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第12話 B-6

 世界は変わっていく。

 自分は流れの外にいるつもりでも、変わりゆく世界は僕を包み込む。

 自分の時間を止めたつもりでも、落ちていく砂は止まらない。


 そして望まない変化は突然やってくる。

 自分ではどうすることも出来ない何かが、いきなり目の前に現れる。




 多くの犠牲者を出しながらも、何とか第2魔将軍を倒すことに成功した。

 侵攻に怯えることのない平和な時が流れる。

 しかしそれはあっという間に終わりを告げた。


 第3魔将軍の砦が開放された。

 同時に侵攻のカウントダウンも始まる。


 僕達は防衛には参加するも、前線組ではなく採集組として活動を続けていた。

 前線組は常に人員を募集している。

 侵攻に対する防衛が広範囲になる以上、優れた戦士は何人いても足らないのだ。


 幸い僕達が守る村が侵攻によって滅んだことはない。

 つまり僕達が死ぬことはなかった。


 さらに第3魔将軍になってからの侵攻は、砦から最も近い街や村にモンスターが現れるも、離れた場所にある街や村が襲われることは無かった。

 第2魔将軍の時だけ起きる現象だったのではないかと言われている。

 確定は出来ないので、今も侵攻の時は離れた場所の街や村を含めて広範囲に防衛の人数を配置している。


 侵攻の脅威が少し下がったことは喜ばしいのだが、新たな脅威が現れた。

 最初その話を聞いた時、本当に信じられなかった。



 プレイヤーキル。



 この世界でそれが可能であることはもちろん知っていた。

 しかし、現実にそれを行う者がいることにショックを受けた。

 元の世界に戻るために、前線組の支援はしなくとも邪魔をすることはない。

 当然にそう思っていた。


 でも違った。

 プレイヤーキルを行う者達が現れた。

 彼らは『サーカス』というギルドを結成して活動を始めていた。

 そしてさらに信じられないことに、そのサーカスのギルマスはあの戦車ガレスだった。


 前線組のトッププレイヤーでもあった戦車ガレス。

 2重の衝撃だった。


 前線組はすぐに殺人集団サーカスの討伐を開始した。

 レッドプレイヤーは街や村に入ることは出来ないから、一般フィールドやダンジョンの中で過ごさなければならない。

 そもそもアイテムの補充が出来ない。

 食料は無くとも軽い空腹感に耐えれば問題ないが、消耗アイテムが尽きれば彼らの活動はすぐに制限される。

 すぐにサーカスは討伐されると、誰もが思った。


 しかし、未だにサーカスは討伐出来ていない。

 それどころか、その規模はどんどん大きくなっている。

 彼らは何らかのアイテム補充手段を得ていた。

 そしておそらく隠れ家を持ち、大規模な捜索にも引っ掛からなかった。

 逆に捜索中に襲われ、命を落とすプレイヤーもいた。


 おかげで採集エリアはかなり限定的な状況だ。

 街や村から近い場所でしか出来ないのだ。

 サーカスに襲われた時に、とにかく街や村に逃げて、無敵属性を持つ騎士に助けてもらう。

 サーカスの構成員の強さはばらばらだけど、ギルマスの戦車ガレスが相手では太刀打ち出来るのは前線組のトッププレイヤーだけ。

 僕達はとにかくサーカスを見たら逃げろと指示されている。


 そしてサーカスへの対抗措置としては、負けないだけの実力を持つようにと言われた。

 つまり前線組に入ってこいってことだ。


 もはや前線組が採集組を見る目は軽蔑の目である。

 どんなに僕達がアイテムを供給しようとも、彼らは僕達を認めない。

 そもそも、僕達が供給するアイテムなど彼らにはもう何の価値もないのだろうけど。

 必要なのはゼニだけだ。


 前線組は採集組からのアイテム供給を期待していない。

 レベル差が広がり過ぎて、僕達が得られるアイテムでは意味がないのだ。

 それなのに僕達は命の危険を冒して採集に出る? 馬鹿げている。

 でも結局僕達が採集を続けていたのは、罪悪感を減らすためなのだろう。


 第3魔将軍の砦を攻める時期は未定だ。

