求めるならば本物を ―前編―
カウンターの隅に置かれた一冊だけのメニュー帳。草色の板紙二枚を繋ぐように白い紙を上からはり、二つ折りにした内側に茶の名前や値段やらが羅列されている。
簡素な造りのそれは、使っている内にどんどん傷んでくる。皺が寄って丸くなった角を、アメリアは指でつうっとなぞった。よく見ると、二つの板紙の境にも、わずかな破れが入っている。
「マスター、メニューががたがたです」
「じゃあ書き直しておいてよ」
「はあい!」
鈴のような声を落ち着いた空間に染み渡らせ、アメリアはさっそく仕事にとりかかった。
引き出しから取り出したのは、一そろいの紙と暗緑色のインク、それに羽ペンだ。古いメニューの上に積み置いて持ち、アメリアは客席に躍り出た。目指すは窓辺のテーブル席、計二卓しかないそこはお客さんに人気だが、今は居ないから店員として自由に使える。
うららかな陽光差し込むテーブルに作業道具を並べて。真新しい白い紙に、古いメニューの内容をそっくりそのまま書き連ねていく。ゆっくりと新緑の芽生えのようにつづられる文字は、心のこもった丁寧なものであった。
並んでいくのはひたすら飲み物の名前、葉揺亭に食べ物のメニューは存在しない。そこはマスターのこだわりだ。代わりに、自分で持ってきたものを食べることは自由にして構わないと公言している。
その分、茶類のメニューはこれでもかというほど用意されている。茶葉の産地や樹種によってがらりと変わる味わいの紅茶を広く取り揃え、そこにマスター自ら果物や香辛料を用いて風味を足したものも多数ある。そういったものに使う素材、さらにはハーブの類も恐ろしいくらいに品ぞろえが充実しているから、メニューにあるブレンドティやハーブティなどは、葉揺亭で出せるもののほんの一部でしかない。
それならいっそ勝手に色々書き加えてしまおうか、アメリアがそんな冗談を頭に浮かべてペンを走らせていると、鼻をぷんと苦い香りが通り抜けた。紅茶とは違う、火の入った香ばしい苦さだ。
アメリアは思わず手を止め、カウンターの中に居るマスターを見た。
「珍しいですね、マスターが珈琲飲むの」
「たまにはね」
ぼんやりと言うマスターの目は、自分の手元に向いていた。右手に持っていた湯のポットを置いて、左手の茶漉しの先に布袋をつけたような道具をもったまま、ごみ入れに向かう。ぱっぱと黒い粉を捨てているのが、アメリアからは燕尾の背中越しにわかった。
アメリアの目がメニューの右下あたりに向く。そこにあるのは、果汁とか炭酸水とか、茶ではない飲料たちだ。その筆頭に乗っているのが「珈琲」である。
ふふっとアメリアは笑った。珈琲。それは彼女にとって、ひいては葉揺亭にそのものにとっても、思い出の深い飲みものだ。なにせ、一人の客との出会いをきっかけに、試行錯誤の末に誕生したものだから。
あれは、まだアメリアが接客に慣れていない頃のことだった。
「いらっしゃいませ!」
ドアが開くと反射的に放たれるあいさつの声、元気ありあまるそれは、葉揺亭の落ち着いた空間には少々勢いがありすぎるほどである。
声だけではない。アメリアは太い三つ編みを楽し気に跳ねさせて、お客様を迎えに狭い店内を走った。
外の光を背景に佇む客は、銀縁眼鏡が知的さを匂わせる大人の女性だった。襟の整った細身の服をきっちりと着こなし、革製の四角い鞄を片手に佇む雰囲気は、役人のようなものを思わせる。
アメリアがきらきらとした目で前に立つと、客人はふっと表情をやわらげ優しい口調で言った。
「一人なんだけど、そこの広いテーブルを使ってもいいかしら?」
「はい! お好きな席へどうぞ!」
明るくあたたかな窓辺の席はさぞ魅力的なのだろう。まだ幼さの残る純朴な笑顔で、アメリアはぴっと右手をテーブル席へと伸ばし、客人を招き入れた。
