09 狼の犬への的外れな同情
ご飯を食べているラブの目前にしゃがみこんで膝をかかえ、カケルはじっとそれを見守っていた。
「いいよな、お前は」カケルは下を向いたラブの頭に手を載せた。腕を伸ばしたとたん、脇腹がひきつれるように痛んだ、が、もうひるむほどのものではない。
お構いなしにカケルは犬の頭を撫でる。
ラブは今日はあまりキゲンが良くないらしく低く唸りながら、それでも残飯をかっこんでいた。みそ汁とキャベツの芯とアジの開きの残った部分と固くなったご飯とがくったりと煮込まれていて、特にご飯とキャベツとの絡み具合が絶妙で、魚の骨が嫌いなカケルですら横取りしたくなるような美味さにみえた。
白っぽい、少し巻き毛のはみ出した2歳半のメス犬はかなり丈夫で、こんな塩けの多いものでも平気で腹に収めている。飼い始めた頃はかなり慎重に缶づめやエサを選んでいた恵も、近頃では家族の残りをぞんざいにまぜて煮詰めては犬の餌にしている。
「お前には、苦労はないのかなあ」
カケルのことばに、ラブは少しだけ頭を上げ、彼の手を二回ほど舐めてからまたご飯の続きに戻った。
カケルはぼんやりと想像する。ラブがあのクリハラという交通誘導員みたいな男に、ライトセーバーでばんばん打たれている様子を。
気分が悪くなってきた。なんか、それは許せないなあ、素直にそう思い、つい、ラブを撫でる手に力が入る。ラブはまた低く唸った。
コイツが打たれる姿には、我慢できないものがある。なのに……自分の場合にはあまり怒りが沸かない。
「俺、きっとどっか壊れてんだな」
ちょうど食べ終わったラブに向かってそうつぶやく。ラブは名残惜しそうにいつまでも皿を舐めていた。それからようやく、離れようとした彼の手を舐めた。




