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第14話 B-7

 ピンチはチャンス、と最初に言った人はいったいどんな状況だったのだろう。




「聖司!」


 堅司達がやってきた。

 僕の目の前には10人ほどのレッドプレイヤーが並んでいる。

 その先頭にいるのは、戦車ガレスだ。


「女連れか。2対2とは良い組み合わせだな。幸せじゃないか」


 ガレスは後ろの堅司達を見て、満足そうに笑った。

 圧倒的だ。

 こいつの存在感は圧倒的で……逆立ちしたって僕達には敵わない。

 たぶん4対1で戦っても、ガレスが勝つだろう。


「どっちがお前の女だ? 仲間になるなら女も一緒で構わないぞ。ま、その女も仲間を殺せたらだけどな」


 だめだ。

 もう僕はガレスの間合いの中か。

 堅司達は……今なら逃げられるんじゃないのか……僕が逃げろと叫べば。

 でも、でも……あの麻痺があれば……死を待つしかないこの世界から堅司達を……。

 そして積み重ねることが出来るなら、最後の時にみんなを……。


「まさかびびって動くことも、叫ぶことも出来ないのか? お前もハズレか……後ろのお仲間達も見る限りハズレっぽいな……男は正義感丸出しって感じだ。全員殺しておくか」


 堅司達は後ろで動けないでいる。

 サーカスは見えているだろう。だからこそ、僕に近づくことはできない。

 でも僕を置いて逃げ出すことも出来ないでいる。

 僕が、僕が……。


「後ろの仲間を殺せば……そっちの仲間になれるんですか?」


 僕はガレスにだけ聞こえるように言った。

 僕の言葉を聞いたガレスは一瞬驚きながらも、嬉しそうな笑顔を浮かべた。


「ああ、そうだ。後ろの男を殺せるか? 俺達の仲間になればある真実を得られるぞ。それはお前にとっても、彼女にとっても間違いなく良いことだろう」

「彼女も……彼女も殺して構わないですか?」

「ん? なんだ? 彼女を殺す? まあ別にいいが……せっかくの彼女なんだろ? ま~俺達の仲間になるのを拒むかもしれんか」

「後ろの女2人……確保しておいてもらえるんですね?」

「ああ、もちろんだ」

「それと……」


 僕の言葉にガレスは本当に嬉しそうに笑う。

 サーカスは仲間を集めているとは聞いたが、僕なんかを誘うとは思わなかった。

 でも、これはチャンスだ。

 魔王を誰かが倒してくれるのを待つより、僕がこの手で堅司を、香奈を……そして美穂を救えるチャンスだ。

 そして、みんなを救えるチャンスなんだ。

 たとえ最後が失敗しても……そこまで辿り着けなくても、僕が殺した人達は救われる!


