10 生まれた時から狼は狼
私たち狼は、匂いで仲間を見つけるの、アナタは今まで仲間を見つけた事がなかったの?
そうイブに問われた時にも、きょとんとしたままだった。
「狼、って何だよ」
「そのまんま、動物の狼だよ」
「でもオレ人間なんですけど」
「私もだよ、でも狼なの」
「……なんで、いつから。いつそう決まったんだよ」急に意地悪な口調で付け足す。
「いつからさ、何年何月何日何時何分、地球が何周回ったときだよ」
イブは、哀れなイキモノをみるような笑みを浮かべ、小指で前髪をかきあげる。
「最初からだよ、生まれた時から狼は狼なのよ」
「オレは自分が、お、狼だなんて知らないし」
証拠は? そう問い詰められたイブは、黙ってしばらく彼をみつめていたが、そのまま立ち上がって、隣の部屋へと入っていった。
黙って出てきて、彼の前にぺたんと尻を落として座ると、握っていた片手を彼の前に拡げて見せた。
輪になった、金色のピアスだった。カケルの耳にあるのと同じもののようだった。
「これが?」
カケルは、イブの表情を伺う。冗談を言っているような顔ではない、どこかおもい詰めたような目が怖い。わざと明るく言ってみる。
「これが、何? ナカマの証なのか?」
一言も発しないままで、彼女は自分の耳にピアスをつけはじめた。目はまっすぐカケルの顔をみつめている。ピアスの金具がしっかり留まると、身体に巻きつけたバスタオルをはらりと解いて、彼女はつぶやいた。
「あれのをゆけ」
カケルはその目に吸い込まれるよう、じっと彼女をみつめた。
黒目がちの大きな瞳、白目は相変わらず、あおく、澄んでいる……いや、違う、琥珀色だ。
気がつくと目の前に大きな狼が座っていた。