22 狼と犬との会話
ラブの前にしゃがみこんで、カケルは何度かお座り、と言ってみたが全然言うことをききそうもなかった。とにかく興奮している、駆け寄ってきては彼の腕と言わず顔と言わず舐めるか噛むか、あるいはその両方を同時にやろうとして、またすぐ身を翻して逃げるフリをしながら、また襲いかかってくる。いや、遊んで欲しいだけなのだろうが。
「ラブ、おすわり」
何度も空しく伝えながら、そうか、ご飯を先にやらねば。とようやく気づく。
「ねえ、ラブ」
しっぽふりふり。
「……うまいか?」
ふりふり。
「お前、幸せ?」
これもふりふり。
「ところでさ……聞いてほしいことがあるんだけど」
これは無関心。
聞いてみたいことは山ほどあった。俺たちは同類なんだろう? 色々教えてほしいことがある、縄張りとか、本能のこととか。殺すということについてとか。
イブには結局、詳しく聞けずに終わってしまったこと。
しかし、まずは簡単な質問から。
まずはオトモダチから、ってところか。カケルは少し考える。
「……俺のこと、好きか?」
これにはかなりな高反応。千切れんばかりに振られるしっぽ。
「すげえ、好きなんだ?」
少し、振り方が鈍くなったような気がして内心焦る。質問を変えよう。
「ラブはさ、家族の中で誰が一番好き?」
もちろん、答えはない。
「答えにくいか……じゃあ、一人ずつ聞くぞ。メグのことは好き?」
意外にも、しっぽをふりふり。ちぇ、いつもエサやってるの、メグだからな。
「じゃあ、太一は?」
ふりふり。
「夏実は」
ふりふり。
「……琢己は?」
これも意外なほど、しっぽを振る。琢己はまったくラブには関心を示さない。ほとんど接点がないはずなのに。
「晴樹は」
一応、ふりふり。
「圭吾は」うう、義理の兄を呼び捨てにしてしまった、ここだけの話だぞ。
ふりふり。
「ばあちゃんは?」
ふりふり。少し鈍いかな。これだってほとんど接点はない。
「じいちゃんは?」
ふりふり。もう、どうでもいいという振り方になっている。舌は懸命に空の皿を舐めている。
「お前さ……」
カケルは半分、あきれたように言った。
「本当は、どうでもいいなんて思ってる? 俺の質問なんて」
ふりふり。
「……明日、雨じゃなくてパンティー降ってくるらしいぜ、じょしこーせーの、知ってた?」
かなり大急ぎなふりふり。
そうだ、コイツも女の子だったなあ、何聞いてるんだろう、俺。
結局、相手は何にも聞いてないんだな、と妙に納得して、カケルは犬の前を離れる。
本当はもっと真剣に、別のことを聞いてみたかったはずなのに、犬の明るいとも言えるいい加減さに結局、自分も振り回されただけという感じだった。
所詮、犬に相談してみようか、だなんて思ってしまった自分もどうかしている。
ちょうどご飯の終わったラブ、目の前にまだ『大好きな』カケルを認めて走り寄った。
だがすでに気持ちの逸れたカケルは、自分の部屋へと戻って行った。




