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枯れ尾花(その2)

 ○ ○ ○



 神前りえという存在と関わったのはこれで四回目であるがその全てが今日という一日、それどころか半日の間での出来事だったが、しかし、どうだろう。そのどれもが違う一面を持って私と接していたようで、極端なことを言えばその一つ一つを切り離したら別人の様に思えるのではないだろうか。そんなどうでもいいことを思ったのはこの放課後の「先輩」の様子が特に変だと思ったのだ。

 いや、変なのはどちらかといえば初めの三回の方だろうか。

 会長の計略がつらつらと話し続けられているとき、私は「先輩」の様子を伺っていた。

 渡されたペラ紙を見つめている様は真剣そのものだった。こんな様相を呈する人間がコンビニで思わせぶりな行動に走るとは思えない。そう感じたのだ。

 本当に前会った三回と同一人物なのか。

 私の視線に気がついたのか、ふと「先輩」が私の方に顔を向けた。

《どうしたの?》と顔に書いてある。どうしたもこうしたも。今の「先輩」様子が今までのイメージと少し違っていたので首を捻ってただけですよ。コンビニで会ったとき、廊下で会ったとき、生徒会室で会ったとき、そのどれもと今のあなたの様子は別人かと思う程です。

「……そうか?」

 歯切れが悪い。本当どうしたのだろう。

「人がちょっと真剣に考えているからってそれはないんじゃない?」

 ふむ。「先輩」の言い分は尤もだ。確かに言われてみると「先輩」の変化の具合は許容の範囲かもしれなかった。しかし、確かに私は言葉にしがたい違和感が、胸の奥にひっかかりを感じているのだ。これはどうしたことだろう?

「ちょっと会ったくらいで私を知った気になるんじゃないよ」

 冷たいことを言う。これも、らしくないような。

 しかし小さい(身長のことだ)。

「関係あるのかそれ?」

 ああ、その不機嫌な態度だけは印象通りですよ。

「ほっとけ」

「先輩」はふいと顔を正面に戻すことで視線を私から切った。

 私もそれ以上、何かをいうことはなかった。



 ○ ○ ○



 定型の諸注意が話され、それから私たちは街に向けて散った。

 裏門を出てダラダラ続く長い下り坂を下る。さて、私はこの辺りのこと、前述の通りよく知らないのだが、

「わたしもよく知らない」

 フワフワと楓が言った。南側から登校する私と一緒になるので当然の話だ。じゃあ生徒会から出向した先輩に頼ることになるのか。

「いや、わたしもこの辺よく分かんないんだけど」

「………………」

 三人で押し黙ってしまった。

 やべえ。

「どうしよっか……」

 深鈴先輩、早くも頼りにならず。

「……とりあえず一番近いこの丸印に行きましょうか」

 何故か私がキャプテンシーを発揮している。

 やだなあ。面倒臭い。

 ちなみに短いやり取りの結果地図を読めるのが私だけだと判明した。私の指図で交差点を曲がる。

「ああ、えと、私は広報やってる三岡みおか深鈴です」

 なんか自己紹介始まった。

「私は出島楓です。好きな犬はートイプードル〜」

 聞いてねえし。

「……ほら」

 肘でつつくな。

「…………羽根村優希」

 以上。

「それだけ? もうちょっとなにか言おうよう」

 別に楓に今更自己紹介をする必要は感じないし、深鈴先輩にしたって資料なりなんなり見ているだろう。私がこれ以上何を言う必要があるのか。……なんて、自己紹介というイベントが嫌いなだけだが。

 そんなやり取りをしているうちにも目的地に近づいている。

 車が相互交通するのに十分な広さの道路。歩道はないが必要性を感じない。車が全然通ってないからだ。人通りも殆ど無い。印のつけられた地点というのはそういうところらしい。砂利が敷かれているだけの簡単な駐車場には車のものと思わしきバッテリーが捨てられたりもしていた。早い話、何所にでもありそうな光景だ。

 そんな変哲もない場所で変梃な目撃例があるのだという。

 記憶が間違っていなければ、ここは幽霊の目撃スポットじゃなかったか?

「えーと、ここの事についての投書は一通だけだね。一年生の女の子から」

 深鈴先輩が率先して仕事をやってくれている。おかげで楓には何の仕事もない。ただフワフワするんだったら私と役割を交代しないか?

「下校中、ふと何者かの視線を感じて、不気味に思ってその方向を伺うと、ぼんやりと白い影が浮かんでいてその影は女の子に手を振った。女の子は悲鳴を上げながらダッシュでその場を去った……。以上だよ」

 手を振っただけで逃げられたってのはなんだか浮かばれないな……。気の毒な話でもある。

「お化けだったから怖かったんじゃない?」

 楓は怖いか?

「全然?」

 細めた目を楓に向けてやったらそっぽ向いて口笛を吹きはじめやがった。今日日やらないだろそんな誤摩化し方……。

 こいつは。

「でも家と家の間の狭くて暗い所にいたって話だからそんなところに人影があったら不気味じゃない?」

 その家と家の間というのが方やウッドデッキ付きの一軒家、方や白塗り二階建てのアパートだった。隙間を除くと幽霊が……いるはずも無く、あるのは砂利と雑草と室外機ぐらいのものである。薄暗くじめじめとしていて、特段、死後ここに居続けたいとは思わない。





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