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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

『ふたりの場所』

作者: 鳥魔莉沙
掲載日:2026/01/04

松崎リオンは、砂場が好きだった。


公園の端にある、小さな砂場。

ブランコも滑り台もあるのに、リオンはそこへ行かない。

順番を待つのが嫌だった。うるさいのも嫌だった。


砂場だけは違う。

誰にも邪魔されず、誰にも壊されない世界を、自分の手で作れる。


しゃがみ込み、両手で砂を掘る。

乾いた砂が指の間から落ちる音が、静かに耳に残る。


今日は、トンネルを作る。


山を作り、真ん中を少しずつ削る。

崩れたら、また最初から。それでもいい。


一人の時間は、安心できた。


「……よし」


指を差し入れると、向こう側に光が見えた。


成功。


「わぁ!」


突然、声が落ちてきた。


肩が跳ね、リオンは反射的に砂山をかばう。


「すごいね! トンネル?」


同じくらいの年の男の子が、目を輝かせて立っていた。

後ろには、穏やかな大人が二人。


リオンは黙った。


知らない人。

砂場を壊すかもしれない人。


男の子は気にせず、しゃがみ込んだ。


「反対からも見せて!」


「……だめ」


「え?」


「……壊れるから」


一瞬きょとんとしたあと、男の子は笑った。


「そっか! じゃあ壊れないように見る!」


距離を取る。

触らない。踏まない。入ってこない。


……変な子。


「リオンちゃん、上手だね」


後ろの女性が言った。


「……リオンちゃんじゃない」


「え?」


「リオンは、リオン」


小さく、でもはっきり言う。


男の子が目を輝かせた。


「じゃあリオン! 僕は未白!」


まっすぐで、疑いのない声だった。


それから二人は並んで砂を触った。

未白は、真剣に話を聞いた。


「すごいね! 天才!」


「……天才じゃない」


「じゃあ、すごい人!」


リオンは、ほんの一瞬だけ笑った。


気づかれないように。


夕方。


「また遊んでいい?」


「……別に」


「やった! 今日から友達だね!」


返事はしなかった。

でも、胸の奥で何かが小さく鳴った。


次の日、学校でまた会った。


同じ制服、同じ一年生。


それから、砂場は二人の場所になった。


トンネルは長くなり、世界は少し広がった。


このときすでに、リオンは気づいていなかった。

――未白は、自分を必要としている。

そう思い始めていたことに。


三年生の運動会の日。


赤団。

未白と同じ。


それだけで、胸が熱くなった。


未白が走れば心臓が跳ね、

笑えば世界が明るくなる。


昼休み。

未白は友達に囲まれていた。


リオンは、少し離れた場所から見ていた。


違う。

一緒のはずなのに。


気づいてほしくて、ジャングルジムに登った。


「リオン、なにしてるの?」


振り向いた瞬間、足が滑った。


鈍い衝撃。

右腕に走る、強烈な痛み。


目を覚ましたとき、天井は白かった。


骨折。入院。


母は来なかった。


未白だけが、毎日来た。


「寂しかった」


その一言で、痛みが和らいだ。


退院後、母は苛立っていた。


「なんで怪我なんてしたの!」


言葉が刺さる。


夜、布団の中でリオンは丸くなった。


次の日、未白が来た。

何も聞かず、隣に座った。


それだけで、救われた。


それから、離れるのが怖くなった。


未白がいないと、息ができない。


六年生。


「中学、受験するんだ」


遠い、という言葉が刺さった。


「……一緒じゃなきゃ、やだ」


「じゃあ一緒に行こう!」


その言葉で、火が灯った。


勉強の日々。

同じ机、同じ未来。


合格。


でも、母は怒った。


手が出るようになった。


ある夜、家を追い出された。


雨の中、未白の家へ。


その夜、大人たちが話し、母は捕まった。


「施設に行ってもらいます」


未白が手を掴んだ。


「連れてかないで!」


「リオンは、僕の家族です!」


こうして、リオンは未白の家で暮らすことになった。


同じ屋根の下。


離れない、と誓った。


中学。


未白は野球部に入り、世界を広げていく。


リオンは、待つ時間が増えた。


ある日、ノートを買った。


未白の一日を書くための。


誰と、どれくらい、どんな顔で。


書いていない日は、一日もなかった。


これは管理じゃない。

守っているだけ。


そう信じていた。


卒業。


後輩に囲まれる未白。


「デート、行こ」


強い声で言った。


「いいよ」


その一言で、安心した。


「高校も一緒だよね」


「離れないよ」


それでよかった。


高校入学式の日。


人の波の中で、声がした。


「未白くん、おひさ」


振り向くと、野球部のジャージを羽織った女の人。


榎本楓。


未白は笑った。


「久しぶりです」


リオンは、未白の手を強く握った。


楓は一瞬だけそれを見て、何も言わずに去った。


胸の奥に、小さなざらつきが残る。


この再会が、

世界の形を変え始めたことを、

リオンはまだ知らない。


砂場のように。

気づかないうちに、誰かの手で。

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