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お嬢様なんて柄じゃない  作者: スズキアカネ
さようなら、私。こんにちは、エリカちゃん。

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好き勝手言ってくれちゃって。エリカちゃんを何だと思ってんだあんたら。


「この時間を使って、5月後半に行われる体育祭の種目選びをします」


 体育祭。

 その単語を聞いた私は脳天に雷が落ちるような衝撃を受けた。根っからの体育会系の私にはウキウキする響きである。

 …しかし、今現在バレーのインターハイ予選に向けて肉体強化中で、膝は経過観察中。あまり激しい運動は出来ないのだ。

 私は頭を抱えてうなだれた。何故こんなタイミングで…! うぅ…思いっきり走りたい…ていうかバレーがしたい…!! バレーが出来なさ過ぎて最近、禁断症状で手が震えている気がする…!

 実行委員が口頭で説明をしながら黒板に出場競技を書き連ねていく。私はそれにざっと目を通したのだが、とある競技で目が止まった。


「…仮装リレー?」

「あぁ二階堂様は去年参加できませんでしたものね。中等部ではなかった種目もあって盛り上がりましたのよ」


 私のボヤキが聞こえたのか、前の席に座っている阿南さんが教えてくれた。

 そうそう、去年事件直後だったから体育祭参加できなかったんだよ。盛り上がるなら楽しみだな。でもリレーは今の状態だと無理かなぁ…


「へー…あ、玉入れいいな。あんまり動かなくて…移動式玉入れ?」


 よくある競技に趣向を凝らした種目がある。もしも足がなんともなかったら、あそこの下駄徒競走とかも出場してみたかった。楽しそう。

 とりあえず激しく動く必要がなさそうな玉入れに立候補してそれに決まった。移動式玉入れは、玉を入れるカゴを持った人が縦横無尽に移動していくから、それを追いかけてカゴに入れないといけないらしい。でもそのくらいなら大丈夫だろう。

 あー…リレーとかに参加したかったなぁ。


 クラスメイトも続々出場種目が決まっていた。英では学年ごとの出し物はなくて、ブロックごとの個人種目だけみたい。それと花形の騎馬戦とか組体操は危険だからやらない方針のようである。

 ……ちょっとつまらないなと思ったのはここだけの話。



 私は相変わらず部活ではストレッチと筋トレを続けている。ここ最近では身体がかなり柔らかくなった自覚がある。

 まだ医者にもコーチからもバレーの許可は下りていない。…とてもつらい。下半身に筋肉ついたと思うんだけどなぁ。


「二階堂さぁぁん」


 とある日の放課後、部活真っ最中の私の耳に届いたのは瑞沢嬢の涙声だった。

 瑞沢嬢は帰宅部なのになんでこの時間まで学校にいるんだろうか。筋トレを中断して振り返ると、そこには鼻水と涙を垂れ流した彼女が迫っていた。瑞沢嬢の顔の下半分は色んな水分で濡れてテカテカ光っている。


「ちょっ、うわっ」


 ガバァ! と抱きつかれた私はチベットスナギツネ顔になった。今度はバレーの練習着に鼻水をつけるかこの女…


「うっ、二階堂さん、そんな事ないよね? 二階堂さんはそんな事してないよね?」

「はぁ? そんな事って何を?」

赤城あかぎさんはっ、二階堂さんが指示したって言うけど、二階堂さんはそんな事しないよね!?」

「……だからそんな事ってなんだよ」


 何が原因で泣いているのかを言わない瑞沢嬢にイラッとしたのでちょっと声が低くなったのは否めない。いきなりやってきて、人の服に鼻水を付けて、理由も言わずに泣きじゃくられると困るわ。

 瑞沢嬢は涙とか鼻水に塗れた顔のままで私を見ると、悲しそうな顔をした。


「…ヒメの悪口……赤城さんに二階堂さんが言ってたって教えられたの…」

「…赤城って誰?」

「…知らないの? じゃあ二階堂さんはなにもしていないのね? だよね、そうだよね」


 なんか勝手に納得してホッとしているけど、こっちはまだ理解できていない。私は全く状況が把握できてないんだけど。

 赤城って誰。そんな事ってなんだよ。


「瑞沢さん、一から話してくれない? 状況がよくわからないんだけど」


 瑞沢嬢はようやく私がイラついていることに気がついたのか、鼻を啜りながら説明を始めた。

 説明が途中で脱線したりして、全貌が明らかになるまで時間がかかったけど、どうやら瑞沢嬢に嫌がらせをする人が再び現れ、その実行犯は主犯が二階堂エリカであると口にしているそうだ。

 上杉は悪行が私にバレて以降、多分…恐らく、メイビー…何もしてきていないと思う。

 以前エリカちゃんを隠れ蓑にして嫌がらせをしていた、瑞沢ハーレムの一員・速水氏の婚約者である礒川さんは…廊下ですれ違うと、こっちをビクビクして見てくるので、まだ抑止できていると思われる。


 私が懸念していた通り、エリカちゃんに濡れ衣を着せようとしている人物はまだまだ存在したらしい。瑞沢嬢は赤城という人物から「二階堂エリカが瑞沢姫乃の噂を改悪して流している」と忠告されたそうだ。

 以前から瑞沢姫乃は尻軽だとか、言葉悪いけどビッチだと陰で揶揄されていたが、それを流しているのがエリカちゃんということになっているんだって。

 今回は「略奪女と仲良くしたくないと二階堂エリカが言っていた。あなたのことが気に入らないって言っていた」と告げ口されたらしい。


 …うん、真実じゃん? 私は瑞沢嬢と仲良くする気一切ないよ? 気に入ってもいないよ?

