届かぬ想い
「陛下、母上様を信じて下さい。私は知っております。父上様も母上様を本当は信じたいと……」
幼い娘の涙ながらの訴えにじっと耳を傾けていた王はやがて口を開いた。
「予は誰の父親でも夫の君でもない。この国の王だ!」
李梗は、急に夢から覚めたようにハッとなった。
さらに王は李梗をつまみ出せと側近に命じたのだった。王の怒りはとても恐ろしいものだった。側近は、しどろもどろとなり立ちすくんでいる。それを見た王は、手を李梗の首根っこをつかむと王宮殿の外へと出した。
李梗は、あまりの出来事にしばらくぼんやりとしていた。それでも、李梗の頭に水連が浮かんできた。李梗は走った。息が切れて苦しくなり、顔が赤くなっていた。どうしても会わねばならない人がいたからだ。
「姉上様!」
李梗は、ハァ、ハァと荒い息を吐きながら言った。
呼び止められた水蓮は足を止め、李梗を見た。李梗は、水蓮の手をとり、
「姉上様、お願いがございます。どうか、父上に考え直してくださるよう助言して下さい。姉上様の頼みなら父上様も聞いてくれます」
声をからして言った。
水蓮は、李梗の手をはらいのけ、
「気安く、姉上と呼ぶではない」
その声は低く、眼に刺すようなひかりを帯びていた。李梗は、何が起きたのか分からなかった。いつもの人のよさそうな顔が、別人のように鋭い眼つきをしている。
「罪人の子がよく、宮中を出歩けるものだな。王妃が何だ? 自業自得であろう。私には関係のないことだ」
そう吐き捨て、李梗を鼻で笑った。
「行くぞ」
水蓮は、付き添いに言うと自室に戻っていった。李梗は動けず、その場に立ち竦んだ。優しかった水蓮が、王妃を信じてくれなかったことに涙がとまらなかった