枯れ尾花(その1)
第三章
少なくとも私は自分の性格に対してあまりいい印象を持ってはいない。真面目に考察でも始めれば反省点やら改善するべき点やらが止めどなく出てきて自己嫌悪に頭を抱えることだろう。だから、そんなことはしないのだ。
まあ、そんなことが予想出来る程度には自分のことを知っているつもりの私だったが、知っている、即、全てのことを理解しているというのは極端かつ的外れな話であって、第一全てを理解するのに知っているべき要素が一つだけではないうえにそこにいくつもの集合のことだって考慮しなければいけない。正統派を気取ったようなルートでは時間がかかり過ぎて到底無理なことだろう。案外馬鹿正直に、素直に、真面目腐った人から見れば適当にも見られかねないような雑なものこそ、人を理解するための王道だったりするものだと叔母が言っていたが、まだよく理解していない。片意地張らずに力を抜いてやれという意味だ程度の解釈にしておいている。しかしこれじゃまだ理解が足りないのだろう。私の推理。
集合とスケール。
そういう話を叔母はよくする。今思えば睡蓮寺会長の度々出てきた「系」というのはこれのことだろうか。あの二人の接点が私には分からないが。類似点は性別と、あと同じヒトであるということくらいしか浮かばない。性格は全然違うと断言出来る。価値観だって、二人は似ているとすら言えないと私は思う。それなのに何故同じような考え方に至ったのだろう。ヘスの法則というものがあるけれど、それと似たようなものなのか。
要素と枠組みはそれぞれ独立したものだ。それを目的をもってして、集合と成すのだ。目的なき集合に意味はない。
そんな無意味なものに執着してはいないだろうか。意義のないことの固執してはいないだろうか。
ガランドウなものに構ってる時間なんぞ無駄であるどころか有害だ。
人がもつ時間など僅かなのだから。
……飽く迄、叔母曰く。
「やあ、昼食はどうしたかね」
休み時間に急いで済ませましたよ。誰かのせいでね。
放課後になって私は生徒会室を再び訪れていた。
部屋には会長と私と「先輩と」、あと知らない先輩(?)生徒が一人、プラス、
「ところで出島君。私は呼んだ憶えがないのだが」
「はいー。勝手についてきちゃいました」
何故か楓がいた。来んなっつったのに、もう。
「友達なのでー(そう言ってしまうことでそれが嘘であるかの様に聞こえることに、楓は気がつかない)」
そうか、と会長は案外簡単に納得した。
……あまつさえ。
会長から私と「先輩」にそれぞれペラ紙が渡された。学校周辺の地図、印のおまけ付きだ。印のつけられた範囲が改めて見ると意外と広い。これを全部回らなければいけないのか?
「二手に別れる。私は神前と南側をまわるから羽根村と出島は北側をまわってくれ」
……ちゃっかり頭数に入れていた。
通学に使う駅が南側だということだし、北側にはあまり行ったことがない。それはともかく調査のパートナーが楓であるのは悪い話じゃないな。説得次第ではまるまるサボれそうだぞ。
「サボろうだなんて思うなよ。お前には出島とは別に委員の深鈴を監視につけるからな」
「………………」
完全に見透かされていた。