寒い日には暖かい世界へ
ノスカリアは比較的温暖な気候ではあるものの、一年の内五十日ほどは雪が降るほどに冷え込む。それがちょうど今、暦で言うなら白月季三節の末から四節にかけてなのだ。
レイン=リオネッタは白い息を吐きながら、巻き付けたストールをさらにきつく絞って、身を縮めながら町を足早に歩いていた。
道行く人たちも似たようなもので、町全体から寒々とした空気が漂っている。頭上を見上げれば、どんよりとした重い雲が青空をすっかり隠していた。やっぱり、こんな寂しい日に一人で家に居る気になんかなれない。出てきて正解だった。
脚の向かう先は葉揺亭。外がいくら寒くても、あそこに行けば体も心も暖まる。それに昨年の様子では、そろそろマスターが小さな炭ストーブを引っ張り出してきている頃だろう。炎を上げさせずに木炭を燃やすそれは、空間を暖めるには心もとないが、赤々と燃える炭火を見ていると気持ちが暖まる。
ああ、早く暖かい世界に逃げ込みたい。レインの足取りはどんどん早くなり、そして葉揺亭への小路を曲がった。
「わっ……なになに、どうしたのこれ、火事!?」
「ちょっとね。レイン、間一髪だったな」
蔦の葉が彫られた玄関扉を開けたまま、レインは固まっていた。
板張りの床には一直線の黒い焦げ跡。それは左手方向の壁にぶつかって、まるで炎を吹き付けたかのように壁面を真っ黒に染め上げていた。
そして右手方向には無残に転げた炭ストーブと、床に散らばった木炭たち。水浸しになった床にマスターが立ち、重い音を立てながらストーブを起こすところであった。
惨事の跡なのは明らかだ。しかしストーブが倒れただけの事故とは思えない。炭はあんなに火を噴かないだろうから。
後ろ手に扉を閉めて寒風を遮断しつつ、レインは何があったのかと尋ねた。
「……空気が寒くなると、人の心も荒むからね。困窮が平素より身に堪える気がする、そういう感覚になるのはわからないでもない話だと思う。が、かといって血を見るような手段で逃れようとするのは最適解とは言い難いね」
「えーっと……要するに強盗?」
「大正解」
雑巾を手に床にしゃがみながら、マスターは笑った。
炭の弾ける音が聞こえる店内に、およそ茶店の空気に似つかわしくない風貌の男たちが踏み入ってきたのは、ちょうどレインが家を出た時分のことだった。
三人の男たちが、各々剣だの棍棒だのを手に、ありったけの金を出せと、何の捻りも無い強奪を企んできたのだ。
なぜこんな辺鄙な店にと思ったが、常駐するのは与しやすそうな細身の男と華奢な少女の二人、客足もさほど多くなく、しかし経営に困っている風でもないとなれば、危険を少なく戦果を得るには格好の標的と言える。単細胞かと思いきや用意周到ではないか、首元に刃を突きつけられながらも店主は妙な感心を覚えていた。
ただ彼らの手落ちの一つは、ここに出入りする面々に一筋縄ではいかない客が多いことを調べなかったことだろう。
そしてもう一つの不幸は、荒事には定評がある男が、偶然にもカウンターでだらついていたことだ。一見優男に見えるから、盗人たちも油断したのだろうが。
『やれやれたまんないねえ。……なあ、この状況どうにかしたら報酬くれるかい?』
いいよ、とマスターが答えると、黒コートの青年は瞬時に起き上がり、隠し持つ武器と得意の炎術をもってして、あっと間に強盗たちを制したのであった。
ただ青年は一つ失敗した。強奪を諦めた男を逃がさまいという気がはやりすぎ、少々荒い手を使ってしまったのである。すなわち、炭ストーブを蹴倒して、その炭火を火炎放射の砲台にしたのである。
確かに効果はてきめんであった。しかし同時に、店主の怒りの稲妻が彼の頭に落ちて来たのであった。
「……で、どうなったのその人たち」
「知らない。四人とも命からがら逃げていったからね」