 侵攻の防衛が上手くいっているため、前線組はさらなるレベル上げと装備を求めている。

 下手すれば1年や2年ぐらい、このままの状態かもしれない。

 それでも前線組に参加しない僕達には何かを言う資格はない。


 さらには生産組の『選別』も終わっている。

 前線組に保護されるほど優秀な生産者はもう出てこないだろう。

 王都テラに残された生産組は、前線組に入って戦うしかない。

 でもレベルや装備差が広がった今となって、自分達が前線組として戦うなんておかしい! と叫んでは王都テラから動かない人達も多い。


 彼らは自ら望んで生産組になったわけではないのだ。

 前線組の都合でこれまでの時間を生産スキルに注ぎ込んだのに、不要となれば今度は前線で戦えでは彼らの不満も分からなくもない。


 前線組は無理でも、採集組ならと流れてくる人達がいる。

 そして不慣れな採集組となった彼らは、時にサーカスの餌食となっていた。


 サーカスが脅威となっている理由の1つに、彼らが持つ強力なアイテムがある。

 それは『しびれ薬』と言われており『麻痺』のステータス異常を起こせるアイテムらしい。

 しかもキュアでは解除不可能。その時に使ったキュアはレア中級の魔石だったそうだ。

 上級か最上級なら解除できるかもしれない。


 どんなに強いプレイヤーでも、麻痺状態となればお終いだ。

 主に戦車ガレスなどが、武器に麻痺属性を付与して攻撃してくるそうだ。

 また、サーカスの中には『弓』を使える者がいて、その矢に麻痺属性が付与されているとか。

 麻痺になる確率や持続時間など詳細なことは分かっていないが、戦車ガレス相手に数秒でも麻痺すればあっという間に殺されてしまうだろう。



 いつ倒せるか分からない第3魔将軍。

 突然モンスターの大群が攻めてくるかもしれない侵攻。

 そして現れたレッドプレイヤー集団サーカス。

 僕達の前には深すぎる闇が広がり、そこから死の匂いが漏れていた。


 そして、その闇はある日突然、僕達を飲み込んだ。




「逃げろおぉぉ!」


 誰かの叫び声。

 僕達は安全と思われる採集地点に向かっていた。

 すると、前方から大きな声と共に人が雪崩のように走ってきた。

 ここで逃げる理由は1つしかない。

 サーカスだ。


「逃げるぞ!」


 採集エリアが限定されているため、同じ方角に向かうパーティは多い。

 僕達の前をどれだけのパーティが歩いていたのか分からないが、サーカスと戦おうなんて思える勇気ある戦士は採集組にはいない。

 僕達も同じで、一目散に街に向かって逃げ出した。


「はぁはぁ……走れ! 走れ!」


 僕達は最も足の遅い堅司に合わせるように逃げていく。

 周りには同じく逃げている人達が数人いる。

 後方ではサーカスに捕まったと思われる人達の悲鳴が聞こえてきたけど、彼らを助けてあげることは出来ない。

 とにかく美穂と香奈を安全な場所に……。


「え?」


 グサっと地面に何かが突き刺さった。

 矢だ。

 まさか『弓』を使える奴がきているのか!?

 この矢にあの麻痺属性が付与されていたら……。


「ぐあっ! あ、あ、足が! 足が!」


 右後方から悲鳴が聞こえた。

 見ると足に矢が刺さっている男の人がいた。


「おい! 逃げろ! 我慢して走るんだ!」

「違う! 足が動かない! 動かないんだ!」


 動かない!? 麻痺か!?

 喚き散らす男の右腕に矢が突き刺さった。


「ぐあああ!」


 すると右腕がだらんと垂れ下がる。

 間違いない! 麻痺だ!


「聖司!」


 一瞬動きを止めてしまった僕の前に、堅司の腕が……。

 その右腕には矢が突き刺さっていた。


「ぐおおお! 腕が……くっ! 逃げるぞ!」

「堅司! 剣が!」

「そんなものはいい! 早く逃げるぞ!!」


 堅司の右手から片手剣が落ちている。


「堅司! その腕……」

「ああ、これが麻痺だな」

「やっぱり麻痺!? あ、堅司!?」


 堅司の動きが突然止まり、その場に倒れてしまった。

 腕から麻痺が身体全体に浸透したのか!?

