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心優しき狼よ、曠野を行け  作者: 柿ノ木コジロー
第一章 ― 1 ― 
23/148

22 狼と犬との会話

 ラブの前にしゃがみこんで、カケルは何度かお座り、と言ってみたが全然言うことをききそうもなかった。とにかく興奮している、駆け寄ってきては彼の腕と言わず顔と言わず舐めるか噛むか、あるいはその両方を同時にやろうとして、またすぐ身を翻して逃げるフリをしながら、また襲いかかってくる。いや、遊んで欲しいだけなのだろうが。


「ラブ、おすわり」


 何度も空しく伝えながら、そうか、ご飯を先にやらねば。とようやく気づく。


「ねえ、ラブ」


 しっぽふりふり。


「……うまいか?」


 ふりふり。


「お前、幸せ?」


 これもふりふり。


「ところでさ……聞いてほしいことがあるんだけど」


 これは無関心。


 聞いてみたいことは山ほどあった。俺たちは同類なんだろう? 色々教えてほしいことがある、縄張りとか、本能のこととか。殺すということについてとか。


 イブには結局、詳しく聞けずに終わってしまったこと。


 しかし、まずは簡単な質問から。


 まずはオトモダチから、ってところか。カケルは少し考える。


「……俺のこと、好きか?」


 これにはかなりな高反応。千切れんばかりに振られるしっぽ。


「すげえ、好きなんだ?」


 少し、振り方が鈍くなったような気がして内心焦る。質問を変えよう。


「ラブはさ、家族の中で誰が一番好き?」


 もちろん、答えはない。


「答えにくいか……じゃあ、一人ずつ聞くぞ。メグのことは好き?」


 意外にも、しっぽをふりふり。ちぇ、いつもエサやってるの、メグだからな。


「じゃあ、太一は?」


 ふりふり。


「夏実は」


 ふりふり。


「……琢己は?」


 これも意外なほど、しっぽを振る。琢己はまったくラブには関心を示さない。ほとんど接点がないはずなのに。


「晴樹は」


 一応、ふりふり。


「圭吾は」うう、義理の兄を呼び捨てにしてしまった、ここだけの話だぞ。


 ふりふり。


「ばあちゃんは?」


 ふりふり。少し鈍いかな。これだってほとんど接点はない。


「じいちゃんは?」


 ふりふり。もう、どうでもいいという振り方になっている。舌は懸命に空の皿を舐めている。


「お前さ……」


 カケルは半分、あきれたように言った。


「本当は、どうでもいいなんて思ってる? 俺の質問なんて」


 ふりふり。


「……明日、雨じゃなくてパンティー降ってくるらしいぜ、じょしこーせーの、知ってた?」


 かなり大急ぎなふりふり。


 そうだ、コイツも女の子だったなあ、何聞いてるんだろう、俺。


 結局、相手は何にも聞いてないんだな、と妙に納得して、カケルは犬の前を離れる。


 本当はもっと真剣に、別のことを聞いてみたかったはずなのに、犬の明るいとも言えるいい加減さに結局、自分も振り回されただけという感じだった。


 所詮、犬に相談してみようか、だなんて思ってしまった自分もどうかしている。


 ちょうどご飯の終わったラブ、目の前にまだ『大好きな』カケルを認めて走り寄った。


 だがすでに気持ちの逸れたカケルは、自分の部屋へと戻って行った。

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