王妃の隠し事
一口だけ茶を飲んだだけで、室を出て行った。
李梗は何か違和感を覚えた。
……母上様は用があったのでは。
冴のことを訊くためにわざわざ、水蓮の室まで 訪ねるのはおかしい、何か話すべきことがあった はずだと李梗は悟った。
室から出てきた王妃を見た側近は、
「王妃様、姫様は何と仰っておりましたか?」
眉宇を寄せて訊いた。
「言えなかった……」
側近は、ハッと顔を上げ、
「言わなかったとは、何故ですか?」
とおそるおそる訊いた。
「あの子の笑う顔を見たら言おうとした言葉が喉にしまいこんでしまった」
ため息をつくと悲しげな顔をした。
実は、五日前に側室のひとりが亡くなっていた。当初は病死だと思われていたが、調べたとこ側室は食後に急に苦しみ、そのまま息絶えたという。
宮中で、毒殺疑惑がささやかれた。
その、疑いをかけられたのが王妃だった。側室に 嫉妬した王妃が毒殺を企てたと根も葉もない噂が流れ、王の耳にも届きくようになり、王妃に尋問するよ うにと命が下った。
それからと言うもの、尋問される日々が続き、精神的に苦痛を感じていた。
「王妃様……」
側近は涙ぐむような眼で王妃に言った。王妃の慈悲深い心に余計、胸痛みを覚えた。
二
屋根を打つ雨音が聞こえる。朝から雨が、また強くなってきたようである。
狭い室は薄暗く、息が詰まるような大気が澱んでいた。
室には、王妃は椅子にかけて、王妃の目の前に官庁が座っている。
「王妃様、全てをお話するまで我々も新たな手を 打つ覚悟にございます」
官庁は蛇のような眼で王妃を睨んだ。