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BLACK・LIKE  作者: 須方三城
第二章 彼は彼なりに若くあろうとしている。
9/16

08,黒斑さんはアレなディスクだけセル派。

 何だか、たったの四日間が異様に長く感じたな。


 そんな感想を抱きながら、黒斑は自宅アパート近くのレンタルディスク店の海外ドラマコーナーを物色していた。

 私服も黒いTシャツに黒いジーンズと相変わらず黒まみれである。


「さーて、どんなんがあるかなぁーっと……」


 黒志摩とのコンビ結成から四度の勤務をこなし、ついに迎えた五日ぶりの非番。

 黒斑はこの休日の使い方をドラマ鑑賞にあてる事を決め、朝早く、開店直後のレンタルディスク店へと足を運んだ。

 特に見たい作品がある訳では無い。買いはしないが、いわゆるジャケ買いに近い選び方をするつもりだ。


「んお?」


 しゃがみ込み、最下段を確認した黒斑が発見したのは……


「これ、新シリーズ出てたのか」


 以前、一度見て気に入っていたホームドラマコメディに新作が出ていたのだ。

 黒斑個人は非常に気に入っていたのだが、海外での人気作は芳しくなかったらしく、セカンドシーズン制作は絶望視されていたはずの一作。

 新作だのに最下段に陳列されていると言う扱いからも、人気事情の厳しさが伺えるだろう。


 これは見るしか無い、と黒斑は即決。既刊三枚をササッとデモパッケージから抜き取る。


 充分な収穫だが、これで満足する黒斑では無い。

 今回の非番は二連発。そうそう無い二連休なのだ。


 一枚に二話、二時間収録のを三枚程度じゃあ全然足らない。


 思わぬ収穫に黒斑は口元を綻ばせながら、次の獲物を求めて物色を再開。


「ん? ……おお! お前、白区しらまちのボーズじゃねぇか!」

「……え……」


 ふと、横合いから聞こえた無駄に声量と声圧のあるハスキーボイス。


「あ、赤杜あかもりのおっさん……?」


 声の方に立っていたのは、動物で例えるなら熊一択な大男。

 一線級のプロレスラーと余裕でガチれそうな体格。顔面は毛が生えてない面積の方が少ない。全裸で山を彷徨いたら牝熊が寄ってきても不思議じゃない。


 黒斑はその男をよく知っている。

 赤杜あかもり 了膳りょうぜん。聖十字警察隊甲間町本署『福祉課』の職員で、少し前に課長職に昇任されたと聞いた。

 昔、黒斑が魔物被害を被った際に担当をしてくれていた聖務カウンセラーでもある。


「おう! おうおう! 久しぶりだなぁボーズゥ! 一ヶ月くらいぶりか!? 相変わらず真っ黒クロスケだなぁ! つぅか何がアカモリのおっさん、だ? お前だってもうすっかりおっさんだろぉに!」


