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塔に監禁され、婚約破棄された『呪われ令嬢』ですが、 最強の将軍に過保護すぎるほど激甘に溺愛されて毎日が大変です  作者: 風間 華


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第7話「魔力制御の訓練」

 翌朝。

 私は、カインさんに連れられて訓練場に来ていた。

 

 わあ…。

 広い。

 めっちゃ広い。

 

 兵士さんたちが、剣を振り回したり、走り回ったり、

 わいわいきゃあきゃあしてる。

 なんか、活気があっていいな。

 見てるだけで元気になる。


「エリシア」

 カインさんが、じっと私を見た。

 真剣な顔。


「今日から、お前の魔力制御の訓練を始める」


「は、はい…!」

 こくこくこくこく頷いた。

 勢いよく。

 でも、正直言うと、めっちゃ不安。

 私にできるのかな…。できなかったらどうしよう。失敗したら迷惑かけちゃう。


「あの…私、ちゃんとできるでしょうか…」


 おずおずと聞いてみた。多分、顔が不安でいっぱいになってる。


「大丈夫だ」

 カインさんが、ばしっときっぱり言った。

「俺が付いている。恐れるな」


 その言葉が、すとんと胸に響いた。

 あ、そっか。カインさんが付いててくれるんだ。

 なら、大丈夫かも。うん、きっと大丈夫。


「では、始めよう」

 カインさんが、訓練場の端っこの静かな場所に案内してくれた。

 他の兵士さんたちから離れてる。

 気を使ってくれたのかな。


「まず、座れ」


「はい」

 ぺたんと座った。

 地面、ちょっと硬い。お尻が痛くなりそう。でも我慢我慢。


「目を閉じろ」

 言われた通り、ぎゅっと目を閉じた。


「深く息を吸え」

 すー。

 空気が、肺にいっぱい入ってくる。ちょっと冷たい。朝の空気だ。


「ゆっくり吐け」

 はぁー。

 息を吐くと、ちょっと落ち着いた。


「自分の中にある魔力を感じろ」


 魔力…?

 どこにあるんだろう。全然わからない。

 じーっと集中してみた。

 自分の中…自分の中…。


 ん〜っと。。

 あ。

 何か、感じる。

 体の中心あたり。おへその下くらい?

 温かくて、ふわふわしてる感じ。

 綿菓子みたい。


「これ…魔力…ですか…?」

 恐る恐る聞いてみた。


「ああ」

 カインさんの声が、優しくふわっと響いた。

「それがお前の魔力だ」


 わあ…!

 初めて感じた!私の魔力!

 すごい、本当にあるんだ!


「次は、その魔力を少しずつ流してみろ」


 流す…?

 え、どうやって…?

 えっと…。

 うーん…。

 わかんない。全然わかんない。

「あの…どうやって流すんですか…?」


「イメージしろ。魔力が、体の中をゆっくりと巡っていくのを」


 イメージ…。

 えっと…。

 魔力が、ふわーっと流れていく感じ…かな…?

 ふわー。

 ふわふわー。

 お水が流れるみたいに…。


 ぽ、ぽ、ぽ。

 ぽわん。

 体が、じんわり温かくなった。

 わあ、なんか変な感じ!

「あ…!」


「よくやった」

 カインさんの声が、ちょっと嬉しそうだった。

 え、カインさん嬉しそう?私も嬉しいな。


「上手くできてる」

 本当!?

 やったああ!

 私、できたんだ!すごい!



 その時だった。

「将軍ー!」

 レオンさんの、明るい声が響いた。

 この人、いつも元気だな。

 

 振り向くと、レオンさんがにこにこしながらすたすた近づいてきた。

「訓練の様子を見に…って、わあ」


 レオンさんが、私たちを見てぴたっと止まった。

 目が、まん丸になってる。

「将軍、すごく優しい顔してますね」


 え、そうなの?


「…………」

 カインさんが、石みたいに固まった。


「いつもは鬼みたいな顔で兵士たちを鍛えてるのに」

 レオンさんが、にやにやにや。

 なんか、すごく楽しそう。


「エリシアさんには、優しすぎませんか?」


「レオン」

 カインさんの声が、ぐっと低くなった。

 ちょっと怖い声。地鳴りみたい。

「……黙れ」


「はいはい」

 レオンさんは、全然怖がってない。

 むしろ、もーっとにやにやしてる。

 この人、怖いもの知らずなのかな。


「でも、将軍がこんなに優しくしてるの、初めて見ましたよ。歴史的瞬間です」


「…………うるさい」

 カインさんの顔が、ちょっと赤い。


 あれ、照れてる…?

