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心優しき狼よ、曠野を行け  作者: 柿ノ木コジロー
第二章 ― 1 ― 
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06 目の中のゴミを

 こんなこともあった。目にゴミが入ったのだ。


「あれ」カケルがかがみ込むと

「どしたの」イブがすぐに駆け寄ってきた。


 左目に何か入ったようで、チクチクする。


「見せてごらん」

 伸ばしてきた手を軽く振り払い、カケルは鏡をみる。

 赤くなった目の中に何が入ったのか、自分ではよく判らない、しかしゴロゴロする感触にずっと苛まれている。


「ちょっと、こっち向いて」

 無理やり顎を引っ張られた。

「やだよ」カケルは更に身を引いた。そこにイブは身体を寄せる。

「見せてみなよぉ」

「やだ。オマエすぐ痛くするし」

「しないよぉ」そう言いながら、何故か彼女は舌を長く出して彼に迫る。

 カケル、怖くなって座ったまま後ろに下がる。


 イブは、舌先をそおっと彼の左目に伸ばした。「じっとしててね」


 目の中に、彼女の舌を感じる。温かく、柔らかい。とても柔らかい。


「何……」イブの舌が、彼の眼球を優しくまさぐる。カケルはじっと、その舌を受け入れた。


 しばらくその感触を楽しんでいたが「あ」急に、彼女が舌を引っ込めた。


「取れた、気がする」

 気づいて、カケルもそっと瞼に手をやる。まだ視界は曇っていたが、確かに、違和感は消えていた。


「……すげえ」


 何でこんなこと思いついたのか、聞いてみたら彼女

「昔ね、」急に子どものような口調に戻る。

「ひいばあちゃんがいたのよ、うちに」


 大ばあちゃんと呼んでいたのだと。大ばあちゃんは、砂糖をこぼすと

「人差し指をまず舐めて、それからていねいに砂糖を拾うのよ、それで指にくっついた砂糖は全部、舐めとっちゃうの」

 昔の知恵をふんだんに教授してくれたのよ、と彼女は爽やかに笑う。

「大ばあちゃんはね」うれしそうにことばを続ける。

「目にゴミが入ったらね、こうして舐めて」また、ばら色の美しい舌を突き出した。


 その色と形に、カケルはどきっとする。


「それでたいがいは、きれいに取ってくれた、それを思い出したの」


 舐めるって、大切なことなんだよね、イブは笑う。へええ、とその時は適当にうなずいていたカケルだった。


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