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心優しき狼よ、曠野を行け  作者: 柿ノ木コジロー
第二章 ― 2 ―
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24 連鎖と判断 1

 たまにあることだが、事がつながってどこでその連鎖を止めればいいのか判らなくなる。

 連鎖が止められない、何だかとてつもなく莫迦げた事態なのではないか、そこに踏み込んでいくのを止めた方がいいのではないか、と思ったのが、まさにその時だった。


 カケルはたった一人、暗いトイレの個室内に座っている。暗い、もちろん、灯りはつけていない。

 前に一度だけここに来た。真夜中、死んでしまった父と、医者と看護師と。


 総合病院の地下一階、霊安室近くにあるトイレ内。一糸まとわぬ姿で、彼は個室の便座に腰掛けて、そして、待っていた。


 すべては偶然と、とっさの判断との結果だった。

 

 その日の午後一番に、カケルはまた、ムカイヤからの電話を受けた。

 ホンカワチの件を急ぐように、との催促だと思い込んでいたので、

「はい」

 やや控えめに電話に出た彼は、ムカイヤの意外なことばに「えっ」と再度聞き直す。


 ムカイヤの優しげな声はいつものことだが、その中にいくばくかのためらいを感じとる。

「あの件とは別に、少し急ぎでお願いしたいことがあって」


 オーダーが重なったのは初めてだった。


「あちらはもちろん、慎重にやってほしいので当分手をつけなくても大丈夫だよ、でもね、申し訳ない、もう1つの方をできれば今週中にお願いしたいのだけれども」


 こちらも、ほどほどに近所の部類だった。かなりの高齢者で、一人暮らし。身の回りのことはたいがい独りでやっているらしい。いつも決まった時間に犬を散歩させるために外出しており、散歩のコースも時間も決まっているので「会う」ならばその時 ― 早朝か夕方がいいだろう、とムカイヤは言った。


 山に近い細めの市道と、少し大きな川沿いの土手とが老人の散歩コースだとのことで、夕方近く、カケルは車でその場所を見に行った。

 もし何ならばついでに、と思ってピアスをつけて出かけてみる。


 あまりたくさんのシゴトをいっぺんに抱えるのは気が重かったから。しかし、その老人が犬を散歩させている様子を観察して、やはりやるならば早朝が良いのかもしれない、とそのまま家に引き返した。


 黒縁眼鏡の、痩せた後姿をこれまた毛のぼさぼさしたような痩せた中型犬がとぼとぼとついて歩いていた。犬の色もよく判らないくらいくたびれた感じの色合い、その一人と一匹とだけ、周りとは違うセピア色の補正がかかっているかのようだった。


 明朝、また来てみよう、とカケルはピアスを外さずにその晩を迎えていた。 


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