 そう言ったら瑞沢嬢がギャーンと泣き出した。もー…やかましいなぁ。

 だいたい小学生じゃないんだから、告げ口してくる人間の話を鵜呑みにしないの。もしかしたら告げ口してきた相手に悪意があるかもしれないじゃん。

 そう諭したんだけど、瑞沢嬢は私にへばりついて「やだやだお友達だもん! そんな意地悪言わないでよぉ!」と私に抱きついて訴えてきた。…私の話聞いてる?

 なんなのこの人。いつ私があんたとお友達になったというのよ。エリカちゃんの傷を私は忘れてはいないんだからね…!

 もーうざぁいこの人。とうんざりしながら体育館の天井を眺めていると「あれ…?」と瑞沢嬢が何かを思い出したように呟いた。


「…じゃあ、今までのことも嘘だったっていうの? 私の物を壊したのとか、皆で無視したり、連絡事項をわざと教えなかったのも…それを指示したのが二階堂さんって赤城さんに言われてきたけど…」


 よくわからないけど…その言い方だとだいぶ前からあったってことか。 

 今更だけど、入学して1ヶ月で略奪ってすごい流れだよね。入学式の時に宝生氏その他メンズと知り合って? 瑞沢嬢をよく思っていない人が陰で攻撃してきて? 複数の人物がエリカちゃんに濡れ衣着せて? ゴールデンウィーク後の5月に婚約破棄? …早い。そう考えると瑞沢嬢はすごいな、ひと月で男を虜にしたのか。それは素直にすごいと思う。褒められたことではないけど。


 その赤城って人間がどんな人物でどんな目的があるのかは知らない。でも要注意人物だな。

 まだよくわからないことがあるけど、今は瑞沢嬢の相手している暇はない。とっととお帰り願うと、私は筋トレを再開した。



■□■



 あの後、私は暇さえあれば考えた。

 エリカちゃんを陥れようとした人物たちが何を目的にしているかは置いておいて、去年エリカちゃんがこの学校で宝生氏から濡れ衣を着せられて婚約破棄されて、傷心のまま隣市のあのバス停に降り立ったのはその事が積み重なった結果なのだろうと。

 これが重ならなければ、エリカちゃんはあのバス停に現れることはなかった。私がエリカちゃんの身体を借りることも、もしかしたら私が死ぬこともなかったのかもしれない……

 もしもなんて考えた所で生き返るわけもない、時間が戻るわけがないのだけど、つい考えてしまう。


 エリカちゃんはその時、何を思っていたのだろう。



「そんな事ないっ! 二階堂さんはいい人だもの! ヒメのこと助けてくれたもん! ヒメは二階堂さんを信じるっ」


 教室でボケーッと考えていたら、廊下の方で聞き覚えのある声がヒステリックに騒いでいた。

 なんだまたいさかいですか…

 私は食傷気味である。たまには私に平穏をくれないか。

 自分も巻き込まれ当事者のようなので、席を立ち上がって廊下に出ていくと、瑞沢嬢がひとりの女子生徒と対峙していた。

 周りに野次馬をしている生徒達がいるが、彼らも状況がよくわからないようである。


「…今度は何なの」

「二階堂さん! 赤城さんたらひどいのよ! 二階堂さんは信用ならないから話を信じちゃ駄目だっていうの!」

「へーそうなん」


 瑞沢嬢の前にいた女子生徒に私は目を向けた。

 …この人が赤城か。ロングヘアなのがエリカちゃんと同じだ。肌が白くて、可愛らしい子だけど、私としてはエリカちゃんのほうが可愛いと思う。

 赤城嬢は私の登場に一瞬眉を顰めた。彼女はすぐさま表情を取り繕ったが、私はそれを見逃さなかった。

 はっきり、エリカちゃんに対する悪意を感じ取った。


「…人聞きが悪いわ。私はただ忠告してあげたのに。…今まであなたをいじめてきたのは全てこの女が仕組んだことだと教えてあげているのよ?」

「そんな事ない! 二階堂さんがそんな事する訳ないもん。二階堂さんは、正面切って意見を言ってくれる人だもん! 裏でコソコソするような卑怯な人間じゃない! 赤城さんがなんと言おうと、ヒメは二階堂さんを信じる!」


 ははーん。大勢の前でエリカちゃんの名誉を傷つけるパターンですか。私は無意識に腕を組んでいた。

 こういう場合って周りの観衆はどう感じるのだろうか。証拠がなくとも声を上げた方の言い分を信じてしまうものなのだろうか? 


