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心優しき狼よ、曠野を行け  作者: 柿ノ木コジロー
第二章 ― 1 ― 
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05 初仕事

 メスはどうだったのだろう、彼女には何かためらいとかおそれとかはあったのだろうか。

 最初に音楽室に呼び出された時から、そんなものは全然感じられなかった。

 それは単に、自分が鈍感だったからなのだろうか、カケルは何度も追想してみたが、結局何も思い至ることがなかった。ただ、当時の様子が画像の粗い映画のように、断片的に脳裏をよぎる程度だった。例えば


 メス狼の噛み方は上手だ、近づき方も。音もたてずに近くまで忍び寄り、至近距離から吸い付くように獲物を捕らえてから流れるような動作で首筋を噛む。



 その日はオスの狼にとって初めての『シゴト』となった、狼はメスが人間を襲う様子を脇に感じながら、自らのターゲットに襲いかかった。

 先月の狩りに付き添って(その時は単なる見学だった)メスのやり方をよく観察していたおかげで特にためらうことなく相手を襲うことができた。襲いかかってしまえばあとは体が勝手にことを成し遂げてくれた。


 相手の女はあっさりと彼の前に倒れ、そして絶命した。


 メスの襲ったのは大きな男だった。それでもいともたやすくメスは人間を斃した。男は風の鳴る音だけを残し軽い痙れんを起こしながら、メスの身体の下で息を引き取っていった。


 すごいね、イブ。


 カケルは帰ってきてから彼女を抱いて、それから心底感心した目でその白いからだを見つめた。

 あんなにすんなり……何て言えばいいんだろう、その、あのさ。


「殺すのは、簡単だよ。コツさえわかれば」


 え、と少し思考が止まったが、すぐにイブが彼の口元に近づけてきた肩の丸みに心を奪われる。


 狼には、何も罪悪感などない。罪悪感というものはニンゲンの特権らしい。


 それはいいことなのか、呪われたものなのか。ひたむきにイブを求めているカケルにはその刹那にはどうでもいい事柄だった。


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