優しさへの痛み
李梗は手首につけている鴇色の玉を見つめていた。玉を朱の紐でつないだ腕飾りは王妃がお守りだとくれた。あまりに嬉しそうに玉を見つめるので王妃は、もうひとつ水色の玉を渡した。李梗は驚き、
「いいえっ、ふたつも頂くわけには」
水色の玉を返そうとしたら、王妃が、
「水色の玉には、大切だと想う者に渡すと互いがどんなに遠くにいようと心はつながるという言い伝えがある」
と、李梗の手首をつつみこむようにはめた。水色が窓から射し込む陽のひかりでかがやいた。大切な者が現れたら渡せという意味なのだろうか……、と思った。
王妃の顔を見ると、穏やかに微笑んでいたがどこか物寂しいものがあったのが気になった。
……母上様? なぜそのような顔をなさるのですか。
李梗の胸に一寸の針が刺さったような痛みがした。
王妃の室を出ると空が淡い鴇色に染まっており、玉と同じ色をしている。
王妃の身に何か起きたのではないかと思った。先達ても、何か話すつもりで訪ねたに違いない、でも話さなかったのは事が大きすぎて言えなかったのだと悟った。王妃のことで考えていると宮女が何やら声をひそめて話しているのが見えた。
李梗は目を細め、耳をたてて聞いた途端、李梗の顔から血の気が引き、体が顫えだした
……母上様が側室を殺めた罪により賜死?
李桔梗が考えていた災いより、はるかに大きなものだった。宮女は、ハッと驚いた顔をした。目の前に顔をこわばらせた李梗がいたからだ。
「今の話、詳しく教えなさい」
「ひ、姫様……」
宮女の顔は蒼ざめ、唇や顎の先が小刻みに震え出した。
あたたかな春であったが、やけに風が冷たかった。
その頃、王宮殿に王妃の姿があった。王の室は広大である。玉座には豪奢な金箔が施され豪華絢爛で、王の威厳が見事に玉座に表れている。そこで、王から震撼させられる言葉を言い渡された。
「陛下、今のお言葉とは……」
腹から絞り出すような声だった。
「証拠が出た以上、予は庇いたてることはできぬ。生きて苦痛を味わうより、死をもって楽にしてやろうと言ったのだ」
まさか、王の口から言われるとは信じたくなかった。王妃の顔がゆがみはじめ、着物を握りしめた。
「陛下、どうか私の話をお聞きください。私は、何もしておりませぬ」
と、声を震わせ必死に訴えた。
「私を信じてください。陛下!」
すると、王は激怒し、王妃を部屋に軟禁するように命じた。王妃は床に両手をついて泣き崩れ、幾度も訴えたが、その想いが届くことはなかった。