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wish.  作者: 葉桜 椿
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The.o[ZERO]…序章

初投稿です。最後まで読んでくれたら嬉しいです。

巡命

the.onece.of


人の望みや、信じる力は、時に偉大で、時に独善な力を発揮する。


それは、存在そのものを改変したり、記憶をすげ替えることも可能な力。


その存在とその存在の記憶を消したいと願うのなら、消せばいい。自らの中枢で。

その存在とその存在の記憶を改変したければ、暗示をかければいい。自らの認識に。

その存在とその存在の記憶を創りたいのなら、思えばいい。自らの思いで。


存在と記憶には改変、消滅、創造。

この三つが出来る。

記憶の中の存在が消されれば、その存在に纏わる記憶も消え去る。

記憶の中の存在が改変されれば、それに纏わる記憶に違和感が生じる。

記憶の中の存在が新たに創造されれば、無い筈の新たに記憶が生まれる。


これが偉大で、独善な力。


偉大なのは、記憶と、その存在を変える事が出来ること。

独善なのは、全て、都合が良くなること。

良い事をもっと良い事にしようと考える者はいるだろう。

だが、忘れたり、悪くなるように改変したがる者はそういない。


だから、独善。




出会



ふわふわと、非現実的な感覚が全身を駆け巡る。

夢でも見ているのだろうか。

ノイズがかかったように映像が不明瞭化していく。

不明瞭化した映像が色を帯び、段々と人の形になる。

―――誰なんだろう。

手を差し伸べてくれる、暖かな光。

よく思い出せない。

再びノイズがかかり映像が不明瞭化する。

先に習い、また人が象[かたど]った光になった。

―――何故なんだろう。

今度は蔑む光。どんな蔑み方かはよく思い出せない。

映像が白くフェードアウトする。

それは、まどろみの中での世界の終焉を意味していた。




朝の陽射しが、少女の目に差し込む。

んんっ、と寝息を漏らすと同時に朝の爽やかな空気をぶち壊しにする機械的な『ピピピ…!!』という音が携帯電話のアラーム機能により部屋中に鳴り響く。

少女は何が起きたのかという風に跳ね起き、周りを見渡すと六畳半程の部屋に、自分が寝ているベッド、黒い勉強机、勉強机の上に学校のものであろう鞄。

辞典やら小説やらその他色々が入った白い本棚、衣類が入っている木林色の箪笥[たんす]、部屋の脇に小さな折り畳みテーブルが置いてある。

後は枕元に桜色の携帯電話と可愛らしい白と黒の猫のぬいぐるみが二つ、寄り添うように勉強机の上に置かれてあるだけ。

要するに、普通の女子の部屋だ。

微笑ましい限りだが、黒猫のぬいぐるみはやたらと渋い書体の

『立てよ国民ッ!!』

と書かれた看板を持っている為、非常にむさく見える。

……付け加えておくが、黒猫の顎は割れてはいない。

決して。

「朝か…」

アラームを止めて、んー、と寝たままで背伸びをする。

少女が着ているワイシャツとハーフパンツが掛け布団からはみ出た。

少女は立上がり、白猫を抱き抱えながら

「おはよう、トワ」

白猫を机の上に置くと看板を持った黒猫を抱き、

「…坊やだから…じゃないや。おはよう、ギレ…じゃないや。おはよう、リツ」

人形を抱き、挨拶をする姿は、恐らく日課なのだろう。

とても自然な姿で、カーテンの隙間から少しだけ差し込む朝日にとても映える。

黒猫を持ち上げた際に、白猫が倒れたので、

『立てよ国民ッ!』