 まずい! 重い堅司を担いで逃げるなんて……。


「堅司!」


 香奈が戻ってきてしまった。

 美穂もだ。

 3人で倒れた堅司を担ごうとする。

 街まであとどのくらいだ!?

 NPC騎士が反応してくれる距離まで行ければ……。


「は~い、ストップですよ~。止まらないと、即殺しますからね~」


 最悪だ。

 僕達を取り囲む3人のレッドプレイヤー。

 どの程度の強さなのか分からないが、その表情は余裕たっぷりだ。

 こいつらも麻痺属性を付与した武器を持っているのかもしれない。


「女だぜ! 女! しかも超美人じゃん!」

「うるせ~な。騒ぐなよ。この世界では殺人は出来るが、あっちの方は合意がないと弾かれちまうんだ。女だからって色めき立つなよ」

「で、でも! 見るからにそっちの2人と恋人同士じゃん! そっちの男2人を人質にして、いいことしてもらおうぜ!」

「あ~、それもそうだな」


 男3人の言葉に、僕と香奈は武器を握り構える。

 美穂も杖を構えている。

 杖には攻撃系の魔石が装着されているはずだ。


「おっと、俺達とやるのか?」

「1人麻痺ってるから、ちょうど3対3だな」

「いいんじゃね~。ちょっと遊ぼうぜ!」


 こいつらのレベルは分からないが、装備の形からして、一般下級の装備品に見える。

 中級でないなら、レベル差はそれほどないだろう。

 他のレッドプレイヤー達はいない。

 悲鳴はあちこちから聞こえてくるけど、僕達から見える範囲ではこの3人だけ。


 この3人を殺して、堅司を連れて逃げる。

 殺す……殺す……殺す……。


「怖いか? 震えてるぞ」

「仕方ないよね~! お前は人を殺したことあるか? 俺はあるぜ!」

「って言うかお前達、前線組じゃないだろ。採集組のクズ野郎共が、俺達とやり合えると思ってんのかよ!」


 男の右手に現れたのは、槍!

 僕に向かってその槍を突き刺してきた。


「くっ!」


 左にステップして槍の突進をかわす。

 そこに、両手剣を持った男が僕を襲ってくる。


「おら!!」

「きゃっ!」


 両手剣の一撃をさらにバックステップで回避した。

 でも、最初に突撃してきた槍の男が、そのまま槍を振り回して香奈と美穂を弾き飛ばしている。

 だめだ、2人とも動けてない。

 棒立ち状態か!?


「ぐあっ!」


 僕の太ももに痛みが走る。

 見ると、矢が突き刺さっていた。

 後方に待機していた男が弓を射たのか。

 こいつが弓使いか。

 まずい、この矢にも麻痺属性が!?


「死ね!」


 両手剣が再び僕を襲ってくる。

 足は動く。

 足に力を入れ、両手剣の斬撃を回避する。

 麻痺していない。

 なぜ麻痺しない? 矢に麻痺属性が付与されていないのか。

 それとも確率の問題か。


「おらぁ!」


 この両手剣の男は人を殺すことに戸惑いがない。

 既に何人か殺しているんだ。

 でも男の動きは見える。

 絶対に僕が敵わないとは思えない。

 こいつの攻撃は回避可能だ。


「美穂! 香奈! 動くんだ! こいつらそんなに強くないぞ!」


 2人を鼓舞する。

 槍の男が美穂と香奈を制止している。

 僕達を人質に取って、2人を脅迫しようとしているんだ。


「こ……この!」


 香奈が動いた。

 細剣で槍の男に向かっていく。

 弓が香奈に向けられた。弓を阻止しないと!


「くそっ!」

「行かせるかよ!」


 弓の男に向かおうとする僕を、両手剣が遮る。

 回避するだけなら問題ない。

 僕にこいつが殺せるか……いや、殺すんだ! こいつを殺すんだ!


