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 冷え切った家庭がさらに冷たくなったときに子爵家夫妻はイザード家のパーティに呼ばれたのだろう。

普段は侯爵家のパーティに子爵家が呼ばれることは親族でもない限り無いが、奥方の落ち込みようは気にかかるところもあり招待した。


「当時、養母は子どもを死なせたとして離縁されることになっていました。跡継ぎは必要でしたからね」


「寿衣、貴方のような養子を貰う形ではだめだったの?」


「養子で良いのなら二十年も子どもがいないとはならないですよ。養父が自分の血を引いた子どもであることに固執していたんです。だから余計に風当たりが強かった。愛人を何人も囲っていたのはそのためですね」


 愛人に子どもができれば養子にしただろうが、それも叶わないままだった。

そんなときに離縁しようとしていた妻が侯爵家の次男を誘拐同然に離さない。

面倒なことになったとして離縁への気持ちは更に加速した。


「侯爵家のパーティで騒ぎを起こしたとして養母は罰せられるところだった。そこに実母は欲しいのならあげるわと言って場を騒然とさせた」


「お母様らしいわね」


 子どもへの愛情というものを持っていないからいなくなっても特に困らない。

そんなに欲しいならどうぞと犬猫の子を差し出す感覚で言ったに違いない。

自分には長男と長女がいるから跡継ぎには困らないし、もし何かあればまた産めばいいと考えていた。


「自分の血を引いた子に固執していた養父も侯爵家の子を養子にすれば侯爵家と縁戚になれるし、新しい事業も上手くいくと考えて養子とすることに同意した」


「そう」


「養母が落ち込んでいたから、実母があげるわと言ったから、そんなことで養子に出すのは問題かと思いますが養母は我が子のように育ててくれましたよ」


「子爵家夫人は寿衣が我が子ではないとご存じなのね」


 そのまま心を病んで実の子だと思ったままなのかと思えば寿衣の口ぶりでは違うように聞こえる。

だが寿衣のことを里樹と呼んだままだというのは不思議なことだった。


「寄宿舎に入る年でしたね。我が子が死んだことをようやく受け入れることができて、私が養子だということも理解しましたよ。だけど私は侯爵家に戻るつもりはありませんでした。今もですけどね」


「それはどうして?」


「侯爵家次男として入り婿で肩身の狭い思いをするくらいなら子爵家当主となり家を大きくする方が楽しいからですよ」


「あら、そう」


 思っていた以上に現状に不満を持つことなく受け入れて楽しんでいるようだった。

強かさで言えば、燈埜よりも侯爵家に向いているかもしれない。


「それに実父は教育に関しては、兄上や姉上と変わらないものを施してくれましたから侯爵家当主になろうと思えばなれますよ。一度だけ兄上と私を交換しようかと酒に酔って言ったことがありますし」


「お父様らしいわね」


「息子としては認めていただいていますから侯爵家への出入りは、自由でしたので困ることもなかったですね」


「そう。それで、思い出したのだけど、さっき『そうすれば』と言っていたのは何だったのかしら?」


「そうすれば・・・あぁ、姉上が当主になれば、の続きですね」


 寿衣が特に姉に恨みを持っているようではなく、養子であることも納得しているのなら言葉の続きが分からない。

養子に出されたことに不満があるのなら、侯爵家を乗っ取ってやるとでも考えられるが違う。

今のうちに聞けるだけ聞いておく。


「続けようと思ったのは、そうすれば、我がモンド家と貿易ができるのに、と思っていたのですよ」


「・・・そう」


「でも良かったです。姉上とこんな風に()()()話せて」


「初めて?」


 思わず呟いてしまった。

その言葉を寿衣は聞き逃さず、そして優しい笑顔を消して無表情になった。

今更、失言を悔いても仕方ない。


「えぇ初めてですよ。顔合わせるのも話をするのも」


「そうだったわね」


「誤魔化せると思いますか?」


「思わないわね」


「<落ち人>ですね。それも最近のことですね」


 寿衣は間違いなく侯爵家の子どもだ。

この勘の良さは血の繋がった父親ゆずりだ。

この能力が燈埜に十分の一でも受け継がれれば良いものを残念ながらない。


「いつ分かったの?」


「確かに顔を見せないようにしていましたが、姉上のことを知らないわけではありませんよ。結婚して妊娠して変わったのかと思ってはいました。だが、それにしても変わりすぎていた。それでも無能なフリを止めた姉上ならあり得るかもしれないと思ったところに、先ほどの失言ですよ」


「それがなければ瑠花を姉だと思ったままだったということね。失敗したわ」


 少しだけ気を抜いた結果があっさりと見抜かれるという事態を引き起こした。

<落ち人>が王族にしかいないということで隠すということに落ち着いたが、この調子でばれてしまっては前途多難だった。

幸い寿衣は言いふらすということはしないと分かっていることが救いだ。


「貴女には悪いですが、姉上は<落ち人>で良かったと思いますよ」


「えっと」


「・・・ふっ、寿衣で構いませんよ。今まで会話をしたことがないので、貴女が姉のようなものですから。今まで通り姉上とお呼びしても?」


「えっえぇ」


 <落ち人>というのが珍しくないと言っても受け入れるのに時間はかかっていない。

そう簡単に受け入れられるものなのだろうか。


「姉上は優秀でも兄上がいる限り当主にはなれない。それなら一層のこと別の世界に行った方が幸せかもしれませんよ。<落ち人>は人の情というものを受けにくいですから」


「そうなの?」


「<落ち人>については、またゆっくりお話ししますよ。今日は姉上が出戻りをしたので見に来ただけですので」


「そう。ありがとう」


「それと実母、母上には会わない方がいいですよ」


「どうして?」


「貴族夫人を絵に描いた人だからですよ。おそらく姉上を見ても相手にしないですね」


 社交界やお茶会では友好的に笑顔で会話をするが家では、その必要性がないとばかりに会話もしない。

一度だけ寿衣は挨拶をしたことがあった。

そのときには、家で貴方と話すことで侯爵家に何か益があるのか?と言われ、会話をすることを諦めた。

子どもとの会話も得になるか損になるかだけで考える。

寿衣を養子に出したのも侯爵家としては損にならないというだけの判断基準だ。


「よく分からないけど、会わなければいいのよね」


「えぇ、お願いします」


「ありがとう。今日はこれくらいにするわ」


「次は手土産を持って来ますよ」


 寿衣の忠告通りに母親には会わずに過ごすことにした。

母親の方は必要が無ければ部屋から出ないし、出たときはお茶会に招待されているときだけで会わないようにするのは簡単だった。

夫である瑠偉が迎えに来ることなく一週間が経とうとしていた。

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