序
俺の頭が変になったんだと、思っているんだろう。
とんでもない、俺がおかしいのではない、世の中の方が狂っているんだ。
と、よくあるよな、こんな話は。
カテゴリ的には
「オレはぐるぐる回る世界のど真ん中にしっかと留められた金ぴかのピン」。
そう、完全無欠の天動説、中華思想、唯我独尊。
本当に、今の俺はそんな気持ちだ。
それでも俺は控えめに「俺が居るから世の中が在る」なんて声高に主張したいわけじゃあない。
ただ単に、訴えたいだけだ。
俺を殺さないでくれ、とね。
あんなにも人を殺してきたのに、今さら殺さないでくれ、なんて。虫が良過ぎるだろう?
それでもそんな事を言い出したのには、十分理由がある。
聞いてくれるか?
殺せ、ころせ、遠くで声が聞こえる。一人やふたりではない。もっと大勢の怒号。彼は地面に這いつくばってその嵐に晒されていた。胸がむかついてきて、口を大きく開けて吐いた。血がかたまりとなって地面にこぼれ落ちた。何だよ、この血。急に氷水の中に落ちたような極端な寒さに襲われる。地面はごつごつと尖り、しかもぬかるんでいた。硬い上に柔らかく、どちらも不快な感触だった。何故こんな所にうつ伏せに寝ているのかが全然思い出せない。気持ち悪い、そして、寒い、ものすごく寒い。また気持ち悪くなって口を押さえようと手を出した、しかし、その手はいつもと違っていた。
絶叫して、彼は跳ね起きた。