもの年齢だけも信じられないのに、ただ恋路を邪魔したというだけで処刑され家まで潰れるというのは信じられなかった。

寿衣の目には瑠花を可哀想なものを見る感情が宿っていた。


「そんなことがこれから起きると? ありえないですね。そんな私情で処刑とか、まぁ生命の危機くらいになれば処罰はあるでしょうが、一介の侯爵家令嬢を処刑となると大変ですよ」


「そういうもの?」


「そういうものです。まぁもし、そうなるとすれば解決策はひとつ。このまま離縁して別の男のところに嫁いで子どもを産めばいい。そうすれば未来は変わる」


「そうなのよね。でも長男が苦労しない? だってサンズ家は借金まみれなのよ?」


「それもどうにかしたいということですね。なら次男を妊娠するまでにサンズ家の借金問題を解決してはどうです? 次男を養子に出さないだけでも大きく未来は変わると思いますよ」


 本質的に頭がいいのだろう。

寿衣は限られた情報で今から変えるのに簡単なことを示した。


「二年やそこらで変わるかしら?」


「シャムリートを連れて行けば可能ですよ。彼は執事学校でも優秀でしたから」


「執事学校?」


「仕える主人のために簡単な領地運営やもし財政が傾いたときなどの対処法を学ぶところですよ」


「執事になる者は全員、通うの?」


「任意・・・というところですね。通うのは親が執事をしている者が大半ですが、授業料が高めなので、給金の安い執事の息子では通えないでしょうね。その間は執事見習いとしての給料も無いですから」


「サンズ家の執事は通っていないということかしら?」


「他家の執事事情までは把握していませんが、もし通っているのなら、あそこまで傾きませんよ」


 執事には主が間違った判断をしたときに諫めることも仕事としてある。

その匙加減は難しいが、家を傾かせないためには必要な処置だ。

そのことがサンズ家の当主と執事にはない。


「私がシャムリートを連れて帰って変わるかしら?」


「変わりますよ。もし可能なら俺がシャムリートを執事として迎え入れたいくらいなのですから」


 寿衣のお墨付きをもらったシャムリートを連れて瑠花はサンズ家に帰る準備をする。

だが、待てど暮らせど、瑠偉が迎えに来る様子は無かった。

そのまま臨月を迎え、瑠花は実家で元気な男の子を産んだ。

そのことを知ったサンズ家前当主夫妻は意気揚々とイザード家に現れた。


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