「物騒な話」
強盗もそうだが、撃退した方もだ。もう少しで葉揺亭が焼失していたかもしれない。マスターやアメリアの身に何かがあったら……。
レインは息を呑んだ。どこにもアメリアの姿が見えないのだ。あの子のことだ、裏の部屋に居たにしろ、これだけ大事があれば居てもたっても居られず飛び出してくるだろうに。
「あ、アメリアは!? まさか――」
「ちょうど居ないんだ。本当に運が良かった」
「そうなんだ……安心したよ」
レインは胸をなでおろした。しかし考えてみればアメリアの身に何かが起こったなら、この店主が悠長にしているはずがないのだ。床を拭った布きれ片手に、黒焦げの跡を途方もなく見つめる様子に深刻さは見受けられない。
「ねえマスター。お店、大丈夫?」
「ああ、うん。すまないね、騒がせて」
「そんなことないよ。でも……これ後始末大変だね」
「全くだ、削るか張り替えるかしないといけない――まあいい、今夜にでもやるよ」
そう言ってマスターは後片付けを切り上げ、営業を再開させたのだった。
「今日は? いつものでいいかい?」
「でもいいけど、何かうーんと体があったまるのがいいな」
「外、寒かったかい」
「うん。雪が降りそうな感じ」
空模様を思い出すに、遅くとも今晩あたりには初雪になりそうだ。さぞ冷え込むだろう、こういう日は自分以外誰も居ない家が恨めしく思える。心の寒さに拍車がかかるから。
レインがちょっとした切なさを抱くと、まるでその心を読んだかのようにマスターがある提案をした。
「ねえレイン。ちょっと珍しくっていつまでも体が温かくなるお茶とか、飲んでみたくないかい?」
「いつまでも? それに珍しいって?」
「材料が珍しい。ここらじゃまず手に入らない。そしてそれを最も至適な条件で嗜好用に調整できる腕の持ち主も珍しい」
「ふふっ、言うねマスター。じゃあ、それお願いします」
よし来たと店主は満面の笑みを浮かべた。
マスターは背面の棚に向いて、最上段の引き出しを開けている。そう言えば、あそこは「特別」なのだとアメリアが話していたことをレインは思い出した。どう特別なのかは教えてくれなかったが、なるほど珍しいものがしまってあるのだろうか。アメリアの様子からすると何となくそれだけではない気もするが、深くは詮索しない。知らない方がいいことも世の中にはたくさんあるはずだ。
それでも知りたいこともある、例えばアメリアの今日の行く先とか。レインが葉揺亭を訪れるときは、九割がた彼女の元気な声が聞こえる。そして残りの一割、アメリアの姿が無い時には、店主はいつも落ち着かない様子なのだ。
ところが今回はどちらでもない。異常事態が起こったとはいえ――いや、異常事態が起こったというのに、マスターは平素と変わらぬ穏やかな空気を纏っている。
レインは率直に尋ねてみた。今日の様子なら、不機嫌になることもないだろう。
「ねえ、アメリア、どこに行ったの?」
「スラムにある学校だよ。『今日はちゃんとお勉強してきます!』なーんて、張り切って出ていった。そろそろ帰って来るんじゃあないかな」
目線は作業台上に向けたまま、どこかうきうきとした声音でマスターが答えた。
しかし、レインは跳び上がるような心地だった。
「それって一人で!? そんな、スラムだなんて、危ないよ! どうしてマスター止めなかったの、マスターなのに!?」
「危険性なんて微塵も無いからさ。知り合いが居るんだ、すっごく頼もしいね。彼の目が届く所に居るなら、僕は何の不安もない」
「なるほどね」
「そうでもなければ、僕がアメリアを放逐するわけがないだろう?」
マスターはあっけらかんと言った。そりゃそうだと頷くより他はない。
ふと自分のところにアメリアが来ている時のマスターは、どう風なのだろうと思ってしまった。今日のように平常心でいるのか、それとも――。
