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心優しき狼よ、曠野を行け  作者: 柿ノ木コジロー
第二章 ― 1 ― 
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15 合宿所襲撃 4

 階上からどすどすと足音が聞こえる。「なんだよ」「エミの声だった?」「ぎゃあ」「廊下の灯りどこだよ」声が輻輳する。その中でメスが次の1人を倒した。後から調理室を覗いた子のようだった。声ひとつたてない。

 オスは脇の暗がりに張り付くように立ち尽くしていた1人を前足でなぎ払い(後で降りてきた子のようだった)、目の前に倒れたところを始末した。


 二階から降りてきた連中に最初の生き残りだった1人が叫ぶ。「誰か、だれかだれかだれか」

「なんだよ、落ち着け」男子がひとり、進み出た。

 それをメスが一瞬で倒した時、同時に廊下の電気がついた。調理室から喉も裂けんばかりの怒号が彼らの耳に届く。


「逃げろ! オオカミだ!!」


「まじかよ……」

 廊下はすでに血で光っていた。隅に倒れていたひとりの綺麗な指が天井を向いているのになぜかみんなの目が向いている。

 メスは声に反応してくるりときびすを返し、調理室に走る。とりあえずこの子たちはオスに任せるらしい。


 オスは匂いを確認する。狼は数を数えない。数えられるのかどうかも考えたことはない。実際、残った生徒は7人のはずだがそれも計算ではなく、匂いで判断するしか今の自分には方法がなかった。倒した子どもはメスが3とオスが1、残った子どものオスが3、メスが4。


 一瞬でついた判断で、狼は次の獲物に向かう。大きな跳躍で残った中の一番大きなオスの個体に襲いかかった。


 そこからはほとんど考えることなく、狼は次々と獲物を倒した。携帯をかけようとしているものを優先的に襲い、次に非常口から外に逃げようとしていたふたりをまとめて押し倒し、流れ作業のごとくその喉に食いついて絶命させた。


 子どもらは逃げるプロではなかったせいで、もしかしたら同時に逆方向に逃げたらひとりくらいは生き残ったかも知れない、しかしやはり、子どもは子どもだった。


 最後のひとりは少しだけ知恵を使おうとトイレの個室に逃げ込んでいた。しかし、狼は仕切りの上に跳び上がってほとんど逆立ちせんばかりの姿勢で中に身をねじりこませた。

 いぎゃぁぁぁぁ、と小柄な少女は叫んでかけようとしていた携帯電話を取り落とした。ちょうどどこかにつながったらしく、表示が変わったがそれを必要としていた者はすでに狼に喉を咬み裂かれていた。


 狼は狭い個室の便座に飛び乗って、そこからまた外に向って跳躍した。

 急に、残してきたメスのことを思い出し、狼は先ほどの調理室に急ぐ。


 彼女は一糸まとわぬ姿で、片隅に倒れ伏していた。血が見えた、あまり多くなかった、だが、確かにそれはイブの血だった。


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