04 店内の騒ぎ
店内の人びとはみな、魅せられたようにそちらを向いてそのまま固まった。窓の外の光は目を焼くほどではなく、じっとりと湿ったようなつややかな白。それが一瞬で大気に満ちたかのように、風景をすべて消し去ろうとしていた。駐車場はまだ辛うじて見えていた。だがその向こう側の民家は、屋根のあたりがすでに消えている。
匂いがした。カケルは反射的に身を伏せてテーブルの下にもぐりこむ。カタカタと頭上の照明や食器が小刻みに鳴る音がした、と思った時突然激しい揺れが襲った。
悲鳴、ドリンクバーの機械や食器が倒れる音、物が割れる音が続けざまに聴こえたが、カケルは我が身を護るのに精いっぱい、身をかがめて頭を押さえていた。がんがんとテーブルの底面に指が当たる。縦揺れか横揺れかも分らない。悲鳴は更に響いていた。先ほどと同じ人間なのか、違う人間なのか、あれはヒメイ係の仕事です、頭の中のどうでもいいキャスター口調がそう冷静に告げた。ヒメイ係も、早くテーブルの下に入ればいいのに。それよりも本当は、店の外に飛び出せばいいのかも知れない。何人かは実際に、そうしたらしく叫び声とともにドアをばたん、と乱暴に開け閉めする音も耳に届く。
しかしあの光、あの中に出て行くのにも勇気はいるだろう、しかしこれは一体何だ?
揺れは唐突に収まった。小刻みな震えは、脚からきているのか。まだ揺すられているような感覚が残ったまま、カケルはテーブルから這い出す。今更になって、何か大きな棚が倒れたようで、ずしん、とどこかバックヤードで何かが響く。
「地震?」
どこかでお互いに確認し合っている声がした。「だいじょうぶ?」「何だったの今のは」「火は出てないよな」「ケガしてない?」辺りを見回すと、物が散乱している割に、人びとは無事でいたようだった。カケルのようにテーブル下から這い出す姿もまだ何組かあった。スタッフが厨房から数人、店内に走ってきた。
「お客様、恐れ入ります」店長だろうか、年輩の男性が大声を張り上げた。
「落ちついて、まず頭を何かで守っていただいてから、すみやかにこちら出口から外においでください。だいじょうぶです、今は収まってますから。駐車場では他のお車に十分気をつけて」
誰かが財布を出そうとしたのを見たのか「今日はお代はけっこうです、とにかく外へ」と叫ぶ。「サエグサくん、誘導頼む」すぐ後ろにいた30代くらいの女性スタッフに声をかけ、自分はまたあたふたと厨房に戻った。
サエグサという女性は固い表情のまま、出口付近で人びとが集まってくるのを待っていた。奥の方にはもう入りたくないらしい。かちかちとまだ何かガラスのふれ合うような音が残っている中、客だった人たちは荷物を抱えて(文字通り抱えて)、明るい出口へと引き寄せられていった。気がついた時には電気はすべて消えていた。カケルも立ち上がって、ざっと一通りケガがないかを確かめてからふとテーブルに目を戻す。
諭吉はいなかった。