 赤杜は笑顔全開。ノシノシと黒斑の方に近付いて来た。


「……先月に会った時も同じ事言った気がするけど、俺はまだ二九ですってば」

「足掻くねぇ」

「当然ッ」


 身体は正直だろうと、心まで屈する道理は無い。


「にしても、あのクソ生意気なヤンチャ野郎がもう二九歳ねぇ。あれから一四年? 時が流れんのは早ぇなぁ」

「それも会う度に言いますね……」


 よくもまぁ飽きない物だ、と黒斑が辟易するくらい毎度言う。


「で、ボーズよ。何借りるんだ?」

「海外ドラマっす。おっさんは?」

「俺は娘のお使いだ。女子高生の間で今流行りだっつぅアイドル様のライブディスクと……な」


 赤杜は良い笑顔で、黒斑の後方…海外ドラマコーナーから真っ直ぐ行った所にある、ピンクのノレンの方を指差す。

 ノレンの色で、わかる人はわかる。アレなディスク達が隔離された、一種の異世界への扉である。


「……あんた、確かもう五〇過ぎだよな」


 黒斑の記憶が正しければ、赤杜は今年で御年五五歳のはずだ。


「男はいつまで経っても男の子だっつぅ話だよ。だがしかし、嫁さんに負担を強いる訳にはいかねぇ訳だ。あいつには内緒だぞ。知れたら絶対無理しやがるだろうからな」

「へいへい……相変わらず仲の良いご夫婦で」

「ま、その辺は置いといて、だ。ボーズ、せっかくこんな所で会ったんだ。縁ってモンだろう。積もる話でもしながら一緒に発掘作業と洒落こもうぜ」

「俺、AVはセル派なんで」

「かーッ! 良いねぇ、独身野郎は。生意気だからここは俺に付き合え!」

「どっち道かよ……」


 この人に逆らっても無駄だ、と黒斑もわかり切っているので、やれやれと思いつつも大人しく同行する事にした。


「よし! 行くぞ、性なるワンダーランド!」

「へいへい……」


 と言う事で、赤杜を先頭にピンクのノレンの向こう側へ。





「ふむふむ……」

「ふーん……」


 至極真面目な表情で棚と向かい会う熊男、赤杜。最高の一作を選び抜くぞと言う気概が感じられる。

 その隣りで黒斑は適当に視線を揺らす。気になるタイトルがあったら後で検索してサンプルチェックしよ、くらいの感覚だ。


「んー……お、何だこの新作。『商店街のナンパ王~失敗の先におっぱいがある。諦めなければ性交する~』ねぇ」

「あー…それジャケ詐欺度ヤバいから、やめといた方が良いっすよ。トップバッターからマジ肉布団」

「マジか。と言うか既に視聴済みとは……お前、本当に俺と好みが似てるなぁ。面倒を見てやった甲斐がある」

「どーも」

「そうそう。面倒と言えば、一昨日メグちゃんと飲みに言った時に聞いたぞ。お前、新人教育してんだってな」

「メグちゃん……? ああ、灰堂さんか。……まぁ、歳が九つも離れてると、もう本当、生きてきた時代が違うっつぅか…色々と四苦八苦してます」

「そうかそうか。若さに振り回される様になったら、立派なおっさんだ」

「何も苦労してないっす」

「そんな決め顔しても、過去は消えんぞ」


 俺とした事が失態だ、と黒斑は舌打ち。


「……まぁ、アレだ。その件に関して、一つ忠告しとく。お前なら大丈夫だと思うが、一応な」

「!」


 AVを物色していた赤杜の声のトーンが変わった。マジな話をする時のそれだ。

 自然と、AVを軽く物色中の黒斑の聞く態度も変わる。


「新人捜査官に、『妙な事』を教えてやるなよ」

「……………………」


 傍から聞けば、何の話だかわからない。

 しかし、黒斑は赤杜の言わんとしている事をすぐに察した。


「『あの件』は、ベテラン捜査官だろうと知らない方が幸せだ。知った所で、得だけは絶対にしない」

「……ええ。そうっすね。骨身に染みて知ってます」

「……悪いな。傷を抉る様な忠告をしてよ。でも、大事な事だ。勘の良い奴や、運の悪い奴は何がキッカケで『気付く』かわかったモンじゃねぇ。その新人のためにも、俺やお前みたいな『知ってる奴』が気を付けてやらなきゃならん」

「おっさんが申し訳なさそうにする必要無いっしょ。福祉課は人が少ないせいで、一般からの相談を捌くだけでも四苦八苦してんだ。この件で捜査官が病んで福祉課の世話にならない様、課長様は気を配らなきゃいけないって事くらいはわかってますって」

「お前……本当に大人になったんだな、ボーズ」

「まだ若いっすけどね」

「ははっ、足掻くねぇ。お、ボーズ。これはどうだ? 見たか?」

「あ、それは結構アタリっすよ。オススメします」


 こうして、黒斑と赤杜はしばらくアレなディスク漁りをエンジョイしていた。




◆黒志摩ちゃんは暇を持て余すと危ない子になる◆

(二連休……今日と明日は黒斑さんに会えない……密かに撮った写メだけじゃ癒しが足りない……何かこう、全然モチベ上がらない。でも、こうして自宅でゴロゴロして時間を浪費するのは……何か有意義に時間を……そうだ、捜査官としてのスキルを磨こう! そして来る連休明け、黒斑さんに「うぉぉ、いつの間にそんな事まで。すごいなぁ黒志摩ちゃんは。流石は俺の黒志摩ちゃん。今日から左弥たんって呼ぶぜ☆」的な……ふふ、うふはっ…何かの拍子に頭なんか撫でられちゃったり……ふ、ふふふ……ふふふふふふふふ……!)


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