それから駆け足で持ってきたのはメニュー。それを手渡しながらにこやかに伝えた。
「メニューがわかりにくいので、わからなかったら、なんでも聞いてくださいね!」
まったく邪念の無い気を利かせた言葉、本人はひどく清々しい気持ちで胸を張っていた。
一方、カウンターの中では看板娘の活躍を見守っていた店主が、神妙な顔で額を叩いていた――応対の基本を教えた時に、そんな風に言えとした記憶はないぞ、と。
そんな背後の様子はアメリアの知るところではない。とにかく仕事が楽しくて仕方が無かったのだ。お客様をお迎えしたら、次は注文を聞く。その瞬間を今か今かと待っていた。
だから、しばらくメニュー表を眺めていた女性から、躊躇いがちな声がかけられた時には、弾かれたようにテーブルに駆け寄ったのである。
しかし、客からかかった言葉はアメリアの想定外のものだった。
「ねえ、このお店、珈琲は扱ってないの?」
「えっと、無いんです、ごめんなさい」
「あらそう。でもどうして? ノスカリアのこういうお店で、珍しいわね」
真っ直ぐ見つめて来る女性の視線から逃げるように、アメリアは目を泳がせた。
彼女の言う通りなのだ、ノスカリアの市中で「珈琲」と言えば、どこに行ってもあるもの。黄金草という植物の根を煎じて作る茶のようなもので、紅茶と並んで食事処では定番、宿でも飲めるし、酒場にもある。それなのに、喫茶の専門店である葉揺亭にだけは無い。理由はアメリアも知らない、だから困ってしまう。
途方に暮れて「マスター」と縋ろうとした、しかしそれよりも早く、柔らかく丁寧な言葉の助け舟が後ろから飛んできた。
「お客様、申し訳ございませんが、うちには置いておりません。この辺りでは『豆』の入手が難しいですからね、どうしても扱えないのです」
「そう、『豆』のせい。へえ、なるほど。じゃあ仕方ないわ」
客人は仰々しく言いながら眉目を上げた。マスターに向ける眼鏡の奥の瞳が、感心の色に光っている。
「別によくある代用品で良かったのだけれど。じゃあ、『デジーラン』で。ポットで頂きたいわ、大丈夫かしら?」
「当店では基本的にそうしております。では少々お待ちを」
そう言って、マスターは早速お茶の用意を始める。だがその前に、自分の出番を無くし、しょんぼりと戻って来たアメリアの肩を抱いて慰めるのも忘れない。
客の紅茶を用意している間、アメリアはあまり話しかけてこない。きっと邪魔してはいけないと思っているのだろう、マスターはそう踏んでいた。
自分としては別に話しかけられてもさほど困らない、それで手元が狂うほどの青二才ではないのだ。かと言ってわざわざ気を散らせるようなことをする必要も無いから、用が無ければ自分から声をかけようともしなかった。
マスターは自分の内で自分に語り掛ける。現在は、眼鏡の女性客に感心した内容だ。
珈琲のやり取りが、あれほどあっさりと終わるとは思っていなかったのだ。「豆」、そう言えばもう一度質問が来る、それに対する答えもきちんと用意して構えていたのに。彼女は「わかっている」という風であった、ありありと見せられたそれは、いっそ小気味よい。
その後迷わずなされた「デジーラン」の注文も感心に彩を加える。
これはやや産出量の少ない種だ。高山にある天然の樹から若葉を摘み取り、熟成させて飲用にしたもの。少し値は張るが、それに見合った豊かな香りと、繊細な味が特徴である。
欠点があるとすれば総じて水色が淡いというところだろう。視覚の与える「薄い」という印象は、そのまま舌の感覚を狂わせる。希少品で味も伴うのに、色合いだけを見て疎んじる者も数多い。