『やだ、寝る』

という会話が成立したようだった。

「まだ6時だから、先に朝ご飯…っと」

白猫と黒猫をちゃんと立て直し、両方の頭をポンポンしてから部屋の戸を開けて階段を降りる。

十七段の階段を降りきって右に曲がると椅子と対になったテーブル、やや大きめの冷蔵庫。

後はグリルやコンロ等、やや立派なキッチンがあるだけだった。

椅子は四つ。

だがそのうち三つは薄く埃を被っており、長い間使われていないようである。

やがて、目玉焼きを乗せたトーストと、ツナとキュウリ満載のトーストを乗せたプレートをテーブルに置き、あまり埃が被っていない椅子に座る。

目玉焼きを一瞬で平らげ、それが乗っていたトーストにかぶりつく。

焼きたてのトーストはさっくりとしていて、一口頬張ると『さくっ』と音がする。

少女一人しかいないリビングにその音は消えて、少女に少し寂しさを感じさせる。

一枚目のトーストを完食して気付く。

飲料物がないのだ。

椅子から立上がり、ぺたぺたと足音を立ててコンロの方に移動する。

カチン、とコンロが火を付ける時に鳴る音が鳴った。

ポットに水を適量入れて火にかける。

戸棚を覗き込み、お目当ての飲み物は無いかと探す。

「もか〜♪もか〜♪……切らしてるや…」

『もか』という飲み物がなく、不機嫌な顔をしたが、冷蔵庫に牛乳が備蓄されていたので機嫌は直ったようだった。

「あ…お湯……」

少女は考える。

今沸かしているお湯と今持っている牛乳。

どうにか共存する事ができないのか、と。

難しい顔をして考える。

(牛乳、牛乳、牛乳、牛乳、牛乳、牛乳…………!)

何かを閃いたのか、表情がぱっと笑顔に変わり、再び戸棚を確認する。

(あった!)

その手に持たれていたのは、紅茶のティーパックと紅茶用の大量の砂糖。

「混ぜてぇー、ミルクティー♪」

まるでタイミングを見計らったようにお湯が沸騰する。

急いでカップを出して、ティーパックを準備する。

お湯を注ぎ、よく味を染み渡らせてからティーパックを抜いて砂糖と牛乳を加える。

だが、現実は甘くない。

ポットのお湯は全て注がれて、ティーパックが入ったカップちょうど一杯分。

ティーパックを抜いてカップの九割

大量の砂糖が入れば、九と〇.五割。

カップはあくまでティーカップ。

砂糖が大量に必要なくらいの牛乳の量は、当然、入らない。

というか、ミルクティーにならない。

だから、少し飲んで牛乳を注ぐ。

という端から見れば『?』一直線な行動を取る以外に答えは無い。

所要時間は四分。

それでカタがついた。

(紅茶…なくなった…)

馬鹿一直線。

少女は仕方がないと思い、牛乳をティーカップに注ぎ、トーストを乗せた皿の隣りに置く。

ツナとキュウリとトーストの味と食感を楽しんだ後、牛乳を飲んで口直し。

(さて、歯磨き歯磨き)

リビングから出て左にある階段を素通りしてその奥の左に続く廊下を歩く。

洗面所に着くと歯ブラシをコンマ〇二秒でブラシが入っているコップから抜き去り、そこからコンマ〇四で歯磨き粉を垂らして、歯を磨き始めた。

歯磨きが終わると午前六時二十七分。

一度部屋に戻って、学校の制服を箪笥から取出す。

白猫と黒猫をポンポンして今度は洗面所を素通りする。

(お風呂…お風呂。お風呂♪)

朝風呂に入るらしい。

脱衣所に入り、ワイシャツを脱いだその時に気付いた。

(…下着…忘れた)

ワイシャツを着直し、部屋に下着を取りに行く。

本日三度目のポンポンを済ませて風呂場に戻る。

服を脱ぎ捨てて洗濯籠に放り投げる。

風呂から上がるとブレザーの制服をきっちり着て、部屋に靴下を取りに行く。

(また忘れた…)

