the Flower Blooms on Corpse
the Flower Blooms on Corpse
ジリリリリ‥‥‥
壁に引っ付いている旧型の電話が、受話器を早く取れとけたたましく催促する。
部屋の主は起き抜けの眼をこすり欠伸をしてから、鳴り響く電話をやっと視界に入れた。
そのベッドの上から立ち上がる気はさらさら無いらしく、足を組みながらベッドサイドでくしゃくしゃになっているタバコを取り出して火を付けた。
ジリリリリ‥‥‥
まだ鳴ってやがる。
と、カーブはひとりごちる。
仕方なさそうに、鳴り止む気配のない電話を止めようとベッドを降りた時、不意に部屋とリビングを繋ぐ扉が開いた。
「カーブ!なんで出ないんですか!?」
けたたましい呼び鈴に負けないくらいのけたたましい声で、左目を眼帯で覆った青年が入ってきた。
青年――リヴィーは、鳴り響く機械の受話器に手を掛けた。
「はいリヴィーです」
毅然とした声で応えたリヴィーにカーブは消沈して、今日は休みだってのにと、力無く呟く。
『おう若僧。本人はどうした、くたばったか?』
「いいえ、残念ながら」
「てめ残念ってどういうこった!」
大声で怒鳴るカーブは、その声が受話器まで届いたことに気付き、己の短気を少し悔やんだ。
『なんだ元気じゃねえか、電話出ろよ』
目論みが成功して、ニヤニヤ笑うリヴィーがしゃくに障るが、カーブは仕方なしに受話器を受け取った。起き抜けで下半身はジーンズ、上半身には何も身に着けていないため、肌寒いのかカーブは身震いする。
「休業日だバカ」
カーブは至極不機嫌そうに寝起きの掠れた声で凄む。対して、受話器の向こうの男は飄々として応える。
『そう言わずに、依頼だぜぇ依頼』
「断る」
カーブが苛ついた口調で言うと、すかさず男が答えた。
『前金で500だ』
その言葉に、カーブが凍りつく。
500という金額は、このご時世で庶民が手にできる金額ではない。
「ほお…随分太っ腹だなおい」
『信頼してるんでね、カーブ。アンタを金で買えるなら幾らでも積むやつがゴマンといるんだぜ』
「はっ、酔狂なこった」
電話の向こう、男がせせら笑う声が聞こえる。
カーブはその声を聞きながら、金で動こうとしている己を笑った。
『で、どうする?』
「チッ……休業日だっつうのに面倒事持って来やがって……用件は何だ」
『何時もの場所で話そう』
苦々しい承諾の返事に対して、男は加虐的に笑う。
『くくく…嬉しいよカーブ。これで愛銃のアップグレードができるなあ?』
んなことまで知ってやがるかと、カーブは心の中で呟いた。そろそろアップグレードしたいと思っていたが、これまで読まれると気味が悪い。人気者はこれだから困るねと苦笑して、カーブは性悪な仲介屋の声を断ち切った。
「……クソ馬鹿息子が、面倒事掘り出しやがって」
「カーブの腕が鈍らないように仕事入れてあげてんのさ」
「余計だバァカ」
ひどいよ父さん!と大袈裟に振る舞うリヴィーを無視して、いつもの作業着に着替えはじめる。
タバコの吸い殻を灰皿に押し付けて、カーブはリヴィーをどつきながら、今日初めての外の空気を吸い込んだ。
硝煙や排気ガスで茶色く曇った空は重く、行く人々に覆い被さっていた。
カーブがバイクに跨り、その後ろにリヴィーが乗る。
「嫌な空だね」
「いつもの空だろ」
カーブは滑るように、廃れた町へと駆けていった。