彼女は多種ある紅茶の中から迷わずこれを選んだ。おそらく味をわかっているから。その道の識者、マスターが応対していて最も力の入る相手だ。
美味しい紅茶をしっかりと蒸らし、ちょうど飲み頃に仕上げる。
「アメリア、頼んだよ」
「はい!」
再び出番がやってきた。気を取り直した笑顔を共に、アメリアは客の手元まで出来たお茶を運ぶ。銀のトレーに乗せて、落とさないようにそっと気を付けて。
「お待たせしました!」
「ありがとう。ちなみに、ここで仕事をしてもいいの?」
「はい、大丈夫です。どうぞ、ごゆっくり」
アメリアはにかっと満点の笑顔を一つ残し、やり切ったという風にカウンターに舞い戻る。
マスターは少女に微笑みを見せながら、しかし目の端では客の様子をしっかりとらえていた。彼女は鞄から膨大な書類の束とくたびれた羽ペンを取り出し、机の上に広げた。
仕事や手作業を持ち込む客はたまにいるが、ここまで大量なのは初めてだ。そも書類を相手にしないといけない職業はある程度限られる。一体何者なのだろう、無粋ながらもマスターは好奇の目を向けていた。しかし女性は完全に自分の世界に入り込んでしまっているようで気づかない。
代わりにアメリアが白いシャツの袖を引っ張った。
「ねえ、マスター。珈琲って、あの黄金草の根っこからつくる飲み物じゃないんですか? なのに『豆』って?」
マスターは思わずにやけた。それぞまさに先ほど期待していた質問だ。途端にうずいていた言葉が溢れだす。
「その通りだ。だけど君が知っている……いや、この辺りでよく見る『珈琲』は全部代用品の紛い物なのさ」
「ええ!?」
「本物の『珈琲』と呼ばれる飲み物は、ある種の豆から作るんだけど、その樹はエバーダン諸島にしか生えてないんだよ」
エバーダン諸島、ノスカリアから見て北にある、熱帯の気候下に浮かぶ島々だ。なお、世界を統べる政府の中枢があるのもそこである。
かの地で嗜好されるものこそが本物の「珈琲」だ。現地では豆を加工して、黒く苦い、しかし香ばしい飲料に仕上げられる。特に上流階級の嗜好品として、愛飲されているのだ。
しかし庶民というものは、不思議と貴人の趣向の真似をしたがるものである。野草の根を煎じて、似た味の物が作られた。そうして生まれた疑似珈琲が、巡り巡ってノスカリアに伝わり、すっかり定着してしまった。本物を知る機会も意識もないままに。
「黄金草の珈琲も嫌いってわけじゃないけどね。でも珈琲の名を冠するならば、僕は本物を出したいよ」
喫茶のことについては妥協しない、それが葉揺亭の店主たる者。マスターは得意気なウインクをアメリアに見せた。
忙しなく羽ペンが走る音がひたすら響く。静かに時は流れるが、まだまだ眼鏡の客の仕事は終わらないらしい。
先ほどからアメリアには休憩が与えられていた。お腹が空くと目に見えて元気がなくなるから、その頃には必ず休ませる。今日は水魚の日、お気に入りのパン屋に好物である木苺と胡桃のパンが並ぶ日だ。銅貨をいくつか握りしめて、意気揚々と歩いている頃だろう。それでパン屋に行って、店の夫婦と長い長いお喋りをして、しばらく帰って来ないはず。
あの子には笑顔が良く似合うから、彼女が楽しいのならそれでいい。所在もわかっているから問題ない。大事な相方に思いを馳せ、マスターは静かにグラスを磨いていた。
そこに、客人から声がかかった。
「マスター。お湯を差してもらってもよろしいかしら?」
「はい。……もし味わいを変えたいのであれば、レモンやミルクなどもご用意できますよ」
「いいえ、大丈夫。せっかくの風味が死んでしまうものね」
「よくご存じで」
マスターは嬉しそうに目を細めた。デジーランはその繊細な味わいが特徴、余計な添加物は長所を打ち消してしまってよろしくない。愛好する者の間での暗黙の了解だ。
