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時間の騎士様  作者: 灯
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第8章 新たな旅立ち



エテルノセノクにいたグリスたちは先ほどの話しで、行く先を決めたのでその準備をしていたが、準備はロッシュがほとんど行っていた。

そしてそれが一段落ついたのかロッシュはグリスに茶色フードつきのローブを手渡した、そのローブをグリスは怪訝そうに見つめた。


「どうして僕に何かを隠すような服を渡すの?」

「……お前忘れているだろう、ここはお前にとっては近未来なんだ、顔とか隠さなきゃ何かと不都合だろ、それとお前のその銀髪は普通に目立つから」

「確かにそうだね」

「だろ?」

「それはわかったけど……ねえロッシュ、前から聞こうと思っていたんだけど、この時代の僕はどうなっているの?」


 その質問に彼は言い淀んだ、それですべてを悟ったグリスだったが、信じられなくて彼の言葉を待った。


「……死んだよ、五年前にリグレトの反乱の時にな」


彼の頭の中はぐらぐらと揺れ、さらに頭の中が真っ白になった。


「悪かったな、今まで黙っていて」


グリスはその後のロッシュの言葉に反応できずに、ただ呆然としていた。

それに気がついた彼はグリスの肩を勢いよく揺らした。


「大丈夫か? グリス」

「う、うん大丈夫だよ」


 そう言った彼の表情は辛そうだった。それを見て彼の頭を軽く撫で、優しく言った。


「無理すんな、そんなに簡単に自分の死なんて受け入れられないんだからさ」

「……ありがとう、ロッシュ」


 グリスはロッシュに向かってそう言った、その表情は少しだけ明るかった。

それを見て安堵したロッシュは軽く笑った。


「とりあえず、落ちついたら、それを着ろよ」

「うん、心配してくれてありがとう……もう大丈夫だから」


 彼はその言葉通りではなかったが少し落ちついたのか、いそいそと着替えた。

これですべての準備が整ったらしくロッシュは扉に手をかけた。


「これでよし、さあ、姫様のところに行こうぜ」


グリスは頷き、扉から出たロッシュの後に続いた。


彼らは長い廊下を軽く雑談をしながら歩き、いつの間にか彼女がいる部屋の前についたのであった。

ロッシュは彼女の部屋だということを確認してからノックを二回して、返事が返ってきてから扉を開けた。

セレスのいる部屋は質素だが小綺麗な部屋だった。


「姫様、こちらは準備が終わりま……した」

「うわぁ、セレス姫どうしたんですか、その格好は」


二人は彼女の格好を見て驚いていた。

彼女の格好は今までの淡い黄緑色のドレスではなく、動きやすさ重視なのか、青色のミニスカートに上半身は簡易な鎧をつけ、長い黒髪を一つにまとめて縛っていた。


「変かな?」


セレスは二人の反応を見て少しだけ不安そうな表情を浮かべた。

それに気がついた二人は慌てて口を開いた。


「そ、そんなことありません。ただその格好に疑問を抱いただけですよ」

「そうですよ、その格好にびっくりしたのです」

「そんなにびっくりしました? 私としてはこれからの戦いに備えての戦いやすい衣装に替えたつもりでしたが……」

「だってねぇ……その格好、あの頃の師匠と同じなんだもん」

「まあ、本人だしな」


グリスたちはお互いに苦笑していた。

セレスはそれに気がつき彼女もくすくすと笑った。


「そうですよ、私がそうなんですから、それにこの格好にしたかったの」

「セルマ隊長の格好にですか?」

「この姿は私の中では強さの象徴なの、だからそうしたかった、それにこのままだと彼女が生きていたことも消えてしまうのではないかと思ったから」

「そうですか……」

「まあ私が言えた義理ではないのですがね」

「セレス姫……」


 二人の微妙そうな表情を見たセレスだったが特に何も言わず、少しだけ微笑むと彼らにこう言った。


「さあ準備ができたのなら大広間に行きましょう、エトラ様が待っていますよ」


二人は頷き、この部屋の扉を開けた。開けた先は先ほどまであった廊下ではなく目的地である大広間であった。セレスとロッシュは特に驚かずそれに一番驚いたのはグリスだった。


「ど、どうしてここに出たの?」

「……まあどう考えても移動の魔法の応用だよな、たぶん俺らが、そろったらここに出るようになっていたんだろう」

「ああそうなの、気づかなかったなあ」

「気づかなかったって……最初の授業でやったはずだけどな」

「僕は途中で入学したからさ、それに僕、応用が苦手で」


ロッシュはそれで大丈夫なのかと言おうとしたがエトラが現れたので、話しを打ち切り彼の方を向いた。


「みんな集まったようじゃな。さっそくじゃが、ここに集まってもらったのは他でもない、おぬしらを学術都市まで送ろうと思っていてな」


彼らは彼の言葉になぜ知っているのかとは聞かなかった。

今までの行動で聞くだけ無駄だと悟ったからである。


「ありがとうございます、エトラ様、しかし長距離の移動魔法は魔法陣が不可欠ですが、この国は千年以上も見つからずにいた国でございます。そんなこの国に他国に渡る魔法陣が残っているのですか?」


