11 じゃれ合い
カケルが25になったばかりの、冬の始めのことだった。
ねえカケル、今日は狼は無しだよ、そう言ってイブがいつになく陽気な目をしてもたれかかってきた。
何だよ、オオカミなし、って。
そう言いながらカケルが口をつけようとしていたコーラをイブは横からかっさらい、挑戦的な、しかし笑いが隠しきれない目つきで彼の顔を睨みつけたまま飲み出した。
「何で取るんだよ」
カケルが伸ばした手をうまくかわして、尖ったあごを突き出して更においしそうに口に運ぶ。
「返せよ」
もはや、カケルにも闘志はない。笑いながら手を伸ばす。「返せ、喉乾いてんだから」
「いやだよ。室温もっと下げなよ、暑すぎなんだよ」
「違う、暖房のせいじゃないよ……返せ」
お互いにくすくす笑いながら返せ、いやだを繰り返して揉み合っている。
「よーし」カケルは笑いながら「だったらいいかー、いくぞ『あれのをゆけ』……あれ」
バーカ、とほとんど空になったコーラのボトルでイブはカケルの胸元をつついた。
「さっき寝てる時に外しちゃったよ、ピアス」
「なぬっ!?」確かに、まだコトバを認識しているし姿は貧相なニンゲンのまま。
「チクショー、やりやがったな」
「あのねえ」
ようやく笑いの発作を収めて、妙に真面目な顔を作ってイブが答えた。
「畜生、ってドウブツのことなんだよ、だからそのまんまじゃん? アタシらが悪口いうんならそうだな……この、ムカイヤめ!」
エアコンが効いて温かかったはずなのに、カケルの両腕に一瞬、鳥肌がたった、がすぐに可笑しくなってまた、笑う。いったん笑いだしたら止まらない。腹を抱えたままイブの方に倒れ込み、ちょうど目の前に飛び込んできた形のよい乳房に舌をのばす。
「何すんの、このヘンタイ」
イブがコーラのボトルを振りまわす。中身が泡となって辺り一面に飛び散った。
「喉乾いてんだ、何か飲ませろ!」
「だから、やだって! 前からくんな、このヘンタイオオカミ」
「のませろー」
「出る訳ないでしょ、やだっ! もおっ」
カケルは舌を伸ばし、届く限りあたり構わずイブのすんなりとした身体を舐めまわした。これじゃあ、まるで犬だよな、思いながらも本当に目の前の身体すべてが愛おしく感じて、やみくもに舐めまくる。でっかい飴をもらった小さなガキだ、そんな絵が頭に浮かぶ。
「くすぐったい、あはははは」よーし、とイブは同じように舌べらを出して彼に迫る。
散々相手を舐めつくしたあとで、疲れ果てた二人はそのまま抱き合って眠った。
舐め合ってお互いを味わう、そんな幸せな時はそれから少しして終わった。




