表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/16

第3話 A-2

 この世界に囚われた中で、プレイヤーキルを楽しむ快楽殺人集団サーカス。

 彼らの正確なメンバーの数は分からない。

 だが、視界に浮かぶプレイヤーのカーソルの色が赤色であるかどうかで判断することはできる。

 この世界ではプレイヤーを殺すと、名前とカーソルが赤色に変わり犯罪者であるレッドプレイヤーとなる。

 一度レッドプレイヤーになった者が、再び一般の白色のホワイトプレイヤーに戻るには、多大な労力を必要とする。

 殺した数が1人だけなら、1週間程度の『償い』でホワイトプレイヤーに戻れる。

 しかし殺した人数によってその労力は飛躍的に増していき、3人も殺せばホワイトプレイヤーに戻るまで2ヶ月はかかるだろう。

 ちなみに、殺害履歴は消えないため、1人殺した後にホワイトプレイヤーに戻った者が、再び殺人を犯した場合には、2人殺したレッドプレイヤーとして償いが必要になる。


 では仮にピエロがホワイトプレイヤーに戻るためには、どのくらいの時間が必要か。

 本人にとってはまったく興味のない話だろうが、計算すると2000年以上の時間が必要になるだろう。

 ピエロがこれまで殺害してきたプレイヤーの数はサーカスの中でも断トツの一位である。

 その数はもうすぐ500人に達する。


 サーカスのギルマスである団長ですら、自らの手で殺害したプレイヤーの数は40人程度だ。

 いかにピエロの殺害数が多いのか分かる。

 しかし、それでも足りないとピエロは言う。

 自分はもっと、もっと、もっと、プレイヤーを殺したいと狂い叫ぶ。


 そんなピエロは、前回のショーの最中に邪魔してきた『新入り』と共に、とある洞窟のダンジョンに入っていた。

 ここは特に経験値効率の良い狩場ではない。

 さらに高価なアイテムがドロップするわけでもない。

 そのため一般プレイヤーはほとんど近寄ることすらないし、存在自体知らないことが多い。

 そもそも、一般プレイヤー側のクエストでは、この洞窟に関係するクエストが存在しないため、なぜこんな洞窟ダンジョンがあるのか分かるはずがないのだ。


 この世界には、レッドプレイヤーのためのクエストが存在していた。

 彼らのための世界が存在したのだ。

 レッドプレイヤーは街中に入れない。

 街に近づけば、システム上『無敵』属性が付与されたNPC騎士にたちまち殺されてしまう。

 一般プレイヤーからしたら、無敵属性を持っているお前が魔王を倒しに行けよ、と愚痴りたくなるほど圧倒的な強さを持ったNPCキャラである。


 安全な休息と補給手段が無ければ、レッドプレイヤー達はたちまち壊滅してしまう……はずだった。

 当初、一般プレイヤー側は彼らを倒すのは容易であると踏んでいた。

 しかし、彼らは捕まらなかった。


 レッドプレイヤーにしか分からないクエストが存在する。

 そしてそのクエストを進めていくことで、レッドプレイヤーを支援する村が存在していたのだ。

 サーカスはそこで休息と補給を取っていた。


 現在、レッドプレイヤーを支援している村は全部で4つある。

 さらに隠れ家のように使える拠点は10を超える。

 この世界はプレイヤーキルを容認するシステムが備わっているのだ。

 しかも、これらの恩恵を受けるためにはレッドプレイヤーはクエストで『誓約』を立てなくてはならない。

 この誓約によって、仮に一般プレイヤーに仲間が捕まることがあっても、隠れ家の情報が漏れることはない。

 なぜならそれを言うとした瞬間、誓約の効果によってその者は命を失うからだ。

 隠れ家の情報だけじゃない。サーカスに関することを喋ろうとすれば、待っているのは死だ。

 そして誓約クエストの存在そのものも喋ってはいけない。

 誓約クエストのことを言葉にしていいのは、サーカスのギルマス団長だけである。

 誓約クエストは隠れ家にいるNPCからクエストを受託した後、団長から『我に誓約を立てるか』との問いに『立てます』と答えれば終了だ。

 