いや、やめだ。もし自分がアメリアの親友として失格だと言われたら恐ろしい。そんなことで全てが壊れてしまう可能性があるのなら、つまらない疑問はかなぐり捨てよう。レインは自分に言い聞かせるように首を振った。
それにしても、だ。レインは頬杖をつきながらしみじみ語る。
「アメリアは勇気あるなあ、いつまでも可愛いだけだと思ってたのに。私だったら、スラムの周りなんて絶対近寄れないもの」
「どうして?」
「だって怖いじゃない。ノスカリアで悪いことするのって、だいたいスラムに隠れてるじゃない。何が居るのかわからないし、実際事件もたくさんだし、それに……汚いし」
「ノスカリアのスラムなんかまだ良い方さ。底なしの沼ではない、境遇に甘んじず抜け出そうとすれば希望はある。術と力と知とほんのちょっとの運さえあればね」
「運だって。それが一番難しいんじゃないの? 神様はそう簡単には微笑んでくれないよ? マスターとは違うもの」
「そうかな」
マスターは微笑みを浮かべながら、刃を上にしたナイフを小さく振り下ろした。台上に敷かれた紙の上で、背が打ち据えた白い球体が粉々になる。それをポットに入れて軽く一かき。
「さて、完成だ。立つもはばからるる寒日には、寒さを知らぬ花の力を借りるべし。可愛らしいお嬢さんが凍えてるのは目にも痛いからね」
「もう、マスターったら、よくそんな台詞がすらすら言えるよね」
「君だって人形劇の時はどんな台詞も恥ずかしげなく言えるだろうに。……それはさておき、味も君好みだと思うから、飲んでみておくれよ」
言われるまでも無く、レインは熱々のティーポットを手に取った。
先細りの口からは、赤みの強い紅茶が蒸気と共に注ぎだされる。白く暖かな気体の中に、独特の香りが入り交ざっていた。かすかな甘やかさをはらんだようなこの匂いは、茹でた栗をそのまま食べた時に口の中に広がるそれと似ている。
それを口に出すが、マスターは栗じゃあないよと否定した。
じゃあなんだろうか。レインはどきどきしながら紅茶を口にした。
「あっ……ジングの味がする」
「もしかして苦手だったかい!? 君はスパイス系好きだから、これも大丈夫だと踏んだんだけど……」
「ううん、好きだよ。思ってもみなかったから、ちょっとびっくりしただけ」
ジング自体は料理に薬草にと広く使われる根野菜の一種だ。しかし他に類のない辛味を含むそれを、こうしてお茶に使うという発想はなかった。
栗とジングとは奇妙に思える取り合わせだが、マスターの言う通り、自分好みの味だとレインは思った。鼻に抜けるつんとした香りが癖になる。
それにマスターが言った通り、体が芯から温まる。温かいものを飲んでいるからというだけではなく、まるで心臓に小さな炎が灯って、そこから発せられる熱が全身へ循環しているような温もりだ。
「お気に召したかい?」
「うん、とっても。体がぽかぽかするし……これがジングの効果ってのは嘘だよね、普通じゃないもん」
「ちょっと特別なもの――っていうか、そもそもジングじゃないんだよね」
「え?」
「形状も味も似たものではあるけどね。ちょっとこっちの方が辛味が強いかな」
そう言いながらマスターは手元にあった小瓶を掲げた。先ほど引き出しから探し出していたものだ。中身は白みがかった粉末である。よく見ると繊維感がある。
「イオニアンは北天の地、氷雪に閉ざされた国イシリス。その極寒の中でも咲き誇る不凍の蘭・フェゼンの根の粉末さ」
「イシリス連邦かあ……なるほど、珍しいっていうわけだね」
この世界の最北にある独立国家イシリス、年中雪と氷に覆われた大地には、ノスカリアとは全く違う文化や植生が根付いているらしい。
その上ノスカリアが世界最大規模の交易都市とは言え、距離的にも遥か遠く離れているから、イシリスの物品が流れてくることも滅多にない。
