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心優しき狼よ、曠野を行け  作者: 柿ノ木コジロー
第一章 ― 1 ― 
15/148

14 貰い風呂 1

 お風呂、もらうよー


 それがいつもの母屋の連中への挨拶のひとつだった。


 風呂くらいゆっくり浸かりたい、そう願いながらもカケルの住んでいる離れには風呂の設備はなかった。だからどうしても毎晩、母屋の風呂を借りざるを得ない。

 母屋に住んでいる家族は全部で8人。お風呂はみな夕食後に入る、ということでいつもその時間の風呂は混むに決まっている。

 母親は「カケルはぬるいのが好きだから、後でいいでしょ? その後で私が入るから最後から二番目にすれば」と勝手に順番を割り振ってくれたので、夕飯から戻ってから再度、今ごろかな、と思う時間に母屋に顔を出す必要がある、ほぼ毎晩。


 子どもの都合や姉のダンナの帰宅時間によっても風呂に入れる時間が異なる、だから姉には「入れるって時間にケータイに連絡ちょうだい」と言ってあったのだが、姉はそんなお願いにも「アタシだって忙しいんだから、適当に見に来てよ、遠くはないんだし」と軽くいなされた。


 上の子どもが思春期に入るにつれ、事情はもっと複雑になった。もうみんな風呂が終わっただろうと思う頃に母屋に覗きに行っても、まだ子どもが数人入らずにいる、ということが相次いだ。うん、このドラマ終わったら入るから、え? そう兄、今から入るの? えっと、あと10分で終わるんだけど、あ、それから髪の毛洗うから時間かかるかも、いいでしょ?


 よくない、という返事はあり得ない。カケルはその都度だまって離れに戻る。


 つい、飲む量も増えてきた。母屋での夕飯時には、晩酌はしない。義理の兄に遠慮している部分もあるし、晩酌をするとつい、ゆっくりしたくなるので酒はいつも離れに帰ってからにしている。

 風呂が遅くなるにつれて、飲む量も増えてきた。暑い時にはビール、寒くなると日本酒を熱燗で。ジンやウィスキーは好きなのだが、どうしてもコストのことを慮って4リットルの焼酎がメインとなる。つまみはたいがい、日中にコンビニで買っておく。乾き物でもいい。肉や魚はほとんど食べないので主に豆類やクラッカーが酒のあてとなる。


 向谷から依頼された仕事がある晩ですら、飲んてしまうようになった。さすがに軽く一杯程度で止めていたが、ある晩、気づいたら右手が勝手にお代わりをグラスに注いでいた。かなり気の利く部下みたいなヤローだな、おし、えらいぞ明日から主任にしてやる。と独りでつぶやいて右手を褒めてやった。


 かなり飲んでしまってからよろめきながら母屋に向かうのは辛い。しかし、「今夜は入らない」と言おうものならば母親に「私が待ってるんだから、ちゃんと入ってよ」とプレッシャーを受ける。風呂に入るという、普通ならば日常の中でも心休まるいっときのはずが自分にはかなりの負担となっている。


 今夜もカケルはすっかり酔っぱらった状態で、母屋に向かう。


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