 この誓約を使えば、捕えた一般プレイヤーを強引に仲間に引きずり込むことも出来る。

 だが、団長はそれをしなかった。

 自分達とは違う相容れぬ者を強引に仲間にしても、この狂気の輪が乱れるだけだと言い、強引に仲間を増やすことはなかった。

 そしてサーカス設立当初こそ誰かを殺せた者なら基本的にサーカスに迎えていたが、今では誰かを殺せるだけではなく、その者の資質を団長が見て判断して入団を決めている。


 もっとも、いま現在は入団を希望する者なんてほとんどいない。サーカス側から接触して勧誘することがほとんどだ。

 なのに、この新入りは珍しく『自ら希望して』の入団だった。



 さて、ピエロと新入りが現在潜っている洞窟のダンジョンは『蜘蛛の巣』と呼ばれているダンジョンだ。

 その名の通り、この洞窟の中には大小様々な蜘蛛が生息している。

 その中でも、奥底にいるネームドモンスター『タランチュラクイーン』を湧く度に狩り続けている。

 太陽の光りが届かない洞窟の中も、洞窟の岩壁が発光して視界を確保してくれている。


「な~ピエロさんよ~。もういいんじゃね? 俺もう疲れたよ」

「だめですよ。僕の楽しみを邪魔した罰なんですから、今日は一日付き合ってもらいますからね」

「はぁ……っていうかピエロ1人でも倒せるじゃん」

「ええ、倒せますよ。いつもは1人ですから。でも2人の方がずっと安全ですからね」

「はぁ……しびれ薬の材料がこんな辺境の洞窟ダンジョンの中にあるとは驚きだが、これを狩り続けるのは正直ごめんだな」


 再びタランチュラクイーンが現れる。

 光の粒子が集まると、一瞬で大型の蜘蛛へと姿を変える。

 見慣れない者なら、その姿だけで恐怖を覚えることだろう。

 ギロリとピエロと新入りを捉える目は、左右の目がそれぞれ別に動いた。


「ほら、愚痴ってないで働いて下さい」

「へ~い」


 新入りといっても、純粋な戦闘力ならピエロより上である。

 ピエロはもっぱらこのタランチュラクイーンを狩り続けているので、レベルが新入りより低いのだ。

 この洞窟でいくら狩りを続けようと、もうピエロは経験値を獲得することができない。モンスターとレベル差があり過ぎるのだ。

 定期的にレベル上げのための狩りはするが、クイーンにしびれ薬を調合してもらうためにはこの洞窟でタランチュラクイーンを狩り続ける必要がある。


 タランチュラクイーンのレアドロップである『しびれ毒』1つで、しびれ薬が1個作れる。

 しかしレアドロップだけあって、ドロップ確率は1%前後だ。

 100匹狩って1個手に入るという低確率。

 幸いなのは、タランチュラクイーンのリポップ時間が短いことだろう。

 一度倒してから、5分で再度ポップする。

 ピエロ1人だと倒すのに5分程度かかる。

 1時間で6匹。10時間で60匹。100時間で600匹。

 しびれ薬はサーカスが一般プレイヤー相手に持つ重要なアドバンテージのため、ピエロが狩らなくとも定期的にメンバーが入れ替わり狩るようにしている。

 そのためしびれ薬の在庫は常に確保してある。

 だが、ピエロは個人的にしびれ薬を持ちたいため、こうしてせっせとタランチュラクイーンを倒しているのだ。


 今日は運が良いのか、4時間ほどの狩りでしびれ毒が既に2個も出ている。

 そのおかげでピエロは上機嫌だ。


「ミヤマさんは『運』が高いのかもしれませんね。こんなにたくさんしびれ毒が出たことなんてないですよ」

「隠しステータス値の『運』か。本当にあるのかどうかも分からない要素だろ」

「ええ、でもレアドロップが出やすい人と、そうでない人っているんですよ。僕はどちらかというと出やすい方だと思っているんですけど、ミヤマさんには負けますね」

「勝手に言っててくれ。次にしびれ毒がドロップするのは1000匹後かもしれないぜ」

「それならそれで、仕方のないことですよ」


 再びタランチュラクイーンが現れる。

 新入りのミヤマは、両手で持つ巨大な剣を構える。

 ミヤマは両手剣使いだ。

 その圧倒的な攻撃力の前に、タランチュラクイーンは3分と持たず光の粒子となって消えていく。

 そして……。


「お?」

「おおお! 素晴らしい!」


 本日3個目のしびれ毒。

 こんな短時間に3個もレアドロップとは、ミヤマの運は本当に高いのかもしれない。


「ありがたや~、ありがたや~」

「おいおい、俺を拝むなんてやめてくれよ」


 ミヤマを神様のように拝む仕草を見せるピエロ。

 ドロップアイテムは当然ピエロが拾う。

 これは前回のショーを邪魔した罰であり、ドロップアイテムはピエロのものである。


「な~、なんでピエロはそんなにプレイヤーを殺したいんだ? いや、俺も殺しは好きだけど、ピエロはなんていうか……必死っていうか。『生き急ぐ』なんて言葉があるけど、ピエロは『殺し急いでいる』って感じなんだよな」

