枯れ尾花(その4)
先輩は目に見えて落ち込んでいた。点数稼ぎというか、初手のしくじりを挽回しようと躍起になった結果ケアレスミスを生んだことに自信を無くしたらしく、今自己嫌悪の真っただ中にいる。口数が減った。
楓が袖を引っ張った。励まそうよ、と目で言ってきた。首を横に振る私。
「三岡先輩、元気出してください。墓穴を掘る事くらい人生で一度や二度じゃありません!」
結局一人で励ます事にしたらしいのだが、それってフォローになってるのか……?
墓穴ってほどのミスでもないと思うのだが。大げさだろう。
まあそれはいいとして。
私は件の隙間に視線を戻した。薄暗いが何も見えないという程でもなく、狭いと言っても人一人くらいは通れる幅(腹が出ている奴は知らん)。手元には投書。その両方を交互に見比べる。白い影。手を振る。アパート。投稿の日付が控えられていた。六日前。あの日はなにがあっただろうか。
「楓。六日前ってどんな日だった?」
まだ先輩いじり(無意識)を続けて相手の顔色を青くさせていた楓に、話を振ってみた。
「六日前はね……蒸し蒸ししてたよ。凄く晴れていい天気だったのに、それがちょっと残念だった」
思っていたよりも楓は六日前の事を憶えていた。急に振ったのによく思い出せたな。私など今の話を聞いてもちっとも思い出せていないというのに。
「その前の日はジメジメしてたよ。雲が厚くって太陽全然見えなかったんだよ」
本当、よく憶えている。
しかし、よく考えてたら、その出来事が起こったのは投稿の前日だよな。私も質問をしくじったらしい。それを認めでもしたら楓の励まし(心が傷つく)てくれただろうか。恐ろしい話だ。
「じゃあその前の日は?」
「雨降りだったよ」
その言葉に一つ閃くものがあった。まさかな。
「すごいね出島さん、よくそんなことを憶えているよ。私全然思い出せないや」
その通りだ……と同意の念を抱いて振り向いたら最後尾で深鈴先輩がビタミンが足りなそうな感じで土気色になっていた。彼女は自分の能力にすっかり自信喪失したらしく「どうせ私なんか……」と小声で何回も呟いている。
(おい楓、一体なにを言ったんだ?)
耳元に小声でそう聞いた。
何を吹き込めばあそこまで人は萎れるのだろう。
「んーとね、」
その先紡がれた楓の言葉を文章化させることを私ははっきり躊躇った。というか、出来ない。言える事は限られるが、まあ、今あなたが浮かべたどんな罵倒語よりも心にダメージを与えるだろう。『死ね』ぐらいでは到底敵わない、いやあ、無邪気な言葉ってあんなにも鋭く心に刺さるんだな。私のテンションも元々高くなかったにも関わらず、下がった。
「……ということをね」
話し終わった楓の表情は邪気の無い笑顔だった。
「楓、お前さ……」
「なあに、ゆーき?」
「人を励ますのこの先禁止な」
これ以上犠牲者を増やさない為にもそう言っておいた。