e_ペブロイ
~ペブロイ~
幻の世界。どこにあるかは不明。ただ、そこへ行った者が少しいるばかり。
・ペブロイ暦元年=西暦2000~2560年
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古文書『ペブロイ 幻の世界』(ギーン・カーン)より。
ペブロイは一年を通して気温二十度を保っている。四季の変化はあるようだがやはり気温二十度は保たれている。
草原が多かった。また森も多かった。そこでは特に世話をかけなくても植物には実がなった。人々は草原の上で寝ていた。
雨は森にしか降らなかった。
夜は真っ暗ではなく月光のおかげで夜道を出歩くのに電灯はいらない。
一番驚いたのは、犯罪も小さな争いもなかったことだった。
あるとき、けんかを始めそうな雰囲気に出くわしたが、とつぜん双方が黙り込んだ。どうしたのかと私は問いかけた。だが双方は黙ったまま眉一つ動かそうとしない。私は気絶しているものだと思った。十分ほどその状態でいると双方は何事もなかったように互いに礼をし微笑んで帰っていった。そのような出来事は度々あった。争いを阻止するための何らかの力がペブロイの人々には働いているように思えた。
(西暦4000年)
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『ペブロイ暦に西暦換算は無用』(ビズサス・スサルノ)より
ペブロイはこの世界と別世界にあり、そのため空間も違う。
ペブロイ暦元年を西暦に換算したとき、2000~2560年と幅があるのは、ペブロイが普通の世界と同じでないからだ。
ペブロイ暦元年の世界があるとしよう。
その場合、その世界はこの世界一つに繋がっているわけではない。もちろん、他の世界にもいくつか繋がっているだろう。しかし、それだけではない。ペブロイ暦元年の世界は、今現在の世界だけでなく、例えば10年前の世界にも繋がっている。ということなのだ。
(西暦4400年)
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『ペブロイ奥地』(ジェイムズ・ストロング)
私はペブロイの奥地で神殿らしき建物を発見した。その中だが、まったく予想外の作りだった。外は神殿風だが、中は未来風の博物館のようだった。
博物館には人が多少きていた。別に奇妙な人ではなく、ごく普通の家族連れで、ごく普通の光景だった。
だが、ただ一人奇妙だった。どう見ても人間には見えず、生物かどうかでさえ疑わしい人間だった。その人間に外見はなく、ただその場所が少し明るくなっているだけだった。その人間はなぜかすぐ私のほうへ近寄り、私の名前を呼んだ。
「前に会いましたか?」
私は聞いた。相手はこう答えた。
「いいえ。初めてです。始めまして、私の名前はシアンです。そう呼んでください」
妙な偶然を感じた。私は子供ができたとき、名前はシアンにしようと考えていたからだった。考えてみると、ありきたりの名前だったかもしれないと、このとき思った。
シアンと名乗る光りについて行くと、屋上に出た。
それほど階段を上ったわけではないのに、屋上は地上からずいぶん高かった。ペブロイの町や森がすべて見渡せた。
「私の作った町、気に入りましたか」
シアンが言った。私は、これがペブロイ・ジョークなのだろうと思い、特に気にせず、
「はい。穏やかで私好みです」
と答えた。シアンはぼんやり私の目を見た後(今思うとこのとき、シアンは私の目ではなく、頭のほうを見ていました)、
「あなたは風車のある草原のほうが好きのようです」
と言われた。そう言われると、風車があったほうがもっと良いなと私は思った。
「あの草原を見てください」
私は言われるとおり見た。横でシアンが草原のほうへ手を向けた。すると、風車が平然と建つ景色に変わっていた。私は一瞬、元から風車が建っていたように思ったが、やはりそうでないことに気づいた。(今思うと、なぜ光りであるシアンが手を向けたと、私が思ったのか、それが不思議だった)
「私は今マジックに夢中なんです。なにか要望があればやってご覧に入れます」
私は風車だけでなくマジックも好きだった。私はそれから30回ほど色々と要望した。家を出したり、雨を降らせたり、大きな穴を開けたりした。場所を変えて、またいろいろと見せてもらったりした。場所を移動するときもワープというマジックを使い、一瞬で外へ出た。
その後、ある場所へワープし、そこでペブロイの創造主と言われている人に出会った。
色々と言われたがすべて忘れた。最後に私は怒り、創造主と嘘をつくのは許さないと怒鳴っていた。相手は、創造主である証拠に私に地獄を見せてやると言った。その瞬間、場所が変わった。腐敗の進んだ人間の屍がたくさん浮かんだプールに私はいた。私は死臭で息ができず、もがき苦しんでいるところで、また場所が変わり、もとの、創造主がいる所へ戻っていた。茶色い扉を指差し、戻りなさいと言われ、私はその扉を通った。その先は、もとの普通の世界だった。
(西暦4438年)
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『創造主の存在』(シルバー・ジョーカー)より
ペブロイはどうやら自然にできたものではないらしい。
ペブロイとはAによって作られた世界であることだ。
そしてペブロイの人々は生きた存在ではない。すべてAによってプログラムされている人形に過ぎない。
ペブロイ空間で生きている人間は、他世界から来た人間と、Aだけだ。
ペブロイ空間は、必ずしも楽園とは言えない。寂しさをプログラム人形でごまかせる人間でなければ、行かないほうが良い。
(西暦4444年)