22 東京は海のそこ 2
海は不思議だ。海は何を包んでいるのか分からない。
だからそこに居る生き物や化け物がひとつひとつ目の前に晒されるたびに、俺は確認のためにそれらをじっくりと眺め、挨拶を送る。
やあ、君の世界に招いてくれてありがとう、僕も仲間に入れてくれるかい?
よく食事の時、海中の様子をVTRで流しているたび、テレビにくぎ付けになった。夏実にはひやかされ、恵には小言を言われ、琢己にもよくチャンネルを替えられてしまった。
「何がそんなにいいの? 海」
ある日夏実から真剣にそう訊ねられ、俺は箸を宙に浮かせたままやはり真剣に考えた。
「自分には、居られない場所だから」
ようやくその答えを導き出した時には、もう誰も自分を注視していなかった。
誰かのお代わりを取りにいきながら、恵が言う。
「そんなに好きなら、さかな屋になればいいのに」
それってさ。さかなは海に居たんだけど、海とは全然関係ないんだよ。
夏実がそう頬を膨らませた。
恵は「ぜんぜん意味分かんないー」と小馬鹿にしたような目で首を振っていた、もはや誰も会話の成り行きなど気にしていなかった、むっとして口を尖らせた夏実以外は。
俺には、夏実の言いたいことがよく分かった。しかしその時は漠然とこう思っただけだった。
何て辛いことだろう、最も正しいことが見えている人間が、最も正しく言葉を発するとは限らないのは。
気がつくのが、いつも遅い。だから琢己のことも気づかなかったんだ、ずっと。
あの赤いライターの意味も。




