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第一章(1) 不安と混乱

「いやっほー!」

僕はダッシュで海辺に駆け寄り、そのまま海の中へダイブした。

「ぶはっ!」

思いっきり口の中に海水が入り、くっそ塩辛い水を何度も吐き出す。

「おーい!早くこっちこいよー!」

「もう。海に入る前には準備運動しないとだめなんだよぉ〜」

呆れたような様子だけど、どことなく嬉しそうに彼女は微笑む。

彼女は、同期の田村まなみ。入社以来ひそかに恋心を寄せていた。いつもおっとりした口調で、優しい笑顔をする彼女に惹かれている。

(一緒にいると、何か幸せなんだよなぁ)

僕はそう思いながら、彼女の手を引いて海まで連れてきて、そのままお姫様だっこして海に放り投げる!

「うりゃ!」

「ちょっ、キャー!」

ドパーンっと盛大に水しぶきをあげながら、彼女は海の中に沈んでいった。

「あはは(笑)まなみのキャーって悲鳴、初めて聞いたw」

いつもは慌てたり怒ったりすることのない彼女が、本気で悲鳴をあげさせたことに満足して大爆笑していた。

彼女は水面から顔の半分を出して、こちらを睨んでいる。

(あ〜、怒った顔も可愛いなぁ(*´ω`*))

ニマニマしながら彼女を眺めていると、

「水着・・・。取れちゃったんだけど」

顔を真っ赤にしながら、訴える。

「・・・」

(僕、グッジョブ!!!!!)

平静を装ってるが、内心めちゃくちゃテンション上がる。

「大丈夫か?僕が探してやるから、ちょっと待ってろ」

(まなみのおっぱい、まなみのおっぱい、まなみのおっぱい・・・)

「う・・うん。・・・バカ///」

ブクブクと息を吐きながら海に潜ってしまった。

当たりを見回すと、ぷかぷかと漂っている水着を見つけた。僕は、それを手に取り、叫んだ。

「とったどーー!!!」

「ぐはっ」

突然、腹部に強烈な衝撃が走る。海の中にもかかわらず、凄まじいボディーブローが炸裂したのだ。

「とったどーじゃない!!取れたのは、りゅうくんのせいなんだからね」

顔を真っ赤にしながら怒っても全然恐くないなぁ♪むしろ可愛い♡

まなみの腰に手を回して、ぎゅっと抱きしめてそのままキスした。

・・・。

・・・。

・・・。


という夢を見た。

===========================================

僕は、現在24歳社会人1年目。大学院まで進学し、東京の大手メーカーに就職した。

現在は、新入社員研修も終わり、今日から配属先に行って初仕事が待っている。

まなみとは、恋人関係でも何でもなく、ただ一方的に恋心を寄せているだけの関係だ。

別に仲が悪いわけでもなく、良いわけでもない。ただの同期だ。

まなみは、購買部(部品の調達を行う部署)に配属され、僕は金融開発事業部に配属された。

仕事内容は、ATMの通帳印字機器の設計開発。大学時代は、AR(拡張現実)の研究をしており、設計開発という未体験の仕事に不安を感じながらも、全力で仕事をしようと意気込んでいる。


「初めまして!金融開発事業部に配属された森本と言います。至らない点も多いかと思いますが、1日でも早くお役に立てるよう、誠心誠意努力していきます!」

パチパチパチ。何となくまばらな拍手がオフィスに響く。

「森本君は、山田課長の下で通帳の回路設計を行ってもらいます。みなさん、仲良くしてあげてくださいね。」

伊藤部長の挨拶が終わり、いよいよ初仕事を行う日がやってきた。

(緊張するなぁ。でも、全力で頑張ろう!)

僕は早く仕事を覚えたくてうずうずしていた。

きっと、初々しい新入社員という印象を与えていただろう。


事業部内での簡単な業務説明が終わり、OJTオン・ザ・ジョブ・トレーニングで指導してもらう。

「山田課長、僕は何から始めたらいいですか?」

「まぁ、とりあえず事業部のルールを覚えたらいいんじゃない?誰が何してるとか、報連相のやり方とか、ぼちぼち覚えていけばいいよ」

(そんなもんか?とりあえず、周りの人の仕事内容をメモって、自分でできることを探していくか)

「わかりました。じゃあ、みなさんの仕事内容を教えてもらってきますね」

金融開発事業部は、システム開発課とハードウェア開発課の2つがある。僕は、ハードウェア開発課に所属しており、7名の組織だ。

まずは、一番年長の田中さんに、仕事内容を教えてもらうことにした。

「今、障害調査をやってるから、付いてきて」

そう言われて、僕たちは開発室に向かった。どうも通帳の読み取りに障害が発生しているらしい。

「前も同じような障害があって、そのときは振動を与えたときに、エラーが発生したんだ。」

普段、ATMの装置の中身を見る機会はない。初めて、装置の裏側を覗いた感じがして、ドキドキする。

「だから、装置を叩いてエラーが出たら呼んで」

機械のことはよくわかんないけど、これを開発してるって言ったら自慢できそう。まずは、仕事の内容をしっかりメモして勉強しなきゃな。

「んじゃ。」

そう言って、田中さんは開発室を出て自席に戻ってしまった。

「えっ?」

何がなんだかわからない内に仕事を依頼されてしまった。。。

というか、叩いてどうなるんだ?エラーってどうやって判断するの?てか、どんな感じで叩けばいいんだ?

「つーか、今の説明ありえなくない!?」

やばい、いきなり躓きそう。。。

動作している通帳印字機の前に1人残されてしまった。

学生時代は、ARの研究をしており、1つの現象に対して何故そうなるのかを突き詰めることが大切だった。不明な現象を明らかにしていく、新しいことを発見している気分で夢中になったものだ。

比較的真面目な生徒で、研究に熱中し特許も出願している。

しかし、今与えられた仕事は、何のためにやるのか、どうして叩くという手法を取るのか、それによって何を調べようとしているのか、何の説明もなくただ作業を依頼されてしまった。

「と、とりあえず、叩いてみるか・・・。」

案ずるより産むが易し。やっている内に何かわかるかもしれない。


ダンダンダン。

ダンダンダン。


(くっ!周りの視線が痛い(´;ω;`))

お坊さんが木魚を叩くかのように、無表情で一定のリズムで叩く。

横を通る人が一瞬足を止めて、びっくりした様子で僕を見て通り過ぎていく。

(これ、何て拷問!?)

徐々に顔が赤くなって変な汗が出て来る。。。

装置をただひたすら叩き続ける男。はたから見たら明らかな変人。

そこには、羞恥に耐えながらひたすら装置を叩き続ける僕がいた。


・・・。


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