枯れ尾花(その3)
担がれているとはここまで来て言わないが、どうしたって勘違い以外になにがあるというのか。おおかたレジ袋が風に舞ってでもしてたんじゃないか?
「でもそれだと手を振ったと思いますかね」
先輩はなんと真面目に検証する気でいるらしかった。
隙間を睨む表情は真剣そのものだった。真実を見抜かんとする目。冷静な精神。やがて。
「スケスケの体のおじさんが挟まってでもいたんですかね?」
「真面目に考えてそれですか!?」
「『助けてくれ〜。室外機が〜。室外機が腹に引っかかっちまって動けね〜……』みたいな」
「結構切羽詰まってますね!? だったら助けないとでしょ!?」
「鼻水とかで顔面がぐっしゃぐしゃになってたのかも」
「それは逃げるわ!」
諸手を上げて。挟まった人には悪いが、それじゃトラウマものだ。
いや、そうじゃなくて。
「スケスケの体って無理あるでしょ……」
クラゲじゃあるまいし。
「でも投書にあったのは『幽霊』なんですよねえ。『お化け』だったら透ける必要ないけど、幽霊って書いてある以上、やっぱ透けてたのかなあって」
口の中に言葉を含めて自分に言い聞かせているような様だった。
深鈴先輩の考察は一理あると思った。おっさん云々は別として、幽霊と書かれていた以上観測されたそれは幽霊に準じるような特徴があったのでは、という考えには至らなかった。幽霊と言われるとうさん臭くはなからやる気が無かったが、「幽霊に見えた幽霊ではない何か」には興味をそそられる。しかもそれは手を振ったらしいのだ……。
「あれ? ユーレイっているんですかあ?」
楓が聞いてきた。またふんわりとした疑問だな。
「でも見たって書いてあるよ?」
「本当ですか?」
楓は深鈴先輩から投書の写しを受け取って、数秒後、
「書いてないですよう?」
「あれ?」
「は?」
写しをひったくって読んだ。「白い影」という描写はあるが、幽霊とはどこにも書いてない。
思い込みだったのか。関心して損をした。
「ちち違うの! その娘は私の知り合いで、直接話を聞いたときに幽霊だったって言ってたの!」
でも書いては無いですね?
「そうみたいね……」