本当に珍しいものを頂いている。レインは濃い色の紅茶を眺めた。
だがそれだけではない、本当に「特別な」力があるものなのだとマスターは語った。
「一言で言うなら体温を上げる力がある。おかげでどんな寒さの中でも凍えない。イシリスじゃあ吹雪の中で活動するときの必需品だよ」
「へえ。じゃあ、たくさん飲んだら防寒着要らずだね」
「その素人考えは危険なんだ。ティースプーンに一杯と雀の涙の量、これが肝要だ。多すぎれば高熱で苦しむし、ちょっとでも少ないと効果が不十分。実際に欲張ったがために、体が茹で上がったようになり死んだという記録も残っている」
「うわあ……聞きたくなかった」
「レイン、この僕を誰だと思ってるんだ。そんな初歩的な間違いは犯さないから安心してくれよ」
「もちろん信頼してるよ」
レインが知る中で一番頼もしい人物だ、それは断言できる。時々理解不能な言動があるのもご愛嬌というところだろう。
そう言えば、と先ほどの光景を思い出す。マスターは瓶の粉だけではなく、何かを砕いてポットに入れていた。あれはなんだったのか。
尋ねると、彼は惜しみなく答えを聞かせてくれた。差し出されたマスターの掌の上には、真珠玉がちんまりと乗っていた。
「これはターダ貝が作る結晶体だよ。不凍蘭の刺激を緩和してくれて、おまけに長く効くように作用してくれる。君が栗みたいだって言った味の正体でもあるね」
「話を聞いても真珠にしか思えないんだけれど」
「何言ってるんだレイン、宝石だったら食べられるわけないだろう」
そんな当り前のことをマスターは真顔で言った。レインはついそれに吹き出した。
「マスターは色々変わったこと知ってるよね」
自分は行ってみることも無いだろう異国の話も、見たことも無いような過去の出来事も。忘れられた物語や、今に残る伝承の裏側まで、その知識の底は未だに見えない。
そうだ、とレインは手を叩いた。期待に満ちた目でマスターを見る。
「人形劇のお話を造りたいんだけどね、何か良い題材無いかな。わかりやすくって、演出が映えるような。ほら、マスターって色々昔話知ってるじゃない? 民話とか、童話とか、何でもいいんだけど。できればあまり有名じゃないのがいいな」
「何でもいいって言われると迷うなあ」
そう一人ごちながら、マスターは椅子を引いた。
そして作業台に肘をついて、にこやかにレインに語り掛けて来る。
「じゃあ雪にまつわる話にしよう。――昔から、その年初めての雪が降ると『白の女王が通った』って言うんだけど、聞いたことは?」
「無い」
「だろうね。今時は使わない」
肩をすくめると、マスターはそのゆえんを語り始めた。優しく穏やかな声音は、幼子に物語を読み聞かせる母親のもののようで、耳に心地よい。
レインは静かに紅茶をすすりながら、その語りに耳を澄ます。
「昔むかしの人たちは、雲の上には大地があると信じていた。その天空に広がるの世界の中、雪の国を治める王こそが白の女王だ」
白の女王は普段は白銀の城に住んでいて、あまり外に出ないのだという。
というのも雪の国の住人は常に極寒の気を放っているから、他の生き物たちに迷惑をかけてしまうからだ。とりわけ女王は歩いただけで周りのもの全てを凍てつかせてしまうほど、強力な力の持ち主であった。
ところがずっとこもりきりでは心が滅入る。たまりにたまった欲が溢れた時、白の女王は自重を止めて外の世界に飛び出すのだ。それがたまたま下天の時間にして一年周期で起こるのだ。
「雪が降る時って、空が雲に覆われるだろう? あの厚い灰色の雲こそ白の女王の通り道なのさ。白の女王が通ったら、女王や供のものから零れ落ちた雪の国の力が、地上に降り注ぐ。大気中の水分を凍てつかせた雪の結晶となってね」