 僕はガレスに背を向けると、ゆっくりと堅司達の方に向かっていく。

 僕の後ろをサーカスがついてくる。

 異様な光景だろうな。

 戦うわけでもなく、僕とサーカスが向かってきているんだ。

 堅司達は何が起こっているのか理解不能といった表情で、立ち尽くしている。


「堅司……」

「聖司……いったい何が、どうなってるんだよ」


 堅司のHPは回復していた。槍の男が死んだ後に回復薬を飲んだのだろう。

 美穂も香奈も同じくHPは回復していてくれた。


「堅司……香奈……美穂……」


 みんなの顔を見る。

 こんな状況だから、戸惑いの表情を3人共浮かべているけど、こうやって『仲間』として顔を向けられる最後の瞬間だ。

 ごめんよ。

 真実は伝えられない。

 だから、僕は行くよ。

 狂気の底へ……狂った世界で踊り続けるよ。


『え?』


 3人が同時に呟く。

 それは僕がパーティから脱退したことが分かったから。

 僕の右手には堅司達が見たことのない『真っ白な短剣』が握られている。

 そして僕は駆け出した。


「うおおおおおお!」


 堅司に向かって短剣を突き出す。

 先制攻撃に加えて、堅司は僕から攻撃されるなんて予想していなかっただろう。

 先制の一撃は堅司の首を捉えた。

 直撃、クリティカルだ。


「きゃあああ!」


 香奈の悲鳴が響く。

 サーカスのメンバーが既に香奈と美穂を取り囲んでいる。

 絶対に傷つけない。僕が殺すとガレスに伝えて約束させたけど、どうなるか分かったもんじゃない。

 こいつらは快楽殺人集団だ。何かのスイッチが入ったら、美穂達を殺してしまうかもしれない。


 迷いなく僕は次の一撃を放った。

 首に直撃をもらった堅司はよろけながらも、盾を構え始めている。

 僕達の中で最も装備が良いのは堅司だけど、それでも今の段階の装備なら一般下級程度の攻撃力しかないこの短剣で堅司を殺せる!


「聖司! 何で……ぐおおおお!」


 何でに答えることは出来ない。伝えられないんだ。

 しいていえば、僕を見捨てて逃げなかったからだよ。サーカスと対峙する僕を見た瞬間に逃げ出していれば、僕に殺されることはなかったかもしれない。

 堅司達にそれが出来るとは思えないけど……。

 だからこそ! だからこそ今この瞬間のチャンスを逃すわけにはいかない!


 僕はさっき1人殺している。

 人を殺すという経験を得た。堅司よりも1つ強い経験を得た。

 奇襲の形で始まった僕と堅司の戦いは、一方的な展開になった。


「聖司! やめろ! やめるん、ぐおおお! なんでだ!? どうして!?」

「……殺す……堅司を殺して、この世界から解放させてあげるよ!」


 最初の首への一撃が効いている。

 僕の攻撃を盾で防ごうにも、堅司の動きは鈍い。

 防ぎきれず、次々と僕の攻撃を受けている。


 そして堅司のHPが赤色に染まる。

 あと数回の攻撃で、この世界の堅司は死ぬ。

 会えない……もう堅司とは会えない。


「ぐ……うぐっ……ぼ、僕が……僕があああああ!」


 涙を抑えることが出来なかった。

 頬を濡らす涙が一瞬視界を奪うも、すぐに袖で拭いて攻撃を続ける。

 堅司は盾で攻撃を防ぐばかりだ。

 右手に持つ片手剣で一度も攻撃してこない。


「いや……いやああああ! やめて! やめて! 堅司が死んじゃう! 死んじゃうよ! お願い! 聖司! やめて! やめて!!」


 香奈の絶叫が響く。

 美穂は目の前の出来事が信じられない、受け入れられないといった感じで呆然としている。

 2人ともサーカスに囲まれているけど、攻撃されていない。大丈夫だ。

 堅司の後は……香奈だ。香奈を先に殺す!


「聖司……お前……お前ええええ!」


 香奈の絶叫に反応したのか、堅司はついに握りしめた剣を僕に向かって振り上げた。

 僕はその一撃を避けることなくこの身に受けながら、真っ白な短剣を振り続ける。

 そして……。


「さようなら、堅司」


 真っ白な短剣が堅司の胸に突き刺さると、まるでそこから光りが広がっていくかのように、堅司は光の粒子となって砕け散っていった。

 殺した……堅司を殺した。救ったんだ。

 そして短剣の中に力が積み重なった。


「ほ~…………本当に殺せたか」


 ガレスが僕を見て感心している。

 僕のカーソルと名前は……きっと赤色に変わっているだろう。

 本当に仲間を殺せるとは思っていなかったのか?


 僕は美穂を見た。

 目が合うも……美穂の顔には表情がない。

 いつだったか、こんな表情の美穂を見た気がする。

 ああ、そうだ。この世界に落ちた最初の日……王宮の中で絶望の底にいた美穂はこんな顔をしていたっけ。


 すぐに視線を香奈に移す。

 香奈は放心して涙を流しながらも、僕に怒りと憎しみを向け始めていた。

 堅司の時とは違う。

 香奈は初めから動いてくる。

 僕を殺しにくるだろう。


 堅司の剣を受けて減ったHPを、回復薬を飲んで回復する。

 香奈を囲っていたサーカスの5人が、僕に道を開ける。

 真っ白な短剣を香奈に向けた。


「よくも……よくも……よくも堅司を殺したわね!