それにしても先ほどから心がうずいて仕方がない。今にも口から「あなたは何者だ」と飛び出しそうになっている。
そんな好奇心が伝わったのだろうか。意外にも、向こうから先に自己紹介された。大人びた笑み、眼鏡の奥の目がきらりと光る。
「私、商会に属する仕事柄、色々な交易品と出会いますもので。会長に付き従い、茶や嗜好品の選定を行う内に色々覚えました。もちろん珈琲豆のこともそれで」
「なるほど、わかった。交易商の……秘書、というところですね」
「はい、まさしく。ラスバーナ商会の会長秘書をやっております、ジェニー=ウィーザダムと申します」
ジェニーなる人物は人好きのする微笑みを浮かべた。
一方、マスターは豆鉄砲を喰らったような顔を隠さなかった。ラスバーナ商会、その音が頭の中で幾重にも反響していた。
ノスカリアに住まう者で、その名を知らぬ人間はいない。大陸全土、果てには海の向こうまでもを足に掛ける、世界屈指の大商会の一族だ。この町でのかの商会の権力は、下手すれば政府よりも強い。もとより商人の発言力が高い町なのだから当然のことである。
その会長の付き人となれば、重鎮中の重鎮だ。普段は余裕に満ちているマスターが、珍しくひるんだ姿を見せた。
「な、なるほど、ラスバーナの。……ああ、道理でお詳しいわけだ、納得した」
「お褒めの言葉、感謝します。私としては、こんな辺鄙な場所にあるお店で、ここまでこだわったお茶を扱っているという事の方が信じられません。それにあなた自身の腕前も。会長が知ったら、すぐにでも迎えたいと言うでしょう。どう、いかがかしら?」
「過分なお言葉です。僕は、趣味程度に細々とやっていきたいつもりですから」
店主は肩をすくめておどけてみせた。話をそらすように、急ぎ差し湯の準備に転身した。
ともあれ、好機であることも事実だ。ラスバーナ商会の幹部と話す機会などそうそうない。
マスターは矢継ぎ早に自分の興味を発露する。知りながら手元に置いてない茶葉の話だとか、各地方の飲料の話だとか、知りたいことや知ってもらいたいことをあれこれと。
「シニオの茶農園は見たことあるかい? ルヒトレンやイーサジウみたいに有名じゃないが、なかなかいい産地だよ」
「ええ。『グリナス』ならあそこのが最も良質。会長もお好きですわ」
「深みが違うからね。そのままでもいいが、加熱して香ばしさを出すのも悪くない」
「へぇ。今度試してみようかしら」
好感触なやりとりにマスターは心中ではしゃぎ回っていた。熱心に聞いてもらえるほどに、口は良く回るようになる。アメリアに自分の知識を披露して、「そうなんですね」「すごいですね」「さすがです」とひたすら褒め称えられるのとは別の喜びだ。考えるまでも無く話題が沸いてくる。
「そう言えば商会は最近北方大陸にも進出したそうじゃないか。ヒナスの『麦茶』は飲んでみたかい?」
「そんなものあるの? ヒナスといえば、麦酒が有名だとばかり」
「材料は同じさ。麦を煎じて茶にするんだ。これは普通に湯で出してもいいが、水につけておいてじっくり抽出する方が僕は好きかな。冷やしておいて、喉が渇いた時に飲むと最高だ」
「興味深いわ。……水につけた状態で運搬してこれば、こちらに着くころには商品になるかしらね」
「うーん、船に乗ってくる間漬けっぱなしじゃ、さすがにやりすぎだな」
「へえ」
ジェニーは仕事の書類に走らせていた羽ペンを、いつの間にか取り出していた小さな帳面に移動させると、手短に何かを書き留めた。
そして、手は書類に戻しつつ、顔をマスターの方に向ける。
「北の方はあまり詳しくないんだけど、何か他にも面白いものってあるかしら。何でもいいわ」
商売の種になるなら。笑顔のジェニーは口に出さなかったが、マスターの耳にははっきりとそこまで聞こえた。
