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第一章(2) 不安と混乱

30分ほど叩き続けたが何の変化もない。

仕方がないので、エラーが出なかったことを報告しに事務所に戻る。

「田中さん、30分ほど叩きましたが、エラーは出ませんでした。」

「なら、今回のエラーはあの装置特有のものだったんだろうね。ご苦労様」

(それだけで終わり!?何の説明もないの?)

「すみません、叩くこととエラーが出ることに何の関係があるのかわかっていなのですが、教えてもらえますでしょうか?」

ここは食い下がってでも、教えてもらわなければならない。

これでは何の学びにもならない。不安で胸が締め付けられそうになりながらも、メモ帳を取り出して質問をした。

「前は叩いてエラーが出たから、同じエラーが発生するのか確かめたかったんだ。でも、今回は前回と違う原因みたいだね」

いや、それは最初に聞いたけども、もっと詳しいことを聞かせて欲しい。

「何故、前回は叩くとエラーが出たんですか?」

「わかんないけど、静電気か何かが発生したんじゃないかな」

やばい、この人。結局、自分もわかっていないんだ。

いやいや、勤続30年以上のカンがあるのかもしれない。

でも、この説明はありえない気がする。。。

「とりあえず、やったことの報告書をまとめて」

「はぁ。わかりました。」

僕は、納得していないながらも、とりあえず言われたことをしっかりやろうと報告書の作成に取り掛かった。

『概要、目的、作業内容、まとめ』にわけて、ただ30分間装置を叩き続けたが何も起きなかったという報告書を作成した。

(こんな意味の無い報告書を作ったの始めてかも・・・。)

そう思いながらも、とりあえず提出し、残りの時間は新入社員研修の一貫であるテキストを読むことにした。


「ん〜!」

僕は、伸びをして肩を揉む。

意外と緊張してたんだなぁ。

配属初日を終え、ようやく帰路につく。オフィスでは、まだみんな仕事をしていたが新卒は定時であがる決まりがあるらしい。

それでも残業規制があるらしく、残業代が発生しない時間にはみんな帰るみたいだ。


「りゅう君、お疲れ〜♪」

なんとも気の抜ける声がして、振り返るとまなみがいた。

「おー!お疲れ。まなみも今帰りか?」

「うん!なんか新卒だから定時に上がれって言われたんだぁ」

「僕と一緒だな。でも、緊張してたからちょっと助かったよ」

「だよね〜。私も部内の人と上手くやれるか心配なの」

「まなみなら、大丈夫だよ。みんなに愛されてそうじゃん」

「えへへ〜。そんなことないよ〜!」

ちょっと照れた様子で微笑む彼女。

いや〜、癒されるなぁ♪

今まで緊張していた分、まなみを見ると余計に安心する。

「りゅう君、また明日ね〜」

「おー!またなー」

まなみは実家暮らしで、会社から1時間くらいのところに住んでいる。

僕は、会社から歩いて5分のアパートに一人暮らしだ。

もう少し一緒に居たかったなと思いつつ、まなみを見送る。


家についた僕は、今日の仕事内容を思い返していた。


こんなことが仕事って言えるのかなぁ。

もっとやりがいを持って仕事できると思ってたのに。

初日だからこんなものなのだろうか。


僕が今の会社を選んだ理由は、大きな仕事に携わって世の中に貢献したかったことと、安定して良い給料が入るという2点だった。

バリバリ働いて、成果を残して出世していこうと考えていた。

漠然と、30歳くらいで年収1,000万円くらい欲しいなぁと思っていた。


しかし、実際に職場に入ってみると、世の中に貢献できているとは言い難く、残業して稼ぐこともできない。

「僕の人生、これでいいのかなぁ」

部屋で1人ごちる。


中学から大学まで部活に熱中し、勉強もそれなりに頑張ってきた。

社会人になってからは、仕事に全力を尽くそうと考えていた。

しかし、とても全力を尽くせる環境ではないじゃないか。

少なくとも職場の人は、僕を教育する気はあまり無いと思う。


なら、自分で勉強するしかないかもしれない。

部活だって、コーチは一度もいたことがなかったけど、仲間達と一緒に工夫しながら練習内容を考えて、全国大会まで出場したこともあるんだ。


仕事だって、指導者がいなくても自分で成長できるさ。


まずは、1人で開発ができるようにならないとな。

ネットで、電子工作キットを購入。半田ごてなどの工具も一緒に購入した。

後は、キットを改造できるよう電子部品をいくつか購入した。

合計、12万3千円。


僕は、遊びにお金を使うのはためらうけど、自己投資のためだとお金を使える。


しかし、社会人になっての初給料がほとんど消えた。。。


翌日からの仕事も、相変わらず雑務ばかりだ。

「田中さん、部品の整理終わりました。次は何をすればいいですか?」

「特にないよ。好きに時間を使っていいから」


えっ?暇になったんだけど。

給料をもらっている以上、遊んでるわけにもいかないし・・・。

しかし、仕事ってこんな甘いものなのか?


混乱しつつ、周りを見渡すとみんなパソコンに向かって真剣に何かを読んでいるように見える。

ん〜、仕方ないから勉強でもしてるか。


「田中さん、空いた時間は勉強していたいんですが、何から始めればいいかアドバイスはないでしょうか?教材とかあるとありがたいんですが。」

「・・・。特にないかなぁ」


まじっすか!?