 自分が助かりたいからって、悪魔に魂を売って! 何よ! あんたが死ねばよかったのよ! こいつらに囲まれていたあんたなんか気にしないで、逃げればよかったんだわ! 最低! クズ! 悪魔! 私が殺してやる! 聖司! あんたは私が殺してやる!」


 香奈は強い。

 1対1の戦いなら互角ってところだ。

 堅司よりも防御力は低いし盾も小さい。でも動きは速く攻撃力は堅司より上だ。

 スピード勝負なら僕の方が一枚上だろうけど……盾を持っていない分、防御の面では僕の方が不利だ。

 仕方ない。

 そもそも二刀流はまだ取得出来ていない。

 そして取得していたとしても、この真っ白な短剣で香奈のHPを全て減らさないといけないのだから、左手に別の短剣を持つことは出来ない。


 激しい怒りと憎しみが、香奈を動かした。

 僕よりも先に香奈が斬りかかってきたのだ。

 周りを囲むサーカスのことなんて関係ないか。彼らが動いて香奈を殺そうとしても、香奈は僕だけを見て、僕を殺そうと動いてくるのだろう。


 香奈の細剣の鋭い斬撃をかわす。

 短剣で斬りつけるも、香奈の盾で防がれた。

 堅司には奇襲で首に致命傷を与えたことで有利に立てたけど、やっぱり盾を初めから使われるとやり難いな。


 盾で僕の短剣を防ぎながら、細剣で突いてくる。

 怒りと憎しみの中にいても動きは冷静だな。すごいよ。


「はああああ!」


 香奈の鋭い突き。

 僕はそれをかわさず受けた。

 胸にぐさりと鋭い痛みが走る。HPの減少とは別に受ける肉体的な痛み。

 同時に香奈の手には人を刺した感触が残る。


「あ……」


 香奈の動きが止まる。

 人を刺した、僕を刺したという感触に頭が止まったな。

 堅司を殺した僕が相手でも、香奈がすぐに人を殺せる覚悟を持てるわけじゃない。

 香奈は普通の女の子なんだ。

 その一瞬の隙を逃さず、僕は香奈の懐に潜りこむと脇腹と片脚を短剣で切り裂いた。


「きゃああ! ……あ……ああ」


 香奈も痛みに慣れていない。

 僕達のパーティで、常にモンスターの攻撃を受け痛みに耐えていたのは堅司だ。

 僕も香奈も、堅司が受け持ったモンスターを横から安全に攻撃していただけだ。

 そして、殺すために人を傷つける覚悟においても、僕と香奈では違う。

 僕は……本当の意味で殺す覚悟はいらない。

 自分が死ぬ覚悟は必要だった。

 でもそれはもう確定したことだ。僕は元の世界に戻れない。

 堅司を救った時、それは決まった。

 後はこの世界が終わるまで、僕がこの短剣の条件を守ればいい。


 僕の攻撃を受けた香奈は、がくがくと震えながら地面に倒れていった。

 ごめんよ。

 こんな痛みを与えてしまって。

 でももう痛まない。

 堅司相手には一度も発動しなかった麻痺が、香奈相手には最初の一撃で発動してくれた。

 ガレスからしびれ薬を1本もらっていた僕は、短剣に麻痺属性を付与させていた。

 堅司に対して一度も発動しなかったのは、たまたまなのか……それとも堅司の状態異常耐性の問題か。



「ぁぁ……ぁぁ……」


 香奈の怒りと憎しみは、『死』という恐怖に押し潰され始めた。

 目にさっきまでの力はない。

 今はまるで怯える子供のようだ。

 ごめんよ……早く終わらせるからね。


 麻痺して動けない香奈に短剣を突き刺していく。

 1秒でも早く、この恐怖から解放されるように。

 止まらない涙を流したまま、強く、強く、強く突いていく。

 香奈のHPが黄色から赤へと……そして。


「さようなら、香奈」


 堅司と同じく、香奈は光の粒子となって砕け散っていった。

 