「ええ、僕は人を殺したくて仕方ありません。僕の想いは誰にも理解できませんから、聞いたって無駄ですよ。とにかく僕は殺すのが大好きなんです」

「でも、しびれ薬で麻痺させてだろ? 別に生死を賭けた戦いが好きってわけじゃないんだよな」

「はい。戦うのは嫌いです。危険な戦いはもっと嫌いです。僕は安全に獲物を殺したいんですよ。そのためのしびれ薬です。本当にクイーンがしびれ薬を調合できて助かっています。これが無ければ、僕がこんなにもたくさんプレイヤーを殺すことは出来ませんでしたからね」

「はぁ……趣味が良いんだが、悪いんだか」


 話しているとタランチュラクイーンが現れる。

 今度はピエロの番だ。

 ピエロが1回倒したらミヤマが2回倒す、というサイクルで狩り続けている。

 ミヤマへの罰という名目で、彼の方が1回多く倒しているのだ。

 もちろん一緒に戦った方が時間効率は良いのだが、それでは罰にならないとピエロがこの方法を提案した。


「さて、次は僕の番ですね」

「頑張れよ」

「頑張ります。これでも飲んで喉を潤して下さいな」


 ピエロは飲んでいた水筒をミヤマに渡すと、ミヤマはサンキューと水筒の水をぐいっと飲んだ。

 回復薬が入っていたのか、ミヤマの僅かに減ったHPが回復していく。


 ピエロが手に持つ短剣はレア中級だ。

 プレイヤーを殺すために使っている短剣とは違い、かなり攻撃力が高い。

 この世界の武器は『最下級』『下級』『中級』『上級』『最上級』と階級が分かれている。

 さらにその中で『一般』『レア』『ユニーク』というランクがある。


 一般最上級の武器は、基本性能は高いが特殊効果はない。

 対してユニーク中級は、基本性能は一般最上級より劣るかもしれないが、備わっている特殊効果によっては一般最上級以上の性能を持つこともある。


 ピエロのレベルでは中級までしか装備できない。

 ミヤマの両手剣はレア上級だ。


 ピエロがタランチュラクイーンと戦い始めた。

 右手と左手、それぞれにレア中級の短剣が握られている。

 短剣のスキルを上げていくと『二刀流』という上位スキルを取得する。

 ピエロはこの二刀流を取得しているのだ。


 圧倒的な俊敏性と攻撃速度でタランチュラクイーンを攻撃していく。

 それでも倒すのに5分近くかかる。

 ミヤマのレア上級の両手剣の攻撃力がいかに高いか分かる。


「それにしても、なんでピエロは二刀流の攻撃スキルを使わないんだ? 見てると、使ってるスキルは短剣の下位スキルばかりじゃないか」

「ええ、実は僕、二刀流の攻撃系スキルって全然上げてないんですよ。その代わり、短剣の下位スキルは高いですよ~」

「は? 何で?」

「『刺突』はレベル30ですし、『貫通』はレベル35。すごいでしょ?」

「はぁ~!? なんじゃそりゃ!?」


 ミヤマが驚くのも当然だろう。

 スキルのレベルに制限はないが、10まで上げるのが一般的だ。

 レベル10までに必要とする熟練度と、レベルが上がることによるスキルの効果の上昇が効率的だからである。

 レベル10を超えると必要とする熟練度は多すぎるし、レベルが上がったとしてもスキル効果は労力に見合った上昇を得られなくなる。

 さらには、スキルのレベルが10になれば上位スキルが出現することがほとんどであるため、レベル10まで上げるのが一般的となっているのだ。


 ピエロはこの蜘蛛の巣では、モンスターとのレベル差で自身のレベルを上げるための経験値は獲得できない。

 だが、スキルの熟練度は違う。

 スキルの熟練度は使えば使うほど上がっていく。

 しかし、自分よりもレベルの低い相手では得られる熟練度は少なくなるというのが、プレイヤーの中での常識だ。


 ほとんどのプレイヤーが気付いていないある法則がある。

 スキルをレベル10にすると上位スキルが出現し、普通のプレイヤーはその上位スキルを上げる。そして自身のレベルを上げるために、適性レベルのモンスターを相手する。