「ぎゃああああ!」


 弓の男が悲鳴を上げた。

 男は炎に包まれている。

 美穂か!?

 顔を向けると地面に座り込んだまま、杖に装着された『ファイアーボール』を使用していた。

 ナイスだ! よく頑張った!


「うおおおおお!」


 両手剣の男に向かっていく。

 逃げるだけじゃなく相手の懐に潜りこんで斬りつければ、僕も攻撃を喰らってしまうだろう。

 美穂がヒールで援護してくれるかもしれない。

 相手も、後ろの弓使いが同じくヒールの魔石を持っているかもしれない。


 激しく鳴る鼓動は、今にも僕の中の何かを壊してしまいそうだった。

 恐怖が怒りに変わり、頭の中で何かが切れるのを感じる。

 目の前にいる名も知らぬレッドプレイヤーを、僕は無我夢中で切り裂いていった。



「お、おい! 援護しろよ!」


 1分? 2分? それとも10分? いや1分も戦っていないかもしれない。

 なぜか分からないが、両手剣の男は反転して逃げ出した。

 弓の男に援護を求めながら。


「おい! 後ろの女を止めろ! 攻撃系の魔石持ってんぞ!」

「うるせー! こっちも忙しいんだよ!」


 弓の男は、槍の男に美穂を止めるように指示を出す。

 が、香奈と1対1の状況で槍の男は動きが止まっている。

 香奈は積極的に攻めないが、相手をじっと見て、相手の動きに合わせているようだ。

 それでいい。


 それにしても、この両手剣の男は最初の勢いだけか?

 弱い……のかもしれない。

 採集組を馬鹿にしていたから、てっきり前線組からレッドプレイヤーになったのかと思ったけど。

 いや、前線組だからといって、必ずしも強いわけじゃない。

『自称前線組』はいくらでもいた。

 こいつらは、人殺しの経験がある。

 その点に関して、僕よりも経験が上だ。

 でも、モンスターとの戦いを本当にどれだけ真剣にこなしてきたのか分からない。

 僕達は、前線組として戦う勇気は持てなかったけど、その代わり毎日モンスターと戦い採集を頑張っていた。

 その日々は、僕達にも強さの経験を与えてくれるものだった。


「くっ……」

「「堅司!」」


 よし! 堅司の麻痺が解けた!

 これで人数もこっちが有利になる!


「おい! 麻痺矢使えよ!」

「お、おぅ! おい! 動くんじゃねぇぞ! この矢には麻痺が付与されてる!

 この矢に当たったら、そいつみたいに動けなくなるからな!」


 弓の男が矢を引く。

 あの矢に麻痺が付与されているのか? なら、どうしてさっき僕は麻痺にならなかった。


「さっき、僕は麻痺にならなかった。その矢には麻痺は付与されていないんじゃないのか」

「さ、さっきの矢は普通の矢だ! 麻痺矢は貴重だからな! 簡単に使うもんじゃないんだよ!」


 どっちだ? 本当に今回のは麻痺矢か?

 いや、はったりだ。

 麻痺矢じゃない。絶対に違う。


 両手剣の男が回復薬を取り出した。

 あれを飲ませてはいけない。

 駆け出すんだ。

 殺す、そして殺すんだ。

 こいつを殺すんだ!


「うおおおおおおお!」


 回復薬を飲ませまいと、両手剣の男に向かっていった。

 同時に僕に向かって矢が放たれる。

 しかし、当たらない。


「こいつ……や、やめろ! くるな!」


 男は無様な動きで両手剣を振る。

 よく見れば、こいつのHPバーの色は黄色だった。

 それも、あと少しで赤色になるほどだ。

 無我夢中で短剣を振っていたので全然気付かなかった。

 僕はいつの間にか、本当に人を殺す手前まできていたんだ。


 情けない男に向かって短剣を突き刺した。

 HPバーが赤色に変わる。

 横から弓を構える男が見えるが、動きながら攻撃する僕に照準を合わせられないのか、矢は飛んでこない。


 1回……2回……3回と短剣が男の身体を切り裂いていく。

 その度にHPバーが減っていく。

 手に残る感触は、不思議と受け入れられるものだった。

 そしてあまりにもあっけなく、その時は訪れた。

 僕の目の前で、その男は光の粒子となり砕け散っていった。


「う、うわあああ!」


 弓の男が逃げ出した。

 同時に槍の男も逃げ出そうとする。

 が、槍の男は香奈と堅司に挟まれて、さらには美穂を加えた3人で囲っている。

 簡単には逃げられない。


 僕は逃げ出した弓の男を追った。

 なぜ追ったのか。

 仲間を連れて戻ってくるのを阻止するため?