 殺した。

 堅司に続いて香奈も殺した。

 この世界から解放させたんだ。


「ふむ…………面白いな」


 ガレスはその言葉通り、面白そうな玩具を見るような目で僕を観察している。

 何が面白いのか……泣きながら仲間を殺す僕がそんなに面白いのか。


 美穂に視線に向ける。

 変わらず何の表情もない顔で、美穂は立っていた。

 まるで仮面をつけているように見える。


 ゆっくりと僕は美穂に近寄っていく。

 こんな状態の美穂が動けるとは思えないけど、一応回復薬を飲んでおいた。

 僕が目の前まで来ても、美穂は何の反応も見せない。


「美穂」

「……」


 呼びかけにも反応はなかった。

 このままお別れ……かな。

 この世界が終わって、元の世界で堅司や香奈と再会出来たら……これから狂気の底で踊り続ける僕が救えた人達と情報を共有出来れば……僕の行動の意味を見出してくれるかもしれない。

 そうであることを祈る。

 そのためにも、僕はこの先、多くの人を殺す必要がある。

 美穂に、堅司に、香奈に、僕の行動の意味を気付いてもらうために。



 でも……。

 美穂がいてくたら。

 この狂った世界に美穂がいてくれたら。

 それだけで、僕は幸せだ。

 頑張れる。

 1人よりずっと頑張れる。


 美穂に何かを伝えることはできない。

 それでも美穂なら僕を信じて……信じるも何もないんだけど、僕の側にいてくれるんじゃないか?

