12 合宿所襲撃 1
そこは山間部の廃校を改装した宿泊施設だった。
彼らは一番近いローカル線の駅まで車で向かい、そこからは狼に姿を変えて山を抜けてその地に駆けていった。
メスとオスは、後になり先になり崖沿いの県道を目的地めざす。時折通りかかる車に見られないように、エンジン音が近づくたびに山側に駆け上ったり、反対側の崖に潜んだり、それでも二時間もしないうちに、彼らの獲物が待つ場所へと到着した。
今回「逢ってくれ」と頼まれたのは十四名。高校生のための何かの養成講座を泊りがけでやっている、引率の教員が一名、助手としてついている大学生が二名、残りの十一名が高校一、二年生なのだという。
それを全員、というのはあまりにも酷いのではないだろうかとカケルはもちろん思わないではなかったが、やはり命令には逆らえない。今まで殺してきた人間たちのためにも今回だけは「人数が多いし若者だし何だか勉強のために集まっているらしいですよ」と放棄するわけにはいかないだろう。
狼になって走っている頃にはすでに、まったくためらいは感じてはいなかったが。
渓流の絶え間ない水音が切り立った崖にこだまして、カジカガエルの軽やかな歌が合間に転がるように鳴り響く。
潜む叢に虫の音はいったん止んだものの、再び短い生をはかなむような歌が立ち上がる。
二頭は、草で覆われたグランドと木造校舎との間にある並木の影に身を沈めた。
グランド側から、二階建ての木造校舎だった建物が全て見渡すことができた。一階の片隅、白っぽい灯りがはかなげに漏れる大きな教室がある。調理室なのだろう。白い大きめのテーブルが6台配置され、前側の出入り口に近いひとつに、三人座っているのが見えた。
資料をテーブルいっぱいにひろげ、どこかの戸棚から出してきたのだろうか、御揃いの白いコーヒーカップをすぐ脇に置いて何か熱心に話し込んでいる。明日の打ち合わせでもしているらしく、引率の教師らしい年配の男と大学生の男子が二人、それでもくつろいだ様子でお互いに向かい合っていた。時々控えめな笑い声も漏れる。
高校生たちはすでに眠ってしまったのか、他の部屋は真っ暗だった。
メスが鼻づらを近づけた。
― 先生をやっつける。アンタは大きな方の男を
― わかった
― 残りの小さい方は、早く済んだ方が
― わかった
オスも同じように鼻づらで合図する。
相手は武装していない、それに今は夏休みだ。そんな思いが油断を生んだ。




