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Say Hello and Make Smile

Say Hallo and Make Smile



ダン ダダンッ


銃声、それから、空薬莢が固いコンクリートに跳ねる音。

飛び交う弾丸の中で、建物の影に隠れながらひとりの男が怒鳴る。


「リヴィー!生きてっか!?」


騒音のなか、その声に青年が答える。


「カーブこそ、大丈夫ですか!?」


ガシャンと、銃弾を装填しながら答えるリヴィーに、カーブは呆れながらも声を張り上げた。


「元はてめぇが悪いんじゃねえか!!」


「まあ、何とかしますから大丈夫ですよ、父さん!」


その自信はどこからくるのかわからないが、リヴィーは悠長に言うと銃を構えて発砲しつつ、カーブが隠れている物陰へと身を移した。リヴィーが放った弾の何発かは、相手に当たったようで、うめき声が聞こえてくる。カーブの隣に腰を下ろして、リヴィーは一息ついた。


「本当に人気者ですね、カーブ」


「野郎に人気でも嬉しかねえよ」


数人戦闘不能になったとはいえ、まだ発砲音は止まない。うんざりしたような表情のカーブが、愛銃『ペトルーシュカ』の金属面を撫でる。その光景を見て、リヴィーが言う。


「まんまと騙されちゃいましたね」


「……上手い話にゃ裏があるってか」


依頼の件で待ち合わせ場に来た途端、包囲された。

万一の時のための弾避け場所はしっかり確保していたためまだ無事だが、先程から銃声が徐々に間合いを詰めている所を見ると、籠城することもできないらしい。


「カーブの旦那ぁ、金に釣られるくらいじゃ旦那もまだまだじゃないですかあ」


電話の時の性悪な声が、今度は生で響く。


「旦那の技術者としての腕をボスに提供するってんなら、飼い慣らしてあげてもいいですよお」


何なら夜の相手もしたげましょうかぁ?くくく、と笑う気色の悪い声に鳥肌が立つ。こんな奴のボスなど、ロクなもんじゃないだろう。奴が仲介の依頼は幾度も受けたが、引き抜きのためにこの場へおびき寄せられる日が来ようとは。


「出てこないなら、麻酔銃でブスッと眠ってもらうってのもいいなあ」


よかねえよ!背筋を悪寒が走り抜ける。

隣に座るリヴィーも、流石に申し訳なさそうな顔をしていた。


「早くしてくれませんかねえカーブ。時間が惜しいんですよ」


奴がそう言った瞬間、表情を冷たく変えてリヴィーが影から飛び出した。


ダダン ダンッ!