「…証拠は?」

「はっ?」

「私が、二階堂エリカがそれをしたという証拠はあるの?」


 ここで否定したとしても、やったやってないの水掛け論になりそうなので、確固たる証拠を求めてみたが、彼女は忌々しそうに顔を歪めていた。


「証人なら探せばあちこちに!」

「証人じゃなくて証拠を求めているんだけど? 証人じゃ虚偽の証言されてしまう可能性が出てくるし…その証人を脅したり、金を握らせて嘘の証言させたら色んな罪になるけど、その辺りは大丈夫かな? 私、泣き寝入りはしてやらないよ?」


 私はエリカちゃんと違って優しくないんでね。やる時は徹底的にやるよ! エリカちゃんに牙を剥くなら叩き潰しちゃうよ!

 私が赤城嬢を問い詰めるためにじっと見つめていると「姫乃! …またエリカお前か!」とやかましい声が聞こえてきた。

 …宝生氏うるさい。邪魔だから黙っててよ。


「倫也君!」

「姫乃どうした、エリカになにかされたか」

「宝生氏、大概にせぇよお前」


 エリカちゃんを見ると疑う癖、いい加減に止めようか。少々口汚くなったのは大目に見てほしい。イラッとしたのだもの。

 瑞沢嬢は悲劇のヒロインよろしく宝生氏の胸に飛び込んでいた。全くもう…人を巻き込んでおいて何処までお花畑なんだか…

 これが彼らの通常運転だと無理やり思いこんで、もう一度赤城嬢に目を向けると……彼女は、瑞沢嬢をキツく睨みつけていた。


「……?」


 さっきとはちょっと違う。……この目、何処かで……

 あぁ、加納ガールズが私に向けてくる視線に似ている……嫉妬の眼差し? 宝生氏と親密な瑞沢嬢に向けるそれは、妬みかな? エリカちゃんの悪い噂を流そうとしているのは…宝生氏の婚約者だったから?

 今、エリカちゃんの立場を貶めようとしている理由がよくわからないけど、つまりそういうことだよね?

 彼女は宝生氏のことが…

 

「……もしかして、赤城さん…この宝生氏が好きなの? それで婚約者だったエ…私を妬んで、いじめの首謀者に仕立てたってわけ?」

「…!?」


 ぽんっと口から出ていたその言葉。ぶっちゃけここが廊下だとか、周りに人がたくさんいるとか、すっかり忘れていた。

 私の問いに、彼女はわかりやすい反応を見せてくれた。首まで真っ赤になり、思いっきりうろたえている。もしかしてと思ったけど図星だったようだ。…私はデリカシーのないことしてしまった。人前で、意中の相手がいる前で確認するのはちょっとまずかったかも。


「あ、ごめん。私、状況読めてなかった。ここで聞く話じゃなかったね」

「…最低!」


 赤城嬢は私を睨みつけると、肩に思いっきりドンッとぶつかってきた。そして通り過ぎざまに悪態を吐くと、その場から逃走した。


「失礼しました」


 彼女に聞こえているかわからないけど、彼女の背中に向けて軽く頭を下げた。エリカちゃんを陥れた犯人の1人とはいえ、今のは私が悪かった。すまん。

 今回は宝生氏が理由か。…でも、エリカちゃんを陥れたとしても、振り向いてもらえるかというのは難しい問題だ。瑞沢嬢のように積極的にアピールして射止めたらなにか変わっていたかもしれないけど。


「…なんだったんだ?」

「あの人ね、二階堂さんを悪く言うのよ。…でね、今までのこと、あの人の嘘だったと思うの。二階堂さんは…きっと何もしていなかったのよ。ヒメに嫌がらせをしていなかったのきっと」

「…え?」


 瑞沢嬢の話を聞いた宝生氏が信じられないような目をして私を見てきた。…いや、彼は多分エリカちゃんを見ているのだろう。

 そんな目で見られても私自身は当事者じゃないので、特に感慨はないが……これは、誤解が解けたと喜んで良いのかな?

 とはいっても婚約は破棄のままだし、浮気した挙句にエリカちゃんを信じず、傷つけたコイツを許す許さないはエリカちゃんが決めることだから、私は何も言えない。


「…話は終わったね? もうすぐ5時間目始まるから教室に戻ったら?」


 私はそのことについて何も言及せずに、教室に戻っていった。ここで自分にできることはなにもないもの。

 エリカちゃんに伝えるための日記に書くことが増えた。エリカちゃん色々と混乱するんじゃないかな。今になって色々種明かしされて。


 ……エリカちゃん、あなたはあの時…どのくらい絶望を感じていたのだろうか。私にはわからない。だって他人に身体をあげるなんて普通じゃないと思う。それだけ物事に敏感で繊細な子だったのだろうか?

 …彼女に無事身体を返して…彼女はそこから再スタートをちゃんと切れるか、私はそれが心配になった。




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