 僕が一緒に来て欲しいと言えば……。


 この世界が魔王に滅ぼされる間際に、美穂を殺してあげればいいじゃないか。

 それまで一緒に……。

 でもいいのか? その間、美穂はずっと僕が人を殺すところを見るんだぞ。

 美穂から見れば、僕は単なる人殺しだ。


 いや、サーカスに隠れ家があるなら美穂はそこにずっといてもらえばいい。

 何も僕が誰かを殺すところなんて見せる必要はない。

 そうだよ。それでいいじゃないか。

 美穂は僕の帰りをただただ待っていてくれれば……。



「美穂」

「……」

「美穂、聞いて欲しい。僕は君を愛している。本当に愛しているんだ。

 だから……僕の側に……」

「……」

「僕の側にいてくれないかな。美穂は僕が絶対に守るよ。ガレスさんに美穂はずっと隠れ家にいられるようにお願いするよ。だから……」

「……」


 僕が絶対に守る。

 たったいま、目の前で苦楽を共にしてきた堅司と香奈を殺しておいて……何ていう言葉だ。

 でも美穂と堅司達は違う。

 そうだよ。違う。美穂は僕の恋人だ。愛する人だ。

 美穂と僕の命の安全のために、堅司と香奈を殺した。仕方のないことだったんだ。

 そう説明しよう。

 ちょっとずつ時間をかけて話していけば、きっと美穂も分かってくれる。

 それは僕にとっては偽りの言葉だけど、真実を伝えられない以上、僕はそれで構わない。

 美穂が側にいてくれるなら……どんな状況でも構わない。



「あら、だめよ。彼女さんを連れていきたいなら、彼女さんにも人を殺してもらわないと。私達の仲間になるためには『レッドプレイヤー』にならないといけないのよ」


 ガレスの隣にいる金髪の女が言った。

 そうだった。サーカスの仲間になるにはレッドプレイヤーになる必要があった。

 つまり……美穂に本当の殺しをさせる必要があるのか。


 この短剣は貸せない。

 それをしてしまっては、条件が満たされない。

 どうする……誰か……誰かプレイヤーを殺させる。美穂に人殺しをさせる。

 でも僕が最後まで辿り着いて魔王を倒せば……その殺しは無かったことに……。


「こいつを殺せ。それで俺達の仲間に入れてやる」


 ガレスが弓使いの男を蹴飛ばした。

 僕達を殺そうとしたあの3人組の生き残りだ。

 仲間を見捨てて逃げ出したこいつはいらないってことか。


「そ、そんな! お、俺は、……があああ!」


 弓使いの男がガレスの両手斧で斬られた。すると次の瞬間に地面に倒れて動かなくなった。

 死んでいない。……麻痺か。


「ほれ、大サービスで麻痺状態だ。俺の一撃でHPも半分は減ってるぞ。すぐに殺せるだろ」


 ニヤニヤと笑いながらガレスが僕と美穂を見ている。

 くそっ。美穂は動けるか? この状態で動けるのか……頼む! 動いてくれ!


「美穂……美穂! 美穂! 聞こえるね? 僕の声が聞こえるね!?

 動くんだ! 身体を動かすんだ!

 あの男を……男を……殺す……殺すんだ!

 あの男を殺して、僕と一緒に行こう!」



「いたぞおおおおおおお!」


 突然響き渡る声。

 その声の方角から現れたのは……前線組のプレイヤー達だった。

 サーカスの情報を聞いて駆け付けたのか!?

 見えているのは6人、1パーティ分だ。

 でもまだ他にも駆けつけてくるかもしれない。


「ちっ! タイムオーバーだ」


 ガレスは麻痺状態の弓使いの男の頭に、両手斧を数回振り下ろした。

 彼のHPはあっという間になくなると、光の粒子となって砕け散った。


「おい! 逃げるぞ! セイジ! お前は来るんだろ!? 来い!

 その女はダメだ! 俺が殺す!」

「や、やめろ! やめろ!」

「あん? 今さら何言ってんだ! もともとはその女も殺すって言ってただろうが!」


 余計なことを言うな!

 美穂はこんな状態だけど、ガレスの声はきっと聞こえている。

 僕が美穂を殺すつもりだったと知られたら……。


「殺すつもりだったの……私のことも……」


 美穂の口が動いて言葉が出た。

 仮面のような表情の顔はそのまま……でも、その瞳には力が宿り始めているようだった。

 燃え上がる炎だ。

 美穂の瞳に真っ赤に燃え上がる……憎しみと怒りと、復讐の炎が。


「違う……違う! 僕は……僕は!」

「殺すつもりだったのね。私も……香奈や堅司と同じように……殺すつもりだったのね!」

「違うんだ! そうじゃないんだ! 美穂! 信じてくれ!」

「何を信じろっていうのよ! この人殺し!」


「ちっ! どけ!」


 ガレスが巨大な斧を美穂に向かって振り下ろした。

 その一撃で、僕は美穂が死んでしまったと思った。

 だが、


「「なっ!」」


 美穂はガレスの一撃を避けてみせた。

 無我夢中で身体をひねるような体勢でそのまま地面に倒れ込んだけど、あのガレスの一撃を避けたのだ。

 信じられない。


「助けるぞ! あの女性を助けるぞ!」


 他の仲間が集まるのを待っていたのか、一定距離で静観していた前線組のプレイヤー達が駆け出してきた。


「逃げるぞ」


 不機嫌な低い声でガレスが叫ぶと、サーカスは一斉に逃げ出す。

 僕は……僕はもうガレス達についていくしかない。


「くそっ! くそっ! くそっ!」


 背中に美穂の憎悪の視線が突き刺さる。

 僕はなんて愚かなんだ。

 まさにピエロだ。

 美穂を連れていくことも、救うことも出来ないなんて!

 最悪だ!

 一番あってはならない事態だ!!


「くそっ! くそっ! くそっ! くそおおおおおおおお!」


 森の中に響いた僕の叫び声は、美穂に届いただろうか。


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