06 目の中のゴミを
こんなこともあった。目にゴミが入ったのだ。
「あれ」カケルがかがみ込むと
「どしたの」イブがすぐに駆け寄ってきた。
左目に何か入ったようで、チクチクする。
「見せてごらん」
伸ばしてきた手を軽く振り払い、カケルは鏡をみる。
赤くなった目の中に何が入ったのか、自分ではよく判らない、しかしゴロゴロする感触にずっと苛まれている。
「ちょっと、こっち向いて」
無理やり顎を引っ張られた。
「やだよ」カケルは更に身を引いた。そこにイブは身体を寄せる。
「見せてみなよぉ」
「やだ。オマエすぐ痛くするし」
「しないよぉ」そう言いながら、何故か彼女は舌を長く出して彼に迫る。
カケル、怖くなって座ったまま後ろに下がる。
イブは、舌先をそおっと彼の左目に伸ばした。「じっとしててね」
目の中に、彼女の舌を感じる。温かく、柔らかい。とても柔らかい。
「何……」イブの舌が、彼の眼球を優しくまさぐる。カケルはじっと、その舌を受け入れた。
しばらくその感触を楽しんでいたが「あ」急に、彼女が舌を引っ込めた。
「取れた、気がする」
気づいて、カケルもそっと瞼に手をやる。まだ視界は曇っていたが、確かに、違和感は消えていた。
「……すげえ」
何でこんなこと思いついたのか、聞いてみたら彼女
「昔ね、」急に子どものような口調に戻る。
「ひいばあちゃんがいたのよ、うちに」
大ばあちゃんと呼んでいたのだと。大ばあちゃんは、砂糖をこぼすと
「人差し指をまず舐めて、それからていねいに砂糖を拾うのよ、それで指にくっついた砂糖は全部、舐めとっちゃうの」
昔の知恵をふんだんに教授してくれたのよ、と彼女は爽やかに笑う。
「大ばあちゃんはね」うれしそうにことばを続ける。
「目にゴミが入ったらね、こうして舐めて」また、ばら色の美しい舌を突き出した。
その色と形に、カケルはどきっとする。
「それでたいがいは、きれいに取ってくれた、それを思い出したの」
舐めるって、大切なことなんだよね、イブは笑う。へええ、とその時は適当にうなずいていたカケルだった。