左手にハンドガン『クライシス』を、右手にマシンガン『サクリファイス』を構えて放つ。

技術者カーブがアップグレードを加えたその銃は、信じられないほどの破壊力を持った。

発砲音と同時に倒れて行く敵を、カーブは少しばかり憐れんだ。どの敵も皆急所を外れ致命傷には至っていないが、相当痛がっている所を見ると所謂

「痛いけど死ねない」

場所なのだろう。


「怯むなよお前ら!所詮は人間だ」


性悪に響くネチネチした声が、途端に焦りの色を浮かべたものに変わる。

カーブはその声音になんとなく、心の中でガッツポーズをした。だって、負け犬の台詞だろ、それ。


「くっ……アレを使ってやる」


銃声が落ち着き始め、リヴィーが弾丸を装填するためその身を柱の陰に隠した時、狂気をはらんだ声が響いた。


「大人しく従わなかったことを後悔させてやる!カーブ!」


ビリビリと空気が震える。耳障りな声にうんざりしながら、カーブは悲しいねぇと呟いた。


またひとつ しかばねが ふえる


カーブは左手にペトルーシュカを構えつつ、そうっとアレ、と呼ばれたものを盗み見た。

黒い布に包まれた何か。

そういえば隅っこの方にあったけど、あれ秘密兵器だったんだ。と妙なところに感心しながら、カーブは右手にはめられた革手袋を外した。

その様子を見た途端、リヴィーが顔色を険しいものに変えた。


「カーブ、まさか……」


カーブの方は至って余裕で、まるで『俺に任せろ』と語るような笑みを湛えていた。

手袋が外された右手は一見何でもない。

手のひらから甲にかけて、銃弾が貫通した古い傷跡があるものの他におかしなところはない、カーブの右手。


「推測だがおそらく……そうだろうよ」


カーブの視線は、まるで獲物を品定めするかのように、黒い布に包まれた何かにそそがれている。

ゆっくりと、男が布の端に手をかけそれを解き放った。

現れたのは、黒髪、黒服、黒目の人間……それにしては生気がなかった。

カーブの瞳が、戦慄で揺れた。


「ビンゴ……!」


漆黒に包まれたそれ。


「……援護します。任せて下さい」


「……ああ、頼む。」


それの名前を、技術者カーブは知っている。


「殺人機械《キリング‐ドール》だ……くくく…さあ、働いてもらおうか?」


男がいやらしい声で、無表情の機械の体に命令する。


「若い男は殺せ。ヒゲのおっさんは動けないように痛めつけろ。骨の1、2本折れたって構わない」


ふざけやがる。その言葉を飲み込んで、カーブはもの影から躍り出た。ゆらり。と揺れる機械の体が、カーブに向かう。カーブはそれと対峙し、ニヒルに笑った。


「機械に勝てると思っているのか、カーブ。可愛いところもあるもんだなあ?……やっちまえ。」


途端、機械の体が突進してきた。機械は右手を振り上げ、同時に左手を突き出す。左手の先端の刃物をペトルーシュカで受け止める。


ダァン!!


銃声が響き機械の右手が弾かれた。


「サンキュー、リヴィー」


そして、カーブの右手が、機械の無表情な顔をがしりと掴んだ。途端にバチン!といった音がして、機械の体が崩れ落ちた。

男はそれを、唖然として見ていた。

ざまみろ。

カーブは心の中で再びガッツポーズした。


「な……んで」


「俺に機械は通用しねえよ?金属や機械に対して放電する体質でね。」


「カーブ、そろそろそこの気色悪い男、撃っていいかな?」


リヴィーの目に剣呑な光が宿る。男は死の恐怖に喉をひきつらせ叫んだ。


「くっ…来るなあ!!おいっ!死に神!俺を助けろ!」


男は必死に動かない機械を呼んだ。

……死に神という言葉が妙に引っかかったが、カーブはとりあえず、ペトルーシュカの銃口を男に向けた。


「お前のボスが誰だかは知らねえが、会ったら宜しく言っとくぜ」


安心して逝きな。

カーブは引き金に手をかけ、撃った――はずだった。

銃は、鉛玉を放つことはなかった。

カシャン。とペトルーシュカが床に落ちて乾いた音を立てる。カーブは唖然として自身の左手がいつの間にか握られている現状を見ていた。


「死に神!さっき倒れたのは芝居のつもりか!余計な事を!」


男がわめき散らす。

リヴィーも男に照準を合わせたまま固まっている。

……確かに、放電した。火花が散るほどのフラッシュも見えた。

だが、機械は今ここに立っている。


「まあいい、よくやった。そいつを縛り上げておけ!」


「……い……な。」


機械がぼそっとしゃべって、カーブは手を掴まれたままの状態でまた驚いた。

普通、機械は自ら喋ることはない。プログラムされたこと以外で言葉を発することはない。

殺人機械ならばなおさらそうだろう。

しかし、カーブにしか聞こえないようにぼそりと機械は呟いたのだ。

殺人機械とはいえ、機械にはないはずの殺気を、男に向けながら。


『私に命令するな』


と。

そして、カーブの掴んだ手はそのままの体勢で耳元に口を近付け、囁いた。


『マスターが直接手を下すまでもない―――私がやります』


――…マスター?

その口調に、カーブは懐かしくも忌々しい過去を思い出しておののいた。


「マスターってどういう……」


「おい!聞こえないのか!とっとと縛り上げ……」


男の声はそこで止まった。

カーブの左手を離し、そして床に落ちたペトルーシュカを拾い上げ、男に照準を合わせた。


「な…に……考えてやがる」


機械なんだから考えられるわきゃねえだろ。とも思えない殺人機械の行動に、カーブは驚いていた。


「私に命令していいのはマスターだけだ」


冷たく言い放った機械が、引き金を、

引いた。

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