見つめる先には
「……」
男は、仏頂面で。
その行動をジッと見つめている。
(何やってんだ?…あいつ…)
心の中でそう呟く。
男の名前は藤真十里。
この市立中須高等学校の2年。
本人に自覚はないが女生徒からの支持率は高い。
彼を含む彼の友人も揃って容姿端麗。
所謂、イケメン集団だ。
どうしても目立ってしまうということもあって異性からのアプローチは多い。
そんな十里の視線は教室の一番後ろの角の席へ向けられている。
太陽の光をまともに受けて。
その席にいる人物は必要以上に前屈みになっている。
眠っているのではない。
何故なら右手が動いているからだ。
教室の中がざわめきで埋め尽くされている中。
その一角だけ、音が遮断されているような気さえする。
栗色の長い髪が壁を作っているようにも見える。
謎だけが膨らんでくる。
どうやら何かを隠しているようだ。
「十里。何見てんの?」
「うわっ!」
急に話しかけられて思考が遮断される。
心臓の音がハンパなく大きくなる。
「何だよ…悠かよ…」
十里に話しかけてきたのは宇治島悠。
イケメン集団の中でも飛び切りイケててモテる人物だった。
十里とは中学の頃からの腐れ縁だ。
「…何だって何だよ。失礼なヤツだな。…まぁ、知ってるけど。」
「うっせ。」
「それよりお前何見てたの?」
「何って…」
十里は悠から視線を外して例の人物の方に視線を向けた。
「…桐那?」
十里の視線を追った悠がポツリ、と言葉を漏らした。
桐那羽子、それがその人物の名前だった。
「…何?お前桐那のこと好きなの?」
悠の性格はあっさりさっぱり直球。
そういうこともオブラートに包むことなくダイレクトに聞いてくる。
長年の付き合いでもうすっかり慣れてはいるが時々心臓に悪い。
「何でそうなんだよ。」
「だってそんな執拗に見つめてるから。」
「聞こえがわりぃだろ。"眺めてた"って言ってもらえる?」
「眺めるレベルにしてはかなりネットリしてたけど?」
「………」
呆れて言葉が返せない。
十里は視線を悠に戻して深いため息をついた。
「にしても。いつも何やってんだろな、あれ。」
悠はまだ視線を羽子に向けたままだ。
つられて十里もまた視線を戻してしまう。
これでもう何回目になるのだろうか。
「普通にしてたら可愛いのにああいうことしてるから誰も近寄らないんだよなぁ…」
これまた独り言のように悠が口を開く。
栗色の長い髪が垂れ下がっている為、今はその表情を覗くことは出来ないが羽子は普通にしていれば十分通常より少し上のレベルの顔立ちをしていた。
しかし、休み時間も今の状態でずっといるため彼女に話しかける人物はいなかった。
故に、彼女はいつも一人だった。