移動魔法は短距離ならばお互いに魔法陣がなくても移動魔法として移動は可能だが長距離の転送魔法はお互いの場所に魔法陣がないと発動しない仕組みとなっている。

ちなみにここから学術都市は200キロメートル以上離れている。


この国エテルノセノクは公式には千年以上見つかっていなかった国であり、魔法陣を千年以上前に設置していたとしても彼女にはあちらに残っているとは思えなかった。

その考えがエトラに伝わったのか、彼は少し意地の悪そうな笑みを浮かべて話し出した。


「確かに姫さんが考えたような魔法陣はない、だが他の方法がないわけではない」

「じゃあその方法を使うのですか?」


二人は少しだけ興味があるようで目が輝いていた。

しかしロッシュだけはだんだんと青ざめていった。


「そうじゃ、その方法とは転送装置ミネルヴァ号を使うのじゃ、これは古代文明の一種でな、これを使えばこれと同じ機械が置いてある場所ならその国に魔法陣がなくても長距離でも移動ができるのじゃ」


 彼が指差した先には円形のエレベーターのような形をしている装置が繋がっている機械があった、そしてこの言葉を聞いてロッシュは完全に血の気が引いていた。


「な、なあ、それに乗るのか?」


 彼の顔は恐怖に引きつる、その表情に疑問を持ったグリスはロッシュに問いかけると彼は話しを始めた。


「これから会いにいく人のことは覚えているよな?」


 彼らは頷いた、それを確認した彼は声をひそめた。


「あの装置はきっとこれから会う人が修理したもんだ、だからご丁寧に自分の名前までつけてやがる」


二人は驚嘆の声を上げたと同時に疑問そうに呟いた。


「それはわかったけど、どうして青ざめているの?」

「……あの人は考古学が本業で機械類もある程度は直せるんだが、失敗も多いんだ」

「心配だから青ざめているのですね」

「わかっていただけましたか?」

「まあそれはわかったけどさ、今回も失敗するとは限らないよ?」


それでも押し黙る彼にエトラが背後に立った。

そして彼は微笑みを浮かべた。


「男は度胸、女は愛嬌ってことでさっさと行くのじゃ」


そう言って彼は思いっきりロッシュの背中を押した。

とっさのことに彼は対応しきれずに、情けない声を上げながら転送装置の中まで行ってしまい、そのまま消えてしまった。


「本当に消えたね、あっちについたのかな?」

「そうでしょうね」

「だから言ったじゃろう大丈夫だと、それにこれは修理をした彼女がしっかりと実験をして成功した珍しい例じゃからな、成功するのはあたり前じゃ!」


 そして今度は二人に近づき、中に入るように促した。


「さあ、お二人さんも言ってくるのじゃ、これは意外とエネルギーを消費するからのう」

「じゃあ僕が……」

「私が先に行きますわ、グリスはもう少し生まれ故郷を眺めてから来てください」

「どうしてそれを……」

「……グリスに話しかけていたおじさんに聞いたの、だからね、グリス、故郷をその目に焼き付けてね」


彼女はそう言ってウィンクをしながら転送装置に足を踏み入れた。

彼は気づかってくれた彼女に感謝をしたが現状を変えたいと感じている彼には複雑な心境だった。 それでも彼女の気づかいを大切にしたいと感じて、彼は窓から見える辺りの風景を心に留めてエトラの方を見て、ゆっくりと口を開いた。


「エトラさん、ありがとうございます。夢に出てきて、僕にここに来るチャンスをくれて」

「ばれていたか」

 

そう口では言ってはいるがエトラに焦りなど微塵も感じられなかった。


「貴方と話している途中で気づきました。そしてここに来て、僕の母がどのような人で、母は病気で亡くなったというのも知りました……」


 彼は一瞬、怪訝な顔つきになったがすぐにいつもの顔になりこう言った


「……知って後悔したか?」

「いいえ、知れてよかったです」


 彼の優しい笑顔を見たエトラは複雑そうな笑みを浮かべるだけだった。

しかし次に口を開いたエトラの表情は迷いのない笑顔だった。


「グリス、おぬしにはこれを渡しておこう」


渡されたのは銀色に輝くブレスレットだった。

彼はその何の変哲のないブレスレットに見覚えがあった。


「もしかしてこれは母の?」


 エトラは軽く頷いた。


「君に持っていてほしいのじゃ、君が持っていればセリスも喜ぶじゃろうしな」

「ありがとうございます。エトラさん……ううん、おじいちゃん」


そう言われても彼はうろたえなかった、彼が母のことを知った時に教えられたのだろうと考えたからである。


「言ってくれればよかったのに、どうして言ってくれなかったの?」

「ワシに言う資格なんてないんじゃよ、おぬしを助けることもできず、娘も救えずにただ傍観者になっていたワシになんかのう」

「そんなこと言わないでください、僕は血の繋がった家族にまた会えて嬉しかった」

 

グリスは笑顔だった。

その笑顔に彼は少しだけ救われた気分になった。


「本当に優しい子じゃ……グリス、自分をしっかりと持つのじゃよ」


彼の言葉に少し驚いたが、意志の強い目で彼を見た。


「大丈夫、おじいちゃん。心配してくれてありがとう

「戻ってくるのじゃよ……」


彼の言動と悲しそうな表情に違和感を覚えたグリスだったが転送装置に足をかけた。


「すべてが終わったら母の墓参りに来ますね。では行ってきます」


そうして彼は転送装置に飲み込まれるように消えていった。

それを見届けたエトラはただ悲痛な表情で呟いた。


「彼らに幸がありますように」


この呟きは広いこの広間に素早く吸収されてしまった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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