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心優しき狼よ、曠野を行け  作者: 柿ノ木コジロー
第一章 ― 2 ―
27/148

02 ファミリーレストランにて

 カケルが珈琲を三杯飲み終え、カップを置いたたところで、諭吉が何の脈絡もなく言った。


「なっしー、オマエ、チャーリー・ブラウンに似てるよな」

「はぁ?」

 つい頭の上に手をやる。諭吉が仕方ないなあ、という顔で笑う。

「髪の話じゃないよ」


 見かけからすると、丸顔にちいさな目、どことなくずんぐりした感じは諭吉の方がピーナツの登場人物に近い気がする。少し驚いた時に両手を前に持って行って身を引いたようなポーズをするのも、らしくみえる。それなのに


「オレが、似てる?」


 ここに入ってからずっと、ガマンして彼の話を聞いていたカケルはつい大きな声を出した。


 諭吉はハンバーグステーキの鉄皿を千切ったパンで丹念にぬぐいながら、「ああ」と応えて軽く肩をすくめた。それも何となくマンガのようにみえた。


「どこが、似てるって言うんだよ」

「え?」


 パンが手から落ちたのをまた三本の指でつまみあげ、すでにじっとりとソースの浸みたパンで、皿に残った肉片まですくい取ろうとしている。その作業に集中しているのか、諭吉のことばはやや滞りがちになった。

「その、なんというか、おっと」

「フォークで刺せばいいのに」

「え、何を」

「パンをさ」

 うんうんとうなずきながらも、諭吉はなおも指でこねるようにパンを皿に押し付けていた。


 カケルはじっと様子をみながらおもう、昔からこんなところがあった。他人のいう事はあまり聞かない、自分のやり方に固執する。


 そして人の話も聞いているフリをして、その実何も聞いていない、自身の言っていることも深く考えていないのではないだろうか。


 父の古くからの知人をふと思い出していた。

 カケルが幼い頃、父がまだ現役で働いていた頃には、家にもよく訪ねてきたものだ。

 とは言え、もう十年、十五年以上も会っていない。

 なぜかいつも二人組になって、遊びに来ていた。一人は痩せて背が高く、いつもにこにこと穏やかな笑みを浮かべ、もう一人はずんぐりと小太りだったのにたいがい、渋い顔をして額の汗を拭いている、そんなイメージだった。

 彼らのうち、にこにこしたおじさんがいつもカケルを見るたびに、何かと話しかけてくれたり、時には自分が食べていたお菓子や店屋物などを少し分けてくれたりした。それでつい、二人が訪ねてくるとカケルは父の部屋をのぞきに行ってしまったのだが、結局最後には父に「今から大事な話があるから」と追い出されるのが常だった。


 だが、実際は父よりももう一人の客、小太りの男――渋い表情のままカケルにはいっさい話しかけてこない男の目線が、無言のうちに彼を追い出しにかかっていた、という気がしていた。


 決して無口だというわけではなく、父に対しては早口に、言いたいことを言っていた。父はそのたびに「クサカベの言いたいことも分かる、だがな」そうさえぎった。それでもクサカベと呼ばれた小男は更にしつこく、父に食いついていた。


 声の感じが似ているのか、自説に固執しながら実際は何を考えているのか分からないような雰囲気が似ているのか、単に丸っこい見た目からか、カケルは諭吉のよく動く口を見ながら、ばくぜんとその男の姿を重ねていた。


 カケルは自分のカップを脇に寄せる。相手の喰いっぷりを見ていただけで腹は一杯だった。

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