4-驚
よっこらせというような感じで立ち上がったアル。
決して僕がキャラ作りの為に語尾を変えたのではないことを理解していただきたい。
「付いてこい」
ここで嫌ですと言える立場でもないので大人しくついていくことにする。
一分間ほど歩き続けようやく巨大な門の前にたどり着く。
「広すぎじゃないか?」
「……戦闘用だ」
今考えただろ。
アルが門に軽く手を触れる、するとごごごと大きな音を立てて門がひとりでに開いていくではないか。
「凄いな」
「だろう?」
いや別にお前を褒めたわけではない
廊下は流石に黒くないのか、それともあの部屋だけが黒かったのか。
後者だとしたら恐いわ、黒一色に染めることはないだろう。
「廊下は黒くないんだね」
やや語気を落としてアルが言う。
「黒くしようとしたら部下に反対された」
あの部屋お前の趣味か。
「あ」
ここで大切なことを思い出した。
「僕はどこに住めばいいのだろう」
それを聞いた彼は何くだらないこと考えてんだコイツとでも言いたげな顔をした。
腹立つわ。
「住むところがないならば私が手配してやろう、無論、宿泊料等は考えなくても良い」
やっぱ黒王ってマジでイケてると思うんすよ。
「……言わずともお前が掌を回したのは理解したよ」
「流石黒王様っす、下々の考えていることが分かるなんて」
「殴るぞ」
「ごめん」
黒王は憮然たる面持ちで、
「仮は返すだけのこと」
こういう男に人は付いて行くのか。
廊下を進む彼の背後を一歩下がって進みながら尋ねる。
「この世界には魔物はいるのか?」
「魔物?」
「凶暴化した動物とか」
「存在する、この世界の生命体は非常に極端なんだ」
「極端?」
アルが立ち止まり、振り返る。
「進化の仕方がな、飼育されて繁栄しようとする生物と強くなり他者を排除しようとする生物の二種しかいないのだ」
「それはまた……」
そのままの姿勢で歩き始める。
「強くなる、というのも語弊があるな、殺されないように他者に害を成すように進化する、と言ったほうが正確だな」
「害を成せば近づかれることも無くなる……ということか」
「そういうことだ」
器用に後ろを向いたまま階段を下りていく。
落ちないかな。
「色法を発動する際に何故色法名を宣言する必要がある?」
「概念的な物だ……冗談だよ冗談」
「色法名がそのままその法の詠唱になっているのだ」
「しかしながら宣言せずとも発動は出来る」
「精度やら威力やら発動速度やらが落ちるのでオススメはせんがな……っと」
さっきの部屋の門よりも一回り、いや二回りは大きい扉がある。
「説明はこんなところか、さて、では改めて」
巨大な扉は音を立てずにゆっくりと開かれていく。
「ようこそこの世界へ、榎本善仁くん」
門の外に広がる景色はまさしく絶景。
この城を中心とした円形の都市。
居住区域は高さが分かれている。全部で三段、最も高いのがここだ。
地平線まで続く城下町。
中心都市の名に恥じない場所だ。
「堀や城壁は?」
「必要ない、有事の際には……お楽しみだ」
「今回がその有事では?」
アルは露骨に嫌そうな顔をした。
「細かいことを言うとモテんぞ」
「随分俗っぽいな……」
「では訂正しよう、国の有事だ」
仮にも一つの都市の王が命を狙われたのだから有事では……?
と問おうとしたら嫌そうな顔をされた。
……奥の手が存在するみたいです。早く滅びかけてほしいですね。
色々あってアドレナリンドバドバ出てて明日が怖いから早く休みたいという旨を伝えると。
「今日はとりあえずここに泊まれ」とのこと。
お言葉に甘えることにする。
門を閉じてからアルに客室に案内される。
大きなベッドに品の良い家具の品々。
部屋は2Lである。
リビングと寝室に分かれていて、それぞれの部屋に大きなランプが置いてある。
素人の僕が見ても高級なんだなぁということがうかがえる。
惜しむらくは真っ黒なことか。
「何かあれば扉の外に居る使用人に言え、夕餉は5時から、朝餉は7時から、あと部屋からはなるべく出ないようにしてくれ」
「了解」
それだけ言うとさっさと行ってしまった。
奴も忙しいのだろう。仕方ない。
部屋に一人きりとなった僕はとりあえず物色する。
ん?意味が違うかな?
この世界にも壁掛け時計というか時計が存在しているらしい。そこにあるし。
ただどの程度普及しているのかは分からない。
……時計のデザインが格好いいな……。
いやもちろん高機能化のために必要な物を削ぎ落とした結果なのだろうが、こう、メカメカしい。
金属製というだけで格好いいのはずるいと思う。
スニーカーを脱ぎベッドにダイブ。
全身をもっふと受け止めてくれた布団はほのかにお日様のかおりがした。
布団を抱きしめてゴロゴロとのたうち回りながら新たに浮かんだ色法について考える。
というか神の野郎いろいろと説明が足りない。
あの三幻色の戦士とかいう奴等が僕といっしょに召喚された三馬鹿であることはまず間違いない。
神の謎空間での一分はこっちの一日とかいうルールでもあったのだろうか。
そんなことはどうでもいいのだ。問題は色法について。
あの糞神、新しい色法の確認方法を説明していないのである。
新しい法が使えるようになるのは感覚的にわかるのだ。
しかしそれがどういう技なのかはまるで分からない。
適当に色法確認と念じてみたら出来たから良いものの、これが三回回って逆立ちするとかいう複雑なものだったら確認できずにぶっつけ本番になる。
というかそもそもこの色法というシステム致命的な欠陥がある。
色法を全て暗記しなければならないことだ。
しかし色法自体が個人で大きく分岐し挙句の果てに世界で一人しか持っていない色法が出来上がる可能性だって十分にありえる。
そうなってしまえば対策も糞もないのだ。
脳内で思いつく限りの罵倒を神に向かって飛ばしながら新たな色法を確認。
【陰の支配者】
発動者を中心とした直径50mの球内に存在する生命体の影を操ることが出来る。
同時に操作できるのは3つまで。
…………おかしい、これはおかしいな。
強すぎる、というか壊れている。
『影を操る』の定義が曖昧だからはっきりとは分からないが、無限に【幻影】を生産可能ということになる。
……え、何、僕の生き方ってこんな物騒なんですか。
軽く傷つきました。
試しに発動してみる。
「【陰の支配者】」
50m内の全生命体の感知が可能みたいです。
索敵としても使えます。やったね。
とりあえず最も危険性が低そうな生命体の影を操ることにする。
そうれ。
……発動者の影も1つにカウント可能みたいですよ。
……半ば呆れながら影を鋭い棘のように操作。
できました。影から巨大な棘が突き出ています。格好いいですね。
おかしいと思います。操作している発動者以外破壊不能とか舐めてるとしか思えません。
というかこのレベルのが其処ら中にいるとかやめてほしいです。恐ろしいです。
この時点で心をポッキリと折られた僕は黒の概念持ちが貴重だというお話を綺麗さっぱり忘れていました。
現在黒の色法を行使できるのは全世界合計で58人。そのほとんどがアーテムの住人です。
つまりどういうことかというと。
この城に住んでいる使用人含めたほとんどが黒の概念持ち、その中で最も強力な黒王すらこのレベルの色法は持ち得ない。
つまり彼、榎本善仁は現在この世界において、黒の色使いのトップである。