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それから一時間は経ったであろう。今、おれは紙飛行機に乗ってハワイを目指しているわけだが、彼の地ハワイではきっと、乗り放題のタイムマシンが、今か今かとおれの到着を待ちわびているはずなのだ。すでにおれは海の上を飛んでいた。これが噂に聞いた太平洋か、などと独りごちていると、
「そこの紙飛行機、止まりなさい! SF基準法違反で逮捕する!」
という大声とともに、背後からものすごい勢いで近づく影があった。振り向くとあら不思議、パトカーがサイレンをけたたましく鳴らしながら空を飛んでくるではないか。おれは瞬時に判断した。
「未来警察だな。捕まってたまるかッてんだ」
ここでまたおれは疑問を感じた。どうして未来警察なる言葉がでてきたのか。おれは二、三回かぶりを振ると、疑問を頭から払い落とし、紙飛行機のアクセルをぐッと踏みこんで限界まで加速、クラッチを切ってトップギアに入れてから、再度、アクセルを踏みこんだ。目の前の景色が前方に収束しはじめる。相対性理論でなければ推し量れないレベルまで加速しているのだ。……その前方に現れた光点に向かって、おれは紙飛行機の加速を続ける。光速度不変の法則が頭をよぎったそのときだった。歴史に名だたる科学者たちが見出した物理法則を裏切る出来事が現れたのだ。
現れた……その言い方は正しかった。おれの目の前には後光をまとった神が、あたりに天使を引き連れて現れたのだ。光速度に達するまであと少し、という状況のなか、おれは訊いた。
「あなたは、神さまですか」
「いかにも。この先へいってはなりません。これ以上加速を続けるならば、あなたは未知なる世界へゆくことになります。それでもいいのですか」
「かまわないさ。未来警察に捕まるくらいなら、どこへでもいってやる」
「よろしい。では、好きになさい」
直後、神と天使の姿が消えて、目の前には光の一点があるのみとなった。おれの乗る紙飛行機はその一点へ向けて、収縮をはじめた。
不思議な感覚がおれを支配していた。紙飛行機とともにおれもまた収縮しているはずなのに、それを見つめる第二のおれがいるのだ。不意に頭をよぎったのはドッペルゲンガーという言葉だ。おれはおれ自身の幻覚を見ているのか、あるいは本当に分身してしまったのか。
答えは直後にわかった。おれの片割れは未来警察に追いつかれて捕縛されたが、そのおれの視界に、光のなかへ消えてゆく紙飛行機に乗ったもう一人のおれが、たしかに映し出されていたのだ。もう一人のおれは光点のなかへ消える寸前、振り向いてこう言った。正確には、そいつの心が伝わってきた、と言ったほうがわかりやすいだろう。
「おい、おまえ。あとはこの革命児・光の狂吉さまに任せろ」
それだけ言い残して、もう一人のおれは消えた。




