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塔に監禁され、婚約破棄された『呪われ令嬢』ですが、 最強の将軍に過保護すぎるほど激甘に溺愛されて毎日が大変です  作者: 風間 華


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第4話「呪い解呪の儀式」

 三日後。

 

 あれからすぐに、約束の日が来ちゃった。

 

 私は、離れの塔で父様と継母様を待っていた。

 

 窓の外を見ると、空が少しずつ暗くなってきてる。

 夕方かあ。綺麗な色。オレンジと紫が混ざってる。

 

 でも、なんだか不安。

 胸の奥が、もやもやする。


「エリシア」

 扉が開いて、父様と継母様が入ってきた。


「準備はできているな」

 父様の声は、いつも通り冷たい。


「あの…本当に、呪いを消せるんですか…?」

 おずおずと聞いてみた。


「ああ。古代の魔術師が遺した儀式だ。確実に効果がある」

 父様が、きっぱり言った。

 そっか…本当に消えるんだ、私の呪い…。


「成功したら」

 継母様が、ふっと微笑んだ。

「あなたを修道院に入れてあげるわ」


 え。


「修道院…ですか…?」


「ええ。静かな場所で、残りの人生を過ごせるわ」

 継母様の笑顔は、優しそうに見えた。


 でも、なんだか冷たい。

 修道院か…。

 静かそうだな。今より、もっと静かかな。


「それが、お前にとって一番いい」

 父様が言った。


「呪いさえなくなれば、誰も恐れることはない。平和に暮らせる」


 そっか…。

 確かに、そうだよね。

 呪いがなくなれば、誰も私を怖がらない。

 でも——。

 修道院に入ったら、もう外には出られないよね。

 ずっと、一人なのかな。

 それって…今と、あんまり変わらない…?

 呪いがなくなっても、私は家族とは暮らせないんだ。


「さあ、行くぞ」

 父様が、さっさと歩き出した。


 私は、こくんと頷いて、後に続いた。

 他に選択肢なんて、ないもんね。


 ーーー

 一ヶ月前。


 煌びやかな部屋で、

 リリアーナは、鏡の前で髪を梳かしていた。

 金色の髪が、きらきら光る。


「ふふ…」

 リリアーナは、満足そうに微笑んだ。

 アルフレッド殿下との婚約。

 順調に進んでいる。


 でも気になることがある。

「お姉様の呪い…」

 

 リリアーナは、机の上にある古い本を見た。

 ルヴェリアス家の古文書。

 こっそり書庫から持ち出したもの。

 

 ページを開く。

『ルヴェリアス家の聖女は、代々特別な力を持つ』

『心を癒す力』

『肉体だけでなく、心の傷をも治す、聖域級の治癒能力』


 リリアーナの目が、きらりと光った。

「お姉様は本当に…呪われているのかしら?」

 ぽつりと呟く。

 

 もし、あれが呪いじゃなくて——。

 もし、あれは本当は聖女の力だったら?


「欲しい…」

 リリアーナの唇が、ゆっくりと歪んだ。

「お姉様の力…私が欲しい」

 

 その夜、リリアーナは密かに屋敷を抜け出した。

 向かうのは、街の裏路地。

 怪しげな魔術師が集まる場所へ、リリアーナは一人で向かった。


「来たか、令嬢様」

 黒いローブを纏った男が、にやりと笑った。


 闇の魔術師。

 禁術を扱う、危険な存在として密かに知られている。


「話は聞いている。力を奪う儀式、だったな?」


「ええ」

 リリアーナは、冷たく微笑んだ。

「姉の力を、私に移す儀式。できるかしら?」


「できるとも」

 魔術師が、古い羊皮紙を広げた。

 そこには、複雑な魔法陣が描かれている。


「ただし、対象は生きたままではいられん」


「構わないわ」

 リリアーナは、即答した。

「お姉様は、もう用済みですもの」


ーーー

 

 空がオレンジになりかける夕刻に、

 私は、馬車に乗せられていた。

 

 ごとごと。揺れる。

 窓の外を見ると、段々と景色が変わっていく。

 街から、森へ。

 木が、どんどん増えていく。

 わあ、木がいっぱい。


「銀霧の森だ」

 父様が言った。

「古代から続く、神聖な森。魔力が強い場所だ」


 わあ…本当だ。

 霧が、濃い。

 ふわふわ漂ってる。

 幻想的で綺麗だけど…ちょっと怖い。


「お姉様」

 リリアーナちゃんが、心配そうに私を見た。

「大丈夫ですか?怖くないですか?」


「う、うん…ちょっと怖いけど…」

 正直に答えた。

「でも、呪いがなくなるなら…頑張る…」


「お姉様…」

 リリアーナちゃんが、きゅっと私の手を握った。

「私、お姉様のこと、応援してます」

 