そうして地上には寒い季節がやってくる。外界巡りに満足した白の女王が城へと引き上げ、彼女たちの残り香がすっかり浄化されるまで、雪の季節は終わらない。
時の移ろいを感じさせる初雪は、天界の女性の気まぐれが作り出すものなのだ。
「――どうかな?」
「面白いけど、雪の正体がわがままで出来るものってのもねえ……。あんまり綺麗じゃない気がする」
「そこは君の腕の見せ所だよ。僕は伝承を語ったに過ぎない。それを踏まえつつも、君は一つの芸術として昇華させるんだ」
「そうだね。頑張ってみようかな」
例えば白の女王が出かける理由。それが恋人との逢瀬のためだとしたら、少し美しい話になるかもしれない。暖かい熱に心を解かしながら、寒き世界に想いを馳せ、その情景を想像してみるとしようじゃないか。
レインは思わず窓の方を振り向いた。
その時だった。硝子の向こうを、金色の影が右から左へ横切った。
あっと言う間も無く、葉揺亭の玄関が勢いよく開け放たれて、息を切らせたブロンドの少女が飛び込んできた。
「マスター、ただいまっ! あっ、レインさん!」
「アメリア! もう、アメリアが居ないから寂しかったよ」
アメリアはえへへと笑うと、その場で一つくしゃみをする。両手で口元を押さえ勢いで伏せた目を開いた時、出かけるときとの空間の違いに気づいたようだ。青い目をぱちくりさせて、呆然と立ち尽くしている。
「あの……なんですかこの黒いの」
「こんな狭い場所で火遊びした大馬鹿者が居たんだ。いくら寒いからって、家ごと燃料にするなんて言語道断だよ。……まあ、アメリア。後で僕が綺麗にするから気にしないように」
「はあ。……何したんですかヴィクターさん」
アメリアは憂悶の顔をしながら、早足で炭ストーブに駆け寄った。
レインが狼狽えながらマスターを見ると、彼は閉ざしたくちびるに人差し指を立て、真実の口止めを指示してきたのだ。
確かに嵐はもう過ぎた後だ。強盗が押し入ってきたなんて伝えても、いたずらにアメリアを不安にさせるだけだろう。彼女に知らさなければ、彼女の中では何もなかったのと同義である。
レインはマスターに同意した。彼がそう言うのなら、アメリアにはそれが一番いいはずだ。
が、今度はアメリアの愕然としたような叫び声が響いた。
「そんなあ、火が入ってない!」
「ごめんね。こっちに来てお茶でもお飲み、外は寒かっただろう?」
「ええ、もう。だって、雪が降り始めましたもの! 私も凍っちゃいそうですよ」
鼻を赤くさせた大声で言い放ちながら、アメリアが小走りでカウンターに駆け込んだ。
彼女の言を聞いて、今度はレインが叫んだ。
「白の女王が通った!」
窓の外の世界に目を凝らせば、白く軽いものが舞っているのが確かに見える。まさかこんなタイミングで降り始めるとは。
嬉しそうにマスターを見れば、彼も笑っていた。
「え? 何ですか? 何なんですか?」
事情を知らないアメリアが、きょとんとしたまま二人を交互に見遣る。
「続きはお茶でも飲みながらにしよう。レインと同じものでいいかい? すごく体が温まる」
「はい、お願いします」
寒さを苦にして暖かい世界に身を寄せて、しかし口で語るは冷気が織りなす白銀の風景のこと。凍えることが無ければ、それは魅惑の情景なのだ。
果たして白の女王は、一年ぶりの外出で何を見たのだろうか。大層空にかかった厚い雲が消える様子はない。
そして天上の雪国から降り注ぐ贈り物は、下天の都市を美しい銀世界へと塗り替えていくのだった。
葉揺亭 スペシャルメニュー
「不凍蘭の紅茶」
どんな極寒の中でも凍り付かない不思議な蘭・フェゼンの根の粉末と、その刺激を和らげるターダ貝の結晶を溶かし込んだ飲み物。
味はジング(生姜)と栗の紅茶と言った風。
体温を高める効果があり、それはおよそ一日続く。息も凍る夜でもぐっすり眠れるだろう。