靴下を履いて、ポンポンを済ますと、時計の針は六時五十分を回っていた。

勉強道具が入った鞄に携帯をマナーモードにしてから突っ込んで、家を出る。




がちゃり。

鍵を閉めた事を確認して歩き出す。

朝の住宅街は非常に静かで、足音でその静けさを消してしまうのが勿体ないくらい静けさだった。

その歩行距離、僅か10メートル程。

ポケットをまさぐり、鍵束(といっても付いてる鍵は三つだが)を取り出す。

右手にある結構立派な一軒家の扉の鍵穴にそのうちの一つを差し込む。

それを半回転させる。

回るという事は鍵自体はあっているらしい。

家の中に入って一言。

「…おきろぉぉぉおぉおぉぉぉおおぉぉおおぉぉ!!!!」

命令形である事を見ると相手がいるらしい。

その咆哮は階段を駆け上がり、扉を突き破って、相手の耳に届いた。

だが、言葉に従う気配はない。

即ち、起きた気配はない。

「…………すぅ、」

新たに力を溜めて、靴を脱ぎ、中に入る。

階段を上がりきって左にある扉を開けて七ほど前進して不機嫌な顔で口を開く。

「おきろぉぉぉおぉおぉぉぉおおぉぉおおぉぉ!!!!」

「うわッ!!!!」

若い、少年の叫び。

恐らく一度目の射撃で半分起きたところに、二度目格闘攻撃によるクリティカルヒットが決まったのだろう。

少年の頭が見事な弧を描き跳ね上がる。

枕元にいた少女が起きるなりいきなり全力で叱咤するので、驚くのも無理はない。

「ぅぉおそぉぉい!!」

いきなりの叱咤にきょとんとして、少年は尋ねる。

「……ここに居る理由を説明しろ。」

寝起きであるせいか、若干声が掠れている。

それでも少女は、しっかりと聞き取り、答えた。

「何って…起こしに来たのと、朝ご飯作りに来たのと、遅刻しなよいうに一緒に学校行こうって」

非常に鈍感な彼は、この言葉の真の意味を知らない。

というより、察せない。

これぞ真の馬鹿。

「毎日律義な奴。来なくてもいいぞ?」

だからこんな台詞が吐ける。

少女も、察してくれないから悪気は無く怒ってしまう。

「…私が来なかったら毎日遅刻だし」

『それに…』と付け加えようとしたがばつが悪くなったように言葉を胸中に納める。

「なんだよ?」

顔をしかめて疑問に思う彼を傍目に不機嫌な顔で

「それに、広島にいるおじさんに怒られるの、享[きょう]なんだからね?」

享[きょう]と呼ばれた少年はようやく立上がり、平日の朝早くにわざわざ起こしに来てくれた少女に、言った。

「……親父は長期出張だろ?なんか別居みたいな言い方するな。まぁ、確かに朝飯は香[きょう]に作ってもらわないとキツいけど。それに、遅刻になったらなった、怒られたら怒られたらで、別に気にしないし。どうせ親父は年に一回しか帰ってこないしな。」

香[きょう]は不機嫌な顔を保って言う。

「じゃあ明日から迎えに来ない。遅刻しても私のせいにしないでよ?」

それが何やら不機嫌な声だったので、『朝飯がなくなる』と感じた享は最悪の事態を回避する為に防衛作戦の発動を〇コンマ〇2秒で決定して、〇コンマ〇6秒後には実行していた。

(何やら分からない機嫌のせいで朝飯を消してなるものか!カムバック!朝飯ッ!)

「悪かった。いつもありがとな。やっぱお前がいないとだめだ。」

にこやかにそう囁くと数秒間を置かれたので、享はどこか間違えたか、馬鹿にしたような事を言ったか、と記憶を辿る羽目になったが、一般的に馬鹿にしたような言葉は無い。

「だよねぇ!享は私がいないとダメ人間まっしぐらだもんね!」

自信過剰且つ罵声満載な言葉に享は表面上は上機嫌に言った。

「ああ、それより腹が減ったな…ご飯、作ってくれるか?」

機嫌が直った香は笑顔で

「おまかせあれ!」

と、享の部屋を出た。


wish.the.o[FIN]

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

感想を頂けたら嬉しいです。

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