いやいや、流石に腹がっ立ってくるよ。

本気で教育する気ないな、この人。


仕方がないので、昨日見ていた勉強用の工作キットを眺めることにした。


僕は、もっと世の中に貢献したり、たくさん稼げるようになりたいんだ。

こつこつと努力を重ねて、結果を出していかなきゃいけない。


ぼ〜っとしてる暇はない。


いきなりATMの開発ができなくても、まずは小さな装置を作れるようになろう。


いくつか、商品を眺めて追加で購入した。


その後も、倉庫の整理などたいした仕事もなく、そのまま帰宅した。


アパートに着くと、先日購入した電子工作キットが到着していた。

作成するのは、ミニ四駆に超音波発生機を取り付け、超音波で測定した距離を元に壁にあたりそうになると方向を変えて走り続けるというおもちゃだ。


モーターの制御、距離測定技術など、今の仕事に応用の効く技術を身につけるためだ。


僕は、さっそく夢中になって作成に取り掛かった。

何かを作り上げる作業は楽しい。


自分が作ったものが目の前にあるのだから、達成感がある。

ネットで調べ、すぐに試しては失敗し、何度もつまづきながら夢中になって作成した。


その日から、仕事が終わると家でおもちゃ作りをする日々が始まった。

毎日18時に仕事を終え、19時から23時までの4時間夢中になって取り組んだ。


約1ヶ月ほど、おもちゃ作りに集中して取り組んでいた。

しかし、その間も仕事は大したことを教えてもらい日々が続いていた。


ある日、職場の飲み会が開かれるので、僕はそこに参加していた。

「では、みなさん乾杯!」

伊藤部長の音頭で、飲み会が始められた。

「部長、ビールお注ぎしますね」

「ありがとう。森本くんは、仕事に慣れてきたかな?」

「そうですね。まだ、わからないことばかりで」

「周りに聞いて早く仕事ができるようになってね」

「はい。頑張ります」


正直、周りに聞いても仕事ができるようになるとは思えないんだけど。。。

さすがに、そんなことは言えず愛想笑いを浮かべた。


しばらくして、山田課長にも話しかけられた。

「森本くんは、頑張って仕事してるよね」

「そうですか?まだまだ、わからないことだらけですよ」

「自分も課長になって2ヶ月目だから、わからないことだらけだよ。まぁ、そのうち覚えるから大丈夫だよ」

今のままだと、成長できる気がしないんだよなぁ。。。

「山田課長、僕は技術についてわからないことが多いので、勉強してスキルを身につけたいと思っています。でも、何を勉強したらいいかわからなくて、悩んでいるんです。何から勉強するのが良いかアドバイスをもらえないでしょうか?」

田中さんの席は、山田課長の席から離れている。

正直、聞かれたら気まずいし、今のうちに悩みを相談しておきたかった。

「自分は最近この課に来たばかりだから、技術はそんなに詳しくないんだ。田中さんに聞いて勉強したらいいんじゃないか?」

山田課長って、頼りがいが全くないなぁ。さっきから、課長になったばかりだから、何もわからないってことばかり。

「田中さんには、聞いてみたんです。でも、これというアドバイスをもらえなくて」

「そうかぁ。まぁ、トラブルを起こさなければ、それでいいよ」

身も蓋もないこと言う人だな、この人!

少し目眩がする・・・。

お酒が入っているせいだと信じたい。


僕は仕方なく自分の席に戻って、1人で静かに飲むことにした。

周りからは、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。


伊藤部長に相談してみようかな・・・。

ふと視線を移し、伊藤部長が何の話しをしているのか聞き耳を立てた。

どうも、話しているのは他部署の人の失敗に文句を言ったり、お客様のクレームは自分の責任じゃないと囃し立てたりしているようだった。


人の悪口を聞くのは、何か嫌な気持ちになる。


僕は、早く帰っておもちゃの作成に取り掛かりたかった。


飲み会から数日後、作成していたおもちゃが完成した。


「ようやく出来たなぁ〜。疲れた!」

僕は程よい疲労感と達成感を感じていた。


実際にものができると、何かワクワクしてくる。


とりあえず、動作している様子をスマホに記録し、ネット動画サイトで有名なニチョニチョ動画にアップロードしてみた。


今度、まなみに見せて自慢してみよう♪

褒めてくれたら嬉しいなぁ(*´ω`*)


思わず顔がにやけてしまう。


「でも、このままでいいのかなぁ・・・。」

確かに少しずつ仕事はこなせるようになってきた。

おもちゃ作りを通して、開発に必要な考え方、技術がわかってきた。


でも、想像していたより成長出来ていない気がするし、この先活躍できるイメージが全くわいてこなかった。

本当は、情熱を持って仕事をして、大きな結果を出したり、もっと稼いだりしたかった。

今は残業規制とやらで、毎日定時に帰される。

残業している人はオフィスでも一割くらいだ。


正直仕事内容も雑用ばかり。

まったくやりがいを持てない。

というより、やりがいを持って働いている人がいない。


死んだように仕事をしている、もしくは誰かに責任をなすりつけることを仕事と思っている人ばかりだ。


こんなことで、僕の人生良いんだろうか。

このままだと、僕も死んだように仕事をして毎日時間を潰す生活になっていくことは明らかだ。


だからと言って、まだ技術も無い自分が周りを引っ張って雰囲気を変えることもできそうもない。

1人で仕事もできない新人が何を言っても無駄だろう。


僕の心に、人生なんてこんなものなんだ、努力しても無駄なんだ、という諦めの気持ちが芽生え始めていた。


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