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取調室には未来警察のロボットはいなかった。どこかへ行っているのだとすれば、まだまだおれにはツキがある。ただ、そのツキも危ういものだ。もう一人のおれはすっかり憔悴しきっていたからだ。
「待たせたな」
「おれはもう、死刑になるものと覚悟を決めていたんだ」
「安心しろ。すべて解決されるはずだ。まずはここを抜け出そう。おまえも光になれ」
「えッ、そんなこと、できないよ」
「じゃあ、おれと同化しろ。元はといえば、同じ一匹の猿だったんだ。できないわけがない」
「どうすればいいのさ」
「おれが光になっておまえの眼球から侵入する。時間がない。いくぞ」
おれはもう一人のおれの目玉に飛びこんだ。その瞬間、一人に戻ったおれの身体が輝きを放った。まさに一心同体となったおれは光と化して取調室の窓を抜けた。
それからは電光石火の勢いだ。
世界中にある製薬工場をフル稼働させて回った。操業はすべておれ一人でこなした。完成した抗ウイルス薬は、それぞれの地域で、近くにいる人から順番に投与していった。いつしか滝田の番も回ってきて、症状は目覚ましいほどに改善され、普通に読み書きができるまでになった。
全世界の人類への投与が完了すると、晴れて滝田とおれは再会し、喜びあった。だが、再会もつかの間だった。過労がたたったらしいのだ。おれは軽いめまいを覚えつつ、どこへゆくのかと問う滝田にもかまわずに、滝田の家をあとにしたのだ。おれは自身のなかで、もう一人のおれと語り合った。
――なあ、これからどこへゆく。
――そうだなあ。少しだけ垣間見た未知なる世界をもう少し、探検してみたいものだな。
――それはもう、無理じゃないか。
――なぜだい。
――あれから、おれたちの知能はどんどん低下している。
――そのようだな。
――もう、ファンタジーを使うこともできないだろう。
――そうだな。ちょっと残念だけど。
――おれの意識もだいぶ、薄れてきた。
――おまえもか。おれもだよ。
――ああ、おれたち猿に戻るのかなあ。
――わからない。あるいは寿命なのかもしれない。
――そういやあ、おれたち、タイムマシンに乗ったことがなかったな。
――ああ、本当だ。でももう、いいだろう。
――それもそうだな。おれたちの頭脳はもう……
――おれたちの、おれの頭脳はもう……
――やっぱり、猿に。
――戻るのか。
――そうだ。
――ああ。
――…………
――…………