 わあ、可愛い。意外と可愛い一面あるんだな。


「それでは、お邪魔しました」

 レオンさんが、ひらひら手を振って去っていった。

 なんだったんだろう、あの人。



 訓練を再開した。

「次は、魔力をもっと強く流してみろ」

 カインさんが言った。

「ただし、一気に流すな。少しずつだ」


「はい」

 また目を閉じて、ぎゅっと集中した。

 魔力を感じる。

 ああ、ある。温かい。ふわふわしてる。

 これを、もっと強く…。

 えいっと意識を集中させた。


 くっと集中できたと思ったら、

 ぽわああああん!って、

 魔力が、ぶわあっと広がった。

 

 すごい!なんか、体中に広がってる!

「できました…!」

 思わずぱっと目を開けた。

 

 わあ。

 私の周りに、淡い光がふわふわ漂ってる。

 きらきらしてて、綺麗だな。


「素晴らしい」

 カインさんが、すごく嬉しそうに言った。

 カインさんの顔、ちょっと笑ってる。

「初めてにしては、上出来だ」


「本当ですか!?」

 わあ、嬉しい!めっちゃ嬉しい!

 私、できたんだ!やった!


「あの、カインさん!見てください!

 光ってます!きらきらしてます!」

 興奮しちゃって、ぴょんぴょん跳ねちゃった。

 子供みたいだけど、嬉しくて止まらない。

 

 カインさんが、ふっと笑った。

 優しい笑顔。すごく優しい。

 そして——。

 ぽん。

 私の頭に、大きな手が乗った。

「よく頑張ったな」

 優しく撫でてくれる。

 

 わあ…。

 温かい…。

 大きな手。ごつごつしてるけど、優しい。

 優しい声。低いけど、温かい。

 なんだか、胸がぽかぽかする。

 ドキドキする。

 この感じ、何だろう。

 心臓が、ばくばく言ってる。

 不思議だな。

 病気かな。

 でも、嫌な感じじゃない。


 

 訓練が終わった後、

 カインさんが、水筒を持ってきてくれた。

「飲め」


「ありがとうございます」

 ごくごくごくごく飲んだ。

 美味しい。冷たくて、気持ちいい。


「あの、カインさん」


「ん?」


「私、ずっとここにいるわけにはいかないですよね」

 ぽつりと言っちゃった。

 ずっと考えてたこと。


 カインさんが、ぴたっと動きを止めた。

 固まった。

「…………どういう意味だ」

 声が、ちょっと低い。


「だって、カインさんにお世話になりっぱなしってわけにはいかないですもん」

 私は、もじもじしながら言った。

「訓練が終わったら、自分で生活できるようにならないと」

 ずっと甘えてるわけにはいかないもん。


「エリシア」

 カインさんの声が、ぐっと低くなった。

 なんか、怖い。

「お前は、出て行くつもりなのか?」


「え…だって…」

 私は、首を傾げた。

「迷惑じゃないですか?」


「迷惑…?」

 カインさんの顔が、みるみる険しくなった。

 瞳が、ぎらりと赤く光る。

 わあ、すごく怒ってる。

「俺が、お前を迷惑だと言ったか?」


「い、いえ…でも…」

 びくっとしちゃった。


「お前は、ここにいていい」

 カインさんが、ばしっときっぱり言った。

「いや、いろ」


 え。

 いろ…?

 命令…?

「で、でも…」


「お前には、まだ訓練が必要だ」

 カインさんが続けた。

 早口。ちょっと焦ってる…?

「それに、お前が一人で外に出たら危険だ」


 そっか…。

 確かに、13年も幽閉されてたから、外の世界のこと何も知らない…。

 怖いな。


「リュミエール王国は、お前の力を狙っている気がするんだ」

 カインさんの声が、厳しい。

「お前を守れるのは、ここしかない」

「…………」

 そうなのかな?呪いの力以上の力を知ってるのかな?

 リュミエール王国に戻されるのは嫌だ。

 でも、カインさんに頼りっぱなしは、なんか悪い気がする。

 申し訳ないっていうか。


「あの…じゃあ、せめて何かお手伝いさせてください」


「手伝い?」


「はい。ご飯作りとか、掃除とか」

 私は、にっこり笑った。

 これなら、少しは役に立てるかも。

「ずっとお世話になるだけじゃ、申し訳ないですから」


 カインさんが、困ったような顔をした。

 眉間にしわが寄ってる。

「…………お前は」

 ふう、とため息をついた。

「本当に、世話が焼ける」


 でも、その顔は優しかった。

 ちょっと笑ってる。

「分かった。できる範囲で、手伝ってもらおう」


「やったあ!」

 私は、ぱあっと顔を明るくした。

「頑張ります!絶対頑張ります!」

 よし、これで少しは恩返しできる。


ーー

 その日の午後、

 私は、図書室でのんびり本を読んでいた。

 魔力についての本。

 難しい言葉がいっぱいだけど、面白い。

 へえ、魔力ってこういう仕組みなんだ。

 