 ピエロのように初期に得られる下位スキルを延々と使うプレイヤーなんていないのだが、ピエロは使い続けた結果、実は下位スキルはモンスターとのレベル差があっても得られる熟練度の減少が少なく、それなりの熟練度が得られるという事実を発見した。

 そのためこの蜘蛛の巣で、『刺突』と『貫通』を使い続けてスキルのレベルを上げてきたのだ。

 もちろん、だからと言って『刺突』や『貫通』のレベルをどれだけ上げたとしても、有用な上位スキルに及ぶことはないのだが……。


「貫通のレベル35って、防御無視は何%?」

「55%ですよ」

「レベル10で30%だから、それ以降は1%上乗せかよ! でも、極めたらかなり有効……なのか? やっぱり普通に二刀流の上位スキル使った方が強そうだけど……」


『貫通』は相手の防御力を何%か無視してダメージを与えることが出来るスキルだ。

 レベル1で3%。そこからレベル10までは1上がる毎に3%増えていき、レベル10では30%となる。

 そして、レベル11からは1%の上昇率となる。


「ちなみに、刺突の状態異常アップは何%?」

「50%ですね」

「上昇率は貫通と同じか」


『刺突』は突いた部分だけ状態異常を起こすスキルである。

 確率の上昇は貫通とまったく同じだ。


「う~ん、有用なのか? やっぱり微妙じゃね?」


「微妙でも……これは極めないといけないんですよ」


 ピエロはミヤマに聞こえないほど小さな声で、静かに言った。




 ピエロがタランチュラクイーンと戦い始めて4分ほど経過した時だ。

 ミヤマがガチャリと両手剣を構えた。

 時間のかかるピエロに加勢するつもりなのだろうか。

 否。

 その両手剣はそのままピエロに向かって放たれた。


「うおおおお!」


 必殺の一撃。

 スキル発動により、白銀色の光りが両手剣を包み込んでいた。

 ミヤマは隙だらけの背中に向かって放たれた一撃は、間違いなくピエロを捉えたと確信した。

 だが、ミヤマの一撃を予想していたかのように、ピエロは華麗なステップでその一撃を避けてみせた。

 ミヤマの表情が一気に厳しくなる。


「そろそろだと思っていましたよ」

「ちっ。気付いてたのかよ」


 タランチュラクイーンの攻撃はピエロに向かっている。

 タランチュラクイーンのHPは残り僅かであるが、ピエロは回避行動を取り続ける。

 ミヤマの動きに注視しながら、ひたすら逃げ回る。


「逃げ足は速いんだな! ピエロさんよ!」


 ミヤマの両手剣が再びピエロを襲うも、残像を斬るばかりだ。

 いかにミヤマのレベルが高いとはいえ、ピエロの武器防具は俊敏性を底上げする特殊効果が多くついている。

 逃げ足だけなら、間違いなくピエロの方が上だろう。

 それでも、いつまでも逃げられるわけではない。

 タランチュラクイーンの攻撃を避け続けながら逃げ切れるほど甘い相手ではない。

 そしてピエロも逃げ切ろうなど思っていない。


「いつまで逃げられると!……お、おもって……な、な、な……なんだ……こ、これは」

「アハ……アハハハハハ! 薬の効果が回ってきたようですね!!」


 ゆっくりとミヤマの身体の自由が奪われていく。

 両手剣を握る手にも力が入らなくなり落してしまうと、そのまま自らも地面に倒れてしまう。

 そこでようやくミヤマは理解した。

 自分が麻痺状態であることを。


「待っていて下さいね。まずはこいつをちゃちゃっと倒しちゃいますから!」


 タランチュラクイーンとの戦いを再開したピエロは、1分とかからず倒した。

 すると、信じられないことが起きる。


「おおおおお! すごーい! すごい! すごい! また出ましたよ! 2回連続でしびれ毒が出るなんてぇぇぇ! これはやはりミヤマさんを拝んだ効果があったということですね! ぐ、ぐふふふ! アハハハ! ミヤマさんに渡した水筒の中にしびれ薬を入れておいたんですよ。薄かったから、効果が出るまでちょっと時間がかかりましたけどね~。あ、僕は飲んでいませんよ。飲んだ振りですから~!」


