幻ノ時代
幼い頃、私にはいろんなものが見えていた。
車に並走するオレンジのライオン。私が一人のとき必ず現れる少年。まるで守ってくれているみたいで、心強かった。
しかし、ある日からライオンは失速し、少年は現れることが少なくなっていった。
彼らの存在した記憶が消え去っていくのが怖くて、私は彼らの話を書き留め始めた。大好きだった。失うのは嫌だ。写真には写らない彼ら自体も、少年の語ってくれた物語も。
あの日。
『ごめん、そろそろ時期が迫ってるんだ。でも大丈夫、僕らは傍にいる。いつでも助けてあげるから』
ふいに、彼は優しい声で私に告げて、そのまま去っていった。
あれから十年が経とうとしている今でも、夢の中に彼らが現れては消える。忘れないで、と訴えかけるように。
私はときどき彼らの気配を感じ、振り向く。
見えないが、消えた訳ではない。
私の瞳が、彼らを映さなくなっただけなのだ。