 こんこん。

 ノックの音がした。

「どうぞ」

 がちゃ。

 扉が開いて、ミラちゃんがにこにこしながら入ってきた。


「エリシア様、おやつの時間ですよ」

「わあ、ありがとう」

 ミラちゃんが、おやつを持ってきてくれた。

 お茶とクッキー。わあ、美味しそう。

 

 一緒に座って、お茶を飲む。

 ふう。落ち着く。


「ミラちゃん」


「はい?」


「カインさんって、いつもあんな感じなんですか?」

 聞いてみた。

 気になってたんだ。


 ミラちゃんが、くすっと笑った。

「どんな感じですか?」


「えっと…訓練を教えてくれたり、優しく頭を撫でてくれたり…」


「ああ」

 ミラちゃんが、目を丸くした。

「それは…エリシア様だけですね」


 え。

「普段の将軍様は、すごく厳しいんですよ」

 ミラちゃんが、こそこそ説明してくれた。

「兵士たちには容赦ないですし、敵には冷酷ですし」


 え、そうなの…?

 カインさん、そんな怖い人なの…?


「でも、エリシア様には、違うみたいですね」

 ミラちゃんが、きらきらした目でにこにこ笑った。

「すごく…大切にされてるんだと思います」


「え…そうなんですか…?」

 きょとんとした。

 よくわかんない。


「はい」

 ミラちゃんが、うんうん頷いた。

「将軍様の目、エリシア様を見る時、いつもと全然違うんです」

 

 そうなのかな…。

 父様に優しくしてもらったことがないからか、

 カインさんに優しくしてもらうと、

 すごく嬉しいんだよな。

 大切にしてもらえてるなら、すごく嬉しい。


ーー

 夜、

 私は、ベッドでごろんと横になっていた。


 今日も、色んなことがあった。

 魔力制御の訓練。初めて、自分の魔力を感じられた。

 カインさんが、褒めてくれた。頭を撫でてくれた。


 あの時の感覚を思い出すと、胸がどきどきする。

 不思議だな。

 なんでだろう。

 カインさんといると、安心する。

 温かい気持ちになる。

 守られてる感じがする。

 この気持ち、何だろう。

 

 よく分からないけど…でも、悪くない。

 むしろ、好き。

 カインさん、ありがとう。

 心の中で、ぎゅっと呟いた。


ーー

 その頃。

 カインは、執務室でうんざりするほどの書類を片付けていた。


「将軍」

 レオンがにやにやしながら入ってきた。

「エリシアさん、もう寝たみたいですよ」


「そうか」

 カインは、ぼそっと短く答えた。

 ペンを走らせながら。


「しかし、驚きましたねえ」

 レオンが、わざとらしく言った。


「まさか、エリシアさんが『出て行く』なんて言い出すとは」


「…………」

 カインの手が、ぴたっと止まった。

 あの時、エリシアが「ここにいるわけにはいかない」と言った瞬間。

 カインの胸が、ぎゅうっと締め付けられた。

 行かせない。

 絶対に、手放さない。

 そう思った。

 強く、強く思った。


「将軍、完全に恋してますよ」

 レオンが、くすくすくすって笑った。


「黙れ」

 カインは、ぷいっとそっぽを向いた。

 でも、否定はしなかった。できなかった。


「エリシアさん、全然気づいてないみたいですけどねえ」

「…………分かっている」

 カインは、ふう、と小さく息を吐いた。


 エリシアは、純粋で無邪気だ。

 十三年間、幽閉されていたせいで、恋愛のことなんて何も知らない。

 だから、カインの気持ちにも全く気づかない。

 鈍感すぎる。


 でも——。

 それでいい。今は、それでいい。

 今は、エリシアが笑っていてくれれば。

 エリシアが、安心して過ごしてくれれば。

 それだけで、いい。十分だ。


ーー

 翌朝。

 カインが執務室でぼーっと書類を見ていると、見張りががたんと扉を開けて駆け込んできた。


「将軍!大変です!」


「どうした」

 カインが、ぴしゃりと冷たく言った。


「リュミエール王国からの使者が!」

 カインの目が、ぎらりと鋭くなった。


「…………来たか」

 ついに、リュミエールが動いた。

 エリシアを、取り戻しに。

 絶対に、渡さない。


「使者を謁見の間へ。すぐに向かう」


「はっ!」

 見張りが、ばたばた走っていった。


 カインは、ゆっくりと立ち上がった。

 エリシアは、絶対に渡さない。

 誰にも、渡さない。

 あの笑顔を、守る。

 その決意を胸に、カインは謁見の間へ向かった。


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