 ピエロから渡された水筒を何の考えもなしに飲んでしまった自分をミヤマは悔いた。

 しかし自分の目論みを気付かれていないと思っていたミヤマは、渡す直前にピエロ自らも飲んでいた(振りであったが)水筒にしびれ薬が入っているなど予想出来なかった。

 いずれにしても、ミヤマにとって最悪の状況だ。


「このままだと、すぐに麻痺状態が解けちゃいますからね~。ミヤマさんほどの高レベルプレイヤーを殺すには、ちょっと時間が足りませんね~。ぐふふ! だから~~、貴重なしびれ薬を1本まるまる飲んでもらいましょうかね~!

 遠慮する必要はないですよ~~。ミヤマさんのおかげで、今日1日で4個もしびれ毒が手に入ったんですから~! アハハハ!」


 麻痺状態で動けないミヤマの口に、ピエロはしびれ薬の瓶から液体を流し込んでいく。

 レベルが高くなるほど状態異常に対する耐性も強くなるので、1本まるまる飲ませたとしてもミヤマを麻痺させておけるのは恐らく10分程度だろう。


 ピエロはあの真っ白な短剣に武器を切り替えると、ミヤマの首に短剣を突き刺し始めていく。

 攻撃力の低いこの短剣で、ミヤマのHPを全て削り取るとなれば大仕事だ。

 忙しそうに、ピエロは短剣を何度も何度も何度も突き刺す。


「はぁはぁ! はぁはぁ! ミヤマさんのことは知っていたんですよ~! 最初から知っていてサーカスに迎えたんですよ!

 あれですよね。僕に妹と恋人を殺されたんですよね?

 あれは確か、モームの森に罠を仕掛けた時ですよね~。

 アハハハ! あれは楽しかったな~!

 妹さんも、恋人さんも、こうしてしびれ薬で麻痺させて、僕が殺してあげたんですよ~!

 ぐふふ~! アハハハ! ミヤマさんは本当に『運』が良いな~。

 こうして、同じように僕に殺してもらえるんだから!

 ああ! なんて運が良いんだろう!

 僕に殺されて、妹と恋人と同じ場所に行けるなんて!

 嬉しいですか? 嬉しいですよね~! アハハハハ!」


 ミヤマが復讐のためにサーカスに入団したがっていることをスパイから聞いて知った団長は、ピエロにそのことを話した。

 ミヤマの復讐心を利用して楽しむことにした団長とピエロは、他の団員には知らせずミヤマをサーカスに迎えた。

 そして、こうして2人で狩りに出かければ、どこかのタイミングでミヤマが仕掛けてくるとピエロは踏んでいたのだ。

 しびれ薬を入れておいた水筒の水をミヤマが飲んだことで、仮にミヤマが襲ってこなかったとしても、このタイミングでミヤマを殺すことにはなったが。

 仮にスパイの情報が間違っていても別にいい。

 ピエロはミヤマを殺すと決めていたのだから。

 これほどの高レベルプレイヤーを殺せる機会は早々ないのだ。


 さすがに高レベルプレイヤーだけあってHPが高い。

 ミヤマに短剣を突き刺し始めて、すでに5分以上経過している。

 その証拠にピエロ達の後ろには、新たなタランチュラクイーンが現れている。

 ようやくミヤマのHPが残り僅かとなった。


「はぁはぁ……さすがに疲れますね。これだけのHPを削ると。

 でも、これでお終いです。最後ですよ。

 妹さんと恋人さんによろしくお伝えください」


 ミヤマの執念なのか、全身の感覚が麻痺状態のまま、彼の首が動いた。

 そしてぐいっと短剣を振り下ろすピエロの顔を見上げた。

 仮面をつけたピエロの表情は伺えない。

 自分を殺せてきっと歓喜の表情を浮かべているのだろうとミヤマは思ったが、その仮面の奥からぽたりと何かが地面に落ちた。


「アハハ! アハハ! 解放おめでとう! そしてさようなら!」


 その一撃でミヤマのHPは0となった。

 光の粒子となって消えていくミヤマは最後に確かにそれを見た。



 狂ったように泣き笑うピエロを。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