 逃げたのなら放っておけばいい。

 僕達は街に逃げることを優先するべきなのだから。

 でも僕は追った。

 弓の男から聞き出さなくてはいけないことがあったからだ。

 男の俊敏性は低いのか、あっという間に僕は追いついた。


「た、助けてくれ! お、お願いだ! お、お前達に良いことを教えてやるから! お願いだから助けてくれ!」

「サーカスの情報か? 隠れ家はどこだ?」


 後ろで槍の男が命乞いを始めた声が聞こえる。

 堅司が槍の男に向かって冷静な声で話している。

 サーカスの隠れ家……彼らは隠れ家を持ちプレイヤーキルを重ねる……積み重ねることが出来るんだ……。


「か、隠れ家のことは言えないんだ! これには理由があるんだ!

 お、お前達も俺達の仲間になれば分かる!」

「なんで人殺しの仲間に俺達がならなくちゃならないんだよ!

 元の世界に戻るのを邪魔してお前達は何がしたいんだ!」

「そ、それだよ! それ! いいか、俺達はせいや……あ……あ……あ」

「え?」


 槍の男が何かを言おうとして声が途切れた。

 香奈の驚く声が一瞬聞こえた。

 直後、プレイヤーが光の粒子となって砕け散る音が聞こえたような気がした。


 堅司達の声が僅かに聞こえるほどの距離を置いて、僕は弓の男に向かって短剣を突き出している。

 男は地面に転がっていた。

 足を木に取られたのか? 俊敏性が異常に低いのかと思ったら、ただ単につまづいただけか。

 でも今はそんなことどうでもいい。

 僕は男に言った。


「お前、麻痺の……しびれ薬を持っているのか?」

「あ……あ……」

「持っているのか!?」

「あ、ああ……も、持っていない。お、俺は持っていないんだ!」

「その矢は? 麻痺の矢なのか?」

「ち、違う。これは全部ただの矢だ」

「堅司を麻痺させた弓使いは別にいるのか?」

「そ、そうだ。俺じゃない! 俺はただの下っ端で!」

「誰が作れる? しびれ薬を誰が作れるんだ!? 誰が持っている!?」


 僕の問いに答えたのは、目の前の男ではなかった。

 森の中を透き通るような美しい声が響いた。


「私よ」


 美しい金髪を靡かせる女と、巨大な両手斧を持つ屈強な男。

 そしてその後ろには10人ほどの男達。それは精鋭部隊という言葉を僕の中に連想させた。

 いつからそこにいたのか……森の中から、そいつらは現れた。

 その中から一歩前に踏み出してきたのは、巨大な両手斧を持つ男。

 戦車ガレスだ。


「こいつらはハズレか……むしろお前の方が期待できそうだな」


 ガレスは仲間であるはずの弓の男に『ハズレ』といった。

 そして、僕に期待できる……何が期待できるんだ?


「お前、俺達の仲間を殺したな。お前にはテストを受けてもらおうか」


 テスト? 何を言っているんだ?

 そんなことより逃げ出さないと。

 さっきの3人とは違う。こいつらと戦うなんて選択肢はない。

 堅司達に逃げろと叫んで、僕も走るんだ。

 街まで走るんだ!


 ……逃げる? サーカスから? でも、僕が求めるもの……積み重ねなくてはいけないものが、彼らとなら……達成できるかもしれない。


「俺達の仲間にならないか? 後ろにいる仲間を殺して、俺達の仲間になれ」


 目の前の男の放つ圧倒的な威圧感に、僕は今にも押し潰されそうだった。


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