さすが大商会の秘書様はやり手だ。マスターは苦笑しつつ、しかし減るものでもないからと、惜しげ無く自分の知るところをお披露目するのだった。
熱の入った会話劇がしばらく続いて。そんな中でも、有能な秘書は一仕事を終えられたらしい。不意に、ずっと整理していた紙の束を揃えて机に打ち付けた。
残っていたお茶をすっかり飲み干すと、あっという間に作業の後を片づけ、せかせかとマスターの居るカウンターに寄って来た。
「ごちそうさまでした。また来ます」
人当たりのいい笑みを浮かべ代金を置くと、ジェニーは細い足でつかつかと音を立てながら店を去って行った。
後姿を見送るマスターは、丁寧に一礼する。また来る、それは最大の賛辞だ。
そしてふと、あるものが思い浮かぶ。それこそ彼女が本当に飲みたかったもの。
「珈琲、か」
ふうむ、とマスターは口元に手をやり考えた。
ややして、アメリアが鼻歌混じりに帰宅した。
「戻りました!」
「ああ、おかえり」
マスターの優しい返事は、アメリアを安心感で包む。その時に向けられる慈愛に満ちた顔もまた同様。
ところが、今日は一瞬アメリアを見るも、すぐに手元に視線を戻してしまった。
疑問符と共に少しの寂しさを浮かべながらカウンターの中へ行き、店主の丸められた背中の向こうを首を伸ばしてのぞき込む。
マスターのすらりとした指は羽ペンを持ち羊皮紙に向かっていた。流麗な線で描いているのは絵、なにか植物だ。房のようになった丸い果実、縁がぎざぎざとした木の葉、そして六枚花弁の花。各々に加えられた注釈を見ると、果実は青色で、艶のある葉、赤い花だとか。
ブロンドの髪束が揺れるほどに、アメリアが大きく首を横倒しにした。
「これ、なんですか? 果物?」
「珈琲の豆の木さ。ただし、これも本物と全く同じではないんけどね」
振り向いたマスターは得意気に口角を持ち上げていた。
熱帯産の珈琲の樹は無いにしても、近縁の樹木ならば他の地域に存在しているのではないか。己の持つ知識と記憶を総動員し、この辺りの気候でも生育して、なおかつ純粋なる珈琲に最も近いだろう樹種を導き出したのである。
未知の物体はアメリアの好奇心も掴んで離さない。青い目が見開かれて輝いた。
「もしかして、マスター、本物の『珈琲』を作るつもりなんですか!?」
返事の代わりは満面の笑みと明確な頷き。途端、あどけない少女の黄色い歓声が空気を割った。
マスターは書き上げて間もない羊皮紙を筒状に丸め、ひもで閉じる。アメリアに差し出して、顔を寄せて頼みごとを一つ言い含める。
「だから、ちょっとお使いに行ってくれないかい? ハンターさんのところに行って、これを見たことないかって聞いてみてよ。もしも知ってるって言われたら、いつもみたいに採取をお願いして来てよ。何回か行ったことがあるから、出来るよね?」
「はい!」
アメリアの快活な返事が、葉揺亭の落ち着いた空気を彩った。
「ハンターさん」こと、ハンター=フォレウッズ翁は、ノスカリア東部の森林に通ずる狩人だ。熟達した腕と知識は他の追随を許さず、隠居を宣言したというのに、採集の依頼は減ることが無い。
そんな彼には葉揺亭でも随分と世話になっていた。山野の珍草、変わった茶の材料を求めるにおいて、最も頼りになる。
今回の依頼もあの老翁なら間違いなく引き受けてくれるだろう。するともう珈琲づくりは成功したようなもの、マスターに出来ないことなんてないから、アメリアはそんな夢と希望で胸を膨らませ、羊皮紙片手に街を駆けていった。
葉揺亭 メニュー
「デジーラン」
紅茶の中でも一段高級品とされる。淡い水色と繊細かつ豊かな味、香をもつ。
採取される場所によってかなり味わいが異なって来るのも特徴だ。