 わあ、優しい。

 やっぱりリリアーナちゃん、いい子だな。


 馬車が、ガタンと止まった。

「着いたぞ」

 父様がぼそっと呟いた。

 

 外に出ると、そこは——。

 

 「わあ…すごい。」

 古い神殿が、霧の中に浮かんでいた。

 すごく古そう。石がぼろぼろになってる。

 でも、威厳がある。

 なんだか、神秘的。


「さあ、入るぞ」

 父様が、先に歩き出した。

 私は、ぷるぷる震えながら後に続いた。

 

 霧が濃い。

 足元が、よく見えない。

 満月が、ぼんやりと昇り始めてる。

 ああ…満月だ…。

 また、あの夜みたいに、何か起きちゃうかな…。


 神殿の中は、もっと不気味だった。

 中央に、大きな魔法陣が描かれてる。

 黒いローブを着た人が、何人か立ってる。

 魔術師さん…かな?


「準備はできている」

 一人の魔術師が言った。

「令嬢を、魔法陣の中央へ」


「エリシア、行け」

 父様が言った。

 私は、こくんと頷いて、ふらふらと魔法陣の中央に立った。

 足が、ぷるぷる震えてる。

 心臓が、ばくばくうるさい。


「それでは、儀式を開始する」

 魔術師が、呪文を唱え始めた。

 よく分からない言葉。

 古代語…かな?

 

 魔法陣が、ぼうっと光り始めた。

 おぉ…。

 綺麗だけど…なんだか、嫌な感じ…。

 魔力が、じわじわ流れ込んでくる。


 でも、この魔力——。

 温かくない。

 冷たい。

 すごく、冷たい。


「あの…これ…」

 私は、おずおずと言った。

「なんだか…変な感じが…」


「黙っていろ」

 父様が、鋭く言った。

 私は、びくっとして、口を閉じた。

 魔力が、どんどん強くなる。


 痛い…。

 体が、きしきし言ってる。

 これ…本当に、解呪の儀式…?

 なんか、違う気がする…。


 魔法陣の文様を、じっと見た。

 複雑な模様。

 でも、よく見ると——。

 あれ…?

 これって…。

 力を「消す」んじゃなくて——。

 もしかして、何かもっとヤバイことをしようとしている?


「待って…」

 私は、言った。

「これ…おかしい…」


「黙れ」

 魔術師が、冷たく言った。

 魔力が、さらに強くなる。


 痛い!

 体が、内側から引き裂かれるみたい!

「やめて…!」

 私は、叫んだ。

「これ、おかしい!呪いを消す儀式じゃないと思う!」


「気づいたのね」

 リリアーナちゃんの声。


 えっ。

 振り向くと、リリアーナちゃんが——冷たく笑っていた。

「お姉様。今更気づいても、もう遅いわ」


 その時だった。

 神殿の外から、何かの気配がした。


 濃い、殺気。

 すごく、すごく強い殺気。

 

 魔術師たちも、ぴたっと動きを止めた。

「何だ…?」

 父様が、警戒した声を出した。


 霧の中から——。

 赤い瞳が、ぎらりと光った。

 二つ。

 まるで、血みたいに赤い瞳。

 

 そして——。

 低い、唸り声。

 ぐるるるる…。

 獣…?

 いや、違う。

 もっと、もっと恐ろしい何か。

 赤い瞳が、じっとこちらを見ている。

 私を、見ている。


 なんだろう…。

 怖いはずなのに——。

 なんだか、安心する…?

 その瞳を見てると、不思議と落ち着く…。

 変だな…。


「まずい…!」

 魔術師の一人が、叫んだ。

「魔獣だ!逃げろ!」

 魔術師たちが、ばたばたと逃げ出した。

 父様も、継母様も、慌てて神殿から出て行く。


「エリシア!早く来い!」

 父様が叫んだ。

 でも、私は——。

 動けなかった。

 魔法陣に、足を取られてる。

 それに、魔力を使いすぎて、力が入らない。


「父様…!」

 手を伸ばした。

 でも、父様は——。

 振り返らなかった。

「置いていけ!急げ!」

 父様の声が、遠ざかっていく。


 ああ…。

 置いていかれた…。

 父様に、見捨てられた…。

 

 私は、その場にぺたんと座り込んだ。

 もう、立てない。

 

 赤い瞳が、近づいてくる。

 霧の中から、巨大な影が現れる。

 

 黒い、獣。

 すごく、大きい。

 でも——。

 怖くない。

 不思議と、怖くない。


 その獣は、私の前で止まった。

 そして——。

 優しく